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お相手
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剣を手渡されて、ハウゼン閣下と広いフロアで向かい合う。
相手って……剣のお相手ということ?
「あ、あの。これは……」
まさか、あのハウゼン様に対戦お相手を頼まれるなんて思ってもいなかった。
「どうぞ、遠慮なく来て下さい」
ハウゼン様はにこっと笑う。
遠慮もなにも。私がハウゼン様の相手になるはずが無い。
「ハウゼン様。恐れながら、これはいったいどういう事なんでしょう」
「あなたは、学校での剣術の成績も優秀だと伺いました」
「そ、そんなことは……」
「謙遜なさらないでも、知っていますよ」
目の前にいるのは剣の名士、ハウゼン閣下。まともに相手が出来るのは、王宮ではノア様くらいでしょう。
いいや。この国では、と言ってもいい。
「トルテさんはリリー様の近くにいる。教育係といっても、いざと言う時にお守りするのは貴女です。こういう手合わせも無駄では無いでしょう」
「……そうですね」
「もちろん、練習です。気軽に来てください」
笑顔が眩しい。
でも、これもいい経験になるのは間違いない。ハウゼン様のお相手なんて、剣士の誰もが羨むものだもの。
それに、ハウゼン様の言った通り私がリリー王女をお守りしなくてはならない。
「はい」
剣を持つのなんて、久しぶり。ほんとに、養成学校での授業ぶりだ。
主人のおそばに居るのなら、主人をお守りする術も身につけなくてはならない。それは、剣術の教師の言葉。
「さぁ、どこからでも」
「お、お願いします!」
私は深呼吸をしてから、素早くハウゼン様へと斬りかかっていった。
私の剣を閣下は簡単に受け止め、キンッという大きな金属音がなった。
全力で立ち向かう私に比べて、顔色ひとつ変えないハウゼン様。
「いい動きですね」
ハウゼン様は、笑顔で話す余裕もある。
実力は分かりきっていたけれど、いざ剣を交えると、勝ってみたいと思ってしまう。
どの角度からの攻撃も、やはり簡単に受け流される。
「その調子です」
それに、ハウゼン様は私の剣を受け止めるだけで、全然攻撃してこようとはしない。
「はぁ、はぁ……」
早く息を整えないと。いや、ダメだ、そんなことは許してくれそうにない。
ハウゼン様には隙がなく、無駄な動きが一切ない。人って、こんなに隙がないもの?
ハウゼン様は、まったく息が切れてない。
「ひあっ! しまっ」
一瞬の隙で、私は握っていた剣を吹き飛ばされてしまった。
その力強さに、思わず尻もちをついてしまう。
「何か考え事ですか?」
ハウゼン様は剣を鞘へ戻すと、優しい声でしりもちをついた私に手を差し伸べてくれた。
こんな事、前もあった。あの舞踏会の時と、同じだ。
ノア様が剣を向けてきて、ハウゼン様が手を差し伸べてくれた。
「すみません……」
私は、あの時と同じくハウゼン様の手を取って立ち上がった。
「あなたの剣は真っ直ぐで、純粋ですね」
「え?」
「勝ちたい、という気持ちが伝わってきました」
なんだか恥ずかしい。
剣士って、相手が思っていることを当てれるのだろうか。それとも、ハウゼン様だから?
「それは良い事ですよ。でも、不思議とあなたの剣には優しさを感じる。けれど、なぜ魔力を使わなかったのです?」
「私は、相手を攻撃する魔法は使えないのです……」
「え?」
「おかしいですよね」
「……いや。トルテさんとの手合わせは、とても楽しかったです」
ハウゼン様は、にこっと微笑む。
「ハウゼン閣下」
フロアにそう呼ぶ声が響く。
その声の方を見ると、ミハイル王子が立っていた。隣にはノア様もいる。
「ミハイル王子っ」
ハウゼン様はすぐに胸に手を当て頭を下げる。私も慌ててスカートを持ちお辞儀をする。
どうして王子がこちらに?
相手って……剣のお相手ということ?
「あ、あの。これは……」
まさか、あのハウゼン様に対戦お相手を頼まれるなんて思ってもいなかった。
「どうぞ、遠慮なく来て下さい」
ハウゼン様はにこっと笑う。
遠慮もなにも。私がハウゼン様の相手になるはずが無い。
「ハウゼン様。恐れながら、これはいったいどういう事なんでしょう」
「あなたは、学校での剣術の成績も優秀だと伺いました」
「そ、そんなことは……」
「謙遜なさらないでも、知っていますよ」
目の前にいるのは剣の名士、ハウゼン閣下。まともに相手が出来るのは、王宮ではノア様くらいでしょう。
いいや。この国では、と言ってもいい。
「トルテさんはリリー様の近くにいる。教育係といっても、いざと言う時にお守りするのは貴女です。こういう手合わせも無駄では無いでしょう」
「……そうですね」
「もちろん、練習です。気軽に来てください」
笑顔が眩しい。
でも、これもいい経験になるのは間違いない。ハウゼン様のお相手なんて、剣士の誰もが羨むものだもの。
それに、ハウゼン様の言った通り私がリリー王女をお守りしなくてはならない。
「はい」
剣を持つのなんて、久しぶり。ほんとに、養成学校での授業ぶりだ。
主人のおそばに居るのなら、主人をお守りする術も身につけなくてはならない。それは、剣術の教師の言葉。
「さぁ、どこからでも」
「お、お願いします!」
私は深呼吸をしてから、素早くハウゼン様へと斬りかかっていった。
私の剣を閣下は簡単に受け止め、キンッという大きな金属音がなった。
全力で立ち向かう私に比べて、顔色ひとつ変えないハウゼン様。
「いい動きですね」
ハウゼン様は、笑顔で話す余裕もある。
実力は分かりきっていたけれど、いざ剣を交えると、勝ってみたいと思ってしまう。
どの角度からの攻撃も、やはり簡単に受け流される。
「その調子です」
それに、ハウゼン様は私の剣を受け止めるだけで、全然攻撃してこようとはしない。
「はぁ、はぁ……」
早く息を整えないと。いや、ダメだ、そんなことは許してくれそうにない。
ハウゼン様には隙がなく、無駄な動きが一切ない。人って、こんなに隙がないもの?
ハウゼン様は、まったく息が切れてない。
「ひあっ! しまっ」
一瞬の隙で、私は握っていた剣を吹き飛ばされてしまった。
その力強さに、思わず尻もちをついてしまう。
「何か考え事ですか?」
ハウゼン様は剣を鞘へ戻すと、優しい声でしりもちをついた私に手を差し伸べてくれた。
こんな事、前もあった。あの舞踏会の時と、同じだ。
ノア様が剣を向けてきて、ハウゼン様が手を差し伸べてくれた。
「すみません……」
私は、あの時と同じくハウゼン様の手を取って立ち上がった。
「あなたの剣は真っ直ぐで、純粋ですね」
「え?」
「勝ちたい、という気持ちが伝わってきました」
なんだか恥ずかしい。
剣士って、相手が思っていることを当てれるのだろうか。それとも、ハウゼン様だから?
「それは良い事ですよ。でも、不思議とあなたの剣には優しさを感じる。けれど、なぜ魔力を使わなかったのです?」
「私は、相手を攻撃する魔法は使えないのです……」
「え?」
「おかしいですよね」
「……いや。トルテさんとの手合わせは、とても楽しかったです」
ハウゼン様は、にこっと微笑む。
「ハウゼン閣下」
フロアにそう呼ぶ声が響く。
その声の方を見ると、ミハイル王子が立っていた。隣にはノア様もいる。
「ミハイル王子っ」
ハウゼン様はすぐに胸に手を当て頭を下げる。私も慌ててスカートを持ちお辞儀をする。
どうして王子がこちらに?
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