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友情は甘い果実である
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ミハイル王子に呼ばれ書斎へと伺うと、王子から一通の手紙を渡された。
「姉様からです」
「アマーリエ夫人が、私に?」
「はい。トルテさん、この間の舞踏会で、ご友人が出来たそうですね」
友人? 夫人がご紹介して下さったお二人のご令嬢のことだろうか。
「もしかして、アンジュ様とメープル様ですか?」
「はい。そのお二人が、お茶会にトルテさんをご招待したいそうです」
「お茶会……え? ご招待?」
手紙には招待状と書かれている。
「すぐにご友人ができるなんて、トルテさんはやはり凄い。せっかくですから、行かれてみては?」
「恐れながら、私のようなものが出向くなど……」
伯爵令嬢とただのメイドが、一体何のお話をするというのでしょう?
「これはトルテさんに届いた招待状なのですから、そう思い悩まずとも大丈夫ですよ。それでも気が乗らないのであれば、僕から姉様にお断りのお手紙を出しましょう」
いや、アマーリエ夫人が取り次いで下さったのです。ご好意を無下には出来ない。
それに、あのお二人とは、もっとたくさんお話したかった。
「いいえ。ご招待、光栄に存じます。謹んで、お受けいたします」
バラが咲き誇るグレイ家の庭園に、紅茶の香りが漂う。私はその庭園で、アンジュさん達とお茶を頂いている。
「舞踏会ぶりですわね。会いたかったです」
アンジュさんはにっこりと微笑みかけた。童顔で小柄、大人しい小動物のようで、とても可愛らしい。
「この度は、お招き預かり光栄です」
「もう、トルテさんったら堅いですわ!」
メープルさんは明るくて、一緒にいると元気を貰える。
なんて優雅な時間なんでしょう。
けれど王宮は大丈夫かな、リリー王女が心配だ。
「ねえ。トルテさんは、どんな殿方が好みなの?」
「え?」
「メープルさん。そんな事をいきなり聞くのは失礼よ」
「そんな事言って、アンジュさんも気になってるでしょう? あの舞踏会でミハイル王子と踊ったのは、アマーリエ様とトルテさんだけだもの」
そうだったんだ。すぐにバルコニーへ出たものだから気づかなかった。
「そこで私、気付いてしまいましたの。社交界に王子が珍しく現れて、ダンスのお相手をしたのはアマーリエ様の他に一人だけ。その相手は何と王宮のメイドだったの! そう!トルテさん、あなたは身分を偽って舞踏会に入り込んでいたメイドなのよ!」
ええ!? 何で、どうして!?
メープルさんに私の素性がバレているの?
「な、何をおっしゃって……」
私、いきなりピンチかもしれません。
「身分違いの恋、決して結ばれる事のない二人の恋。けれど、二人は一夜だけ、舞踏会で結ばれたのです!」
メープルさんは、舞台女優の語り口調のように話す。
「ごめんなさい。気にしないで下さいね、トルテさん。メープルさんは、流行っている小説の、身分違いの恋にご執心なのです。物語と現実が分からなくなってしまった、ちょっと可哀想な方なの」
熱弁しているメープルさんの横で、アンジュさんは紅茶を飲む。
可愛い見た目なのに、アンジュさん、意外に辛辣だ。
「アンジュさんはロマンがないですわね。ねえ? トルテさん?」
苦笑いしかできない。なぜなら、ほぼ当たっているからです。
「メープルさん、よかったらその小説、教えていただけませんか? 読んでみたいです」
そう言うと、メープルさんは目を輝かせて嬉しそうに笑う。
「ええ! もちろん! 私の家にたくさんありますから、今度お招きいたしますわ! 今からでも!」
「ちょ、ちょっと! 二人で約束なんてズルいですよ!」
ティーカップを持ちながら、アンジュさんが眉を寄せ声を上げた。
「アンジュさんは、お得意の刺繍でもしていればいいんだわ」
刺繍?
「アンジュさんは刺繍がお得意なのですか?」
「え……た、嗜む程度に……」
アンジュさんは頬を染めながら、目線をそらす。
あら?
ふと、アンジュさんの手元のハンカチに目がいく。それには見事なバラの花が刺繍してあった。
「それも、アンジュさんがご自分で?」
「は、はい」
「少し見せてもらっても、よろしいですか?」
「え? はい。ど、どうぞ」
なんて繊細なんだろう。とても丁寧で、思いやりを感じる。
「とっても綺麗です。それに、温かさがあって……ああ、私もこんなふうに出来たら……」
つい自分の世界に入っていってしまった。
変な事を言ってなかったかと見れば、アンジュさんは、目を丸くしていた。
「すみません! あまりに素敵で、つい見惚れてしまいました」
「そんなに褒めていただけるなんて。嬉しいです」
そう微笑むアンジュさんは、本当に可愛らしい。
「あの……よければ今度、私が刺繍したハンカチを差し上げても……構いませんか?」
「いいんですか! 欲しいです! おいくらでしょう!?」
「えっ? いえ、このようなものでよろしいなら、いくらでも差し上げますわ」
アンジュさんは、ぽかんとした後に優しく笑っていた。
どうして笑っているのか分からなかったけれど、私も何だか楽しくなって、一緒に笑ってしまった。
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