Vegetables

Vegetablesー２ー

祝！ 就職 ３

「佐倉です。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく」

　由乃屋の社長は温和な笑みをいつも崩さない人だ。しゃべってると落ち着くというか。この人がやってた旅館で働いてみたかったな、と少し残念に思う。

　「由乃屋」は商店街の中心に二十坪ほどの敷地をもつ小料理屋として再出発することになった。営業時間は午前十一時から午後二時、休憩が入って、午後五時から午後九時までだ。定休日は水曜だけど、俺は労働基準法に則って、水曜以外にも休日がもらえることになっている。

　調理場は社長と俺、配膳は社長の奥さんが担当する。もちろん小さな店だから、忙しくなれば俺も表を手伝うことになる。

　奥さんも社長にそっくりのおっとりした人で、制服代わりの着物がよく似合っていた（元は女将なんだから当たり前か）

　飲食店ということで俺は散髪にも行って少しスッキリしていた。調理場の白い制服を着ると一気に緊張が高まる。

　俺にはこれが社会人としての第一歩なんだ。




　開店前の一週間は段取りを確認したり、メニューの構成を再確認したりと穏やかに過ぎていった。社長も奥さんも本当にいい人で、俺はいい職場にめぐり合えたなぁとつくづく思った。

　俺の分担はというと、なんと昼営業の一品を任せてもらえることになった。いわゆる日替わりランチというやつだ。最初のうちは社長と一緒にメニューを考えるが、ゆくゆくは一人で――とまで言ってもらえた。

　社長に俺の料理を認めてもらえたことがとてもうれしい。

　ちなみに野菜など青果の仕入れは葛西商店だから、律とはほぼ毎日顔を合わすことになる。なんとなく照れくさい――。