Vegetables

二一

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Vegetables―スピンオフ―

Starting happiness 12

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 肯定の合図にと律の指がネクタイの結び目を引っぱった。

 お返しにと後ろ手に引いた律のネクタイは、角度がまずいのかうまく解けない。

「律、ちょっと腕離せよ」

 相変わらずホールドされたままの腕を軽く小突いて文句を言う。いっつも思うことだけどおれだけが脱がされるのは何だか納得がいかないんだ。

「っおいって――」

 おれの言葉は完全に聞こえない振りの律が腕を絡めたままでシャツのボタンを外し始めている。

 2つ3つ分がはだけた所でいったん止まった律の指が襟元から鎖骨を柔らかく撫でた。

 ――うわっ……。

 思わず出そうになった声を押し込み息を止めた。そんなおれに気付いたのか軽く襟を引いた首筋に唇が押し当てられる。

「……っん……律って――ちょ……やめ」

 押し退けようとする手は簡単に封じられ、舌を這わされると堪らず息が上がってしまう。頚動脈をなぞりあげるように這わされた舌先が耳たぶまで到達すると、歯を立て軽く甘噛みされる。わざと音をたてるキスと交互に繰り返され耐え切れず律の腕にしがみ付いた。

「俺の楽しみを奪うなよ?」

 楽しみって脱がすことがかよ――文句を言いたいけど口を開いたってまともな言葉にならないことなんて明白で、おれは一層固く唇を噛んだ。

 僅かに緩んだ律の腕の間にジャケットが滑り落ちた。

 シャツごしに感じる体温が急に高くなる。

 熱を孕み潤んだ目に映る律はいつの間にかおれと同じシャツ1枚になっていた。悔しくて再度そのネクタイを強く引っぱってやる。

「コレが欲しいのか?」

 律の手がおれ指ごと自らのネクタイを引き抜いた。長く伸びたネクタイをくるりと絡ませ――って……。

「っちょっと待て! 律!」

 律の胸元を飾っていたネクタイがおれの両腕に絡みつく。幾重にか巻きついたソレは驚くほど頑丈に両手の自由を奪った。

「千章、俺の楽しみ奪うなって言ってるだろ? 大人しく脱がされろ」

 淡々と宣言したそのままにシャツも肩から落とされ、ネクタイで固定された腕と腰の辺りで静止して更におれの動きを制限する。

「律、解けよ……」

 戸惑いが先に立ちなんとも情けない嘆願が口をついて出た。

「千章、キス」

 言い終わらないうちに頬を捕らわれ振り返るように律と向き合わされる。不自由な体勢のままに塞がれた唇――。

「ん――ぁ……」

 息もつけないほどに強く合わされた唇越しに侵入し、絡め取られる。

 苦しいほどのキス――だけどそれが気持ちイイ……。

 律からのキス……。

「あ……は・ぁ――ん……っ」

 小さく響く唾液の音に身体の芯がぞくりとする感覚。

 ふと横目に、鏡に映る自分と目が合った。

 っんだよ――あの顔――っ。

 恍惚の表情を浮かべる自分の姿に羞恥の余り熱が上がる。

「ん・んんっ――!」

 意識が逸れたおれに気付いたのか律の両手が頬を挟み視界を塞いだ。

「こっちだけ見てろ……」

 言われるまでもなく、もうどうやったって律の顔しか見えない――。

 自由にならない腕がもどかしい。僅かに震え始めた膝に、いつもなら律へと回すはずの手が動かせないまま身体が崩れ落ちる錯覚に囚われた。

「律――頼むから……コレ――」

 不自由な腕を持ち上げ、解放を求める。

 こんなのは嫌なんだ――おれはおれの意思で律と抱きあいたいんだから。

「嫌か?」

 相変わらずの背後からまわされた律の手が晒された素肌を這っている。ぞくりとする感覚に捕らわれながらも必死に頷いてみせた。

「逃がしたくねぇんだけど――」

 なんだよソレ……――。

 肌を這う手が静止し、両腕が巻きついた。律自身が拘束具のようで全く身動きがとれなくなる。

 でも律に捕まるのは嫌じゃない。

「おれが逃げると思ってんのか?」

「――今はもう思ってねぇな……それでも繋いでおきたいってのは変か?」

 熱を持った言葉が耳から侵入し、体内の熱を一気に上昇させる。

「変じゃない……おれだってそんな時あるし――」



 ――けど……。
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