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Vegetablesー2ー
絶体絶命 2
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律をここまで怒らせている理由は昨日のことだ。つまり土曜日の話。
一ヶ月前に律と、いわゆる恋人同士になってから、比較的穏やかに日常は過ぎていた。悩むだけ悩んだ俺は、決めてしまえば意外と順応力があったようだ。
そのときの俺は十一月から就職が決まっていて、最後の自由な一週間を満喫していた。
昨日の土曜日、律は商店街の青年部の寄り合いがあるとかで出かけていて、俺は家でゆっくり過ごしていた。インドアな俺は用がなければ大抵は家にいる。
問題が起きたのは夜の、というか夕方の六時ごろ。隣の部屋で電話をしていたらしい美晴が、すさまじい勢いで俺の部屋に入ってきて始まった。
――というか、仮にも男兄弟の部屋に入るなら、ノックするとか声くらいかけろよ。
「千章! 今晩ヒマ?」
「ヒマじゃない!」
美晴の尋常じゃない勢いに、面倒ごとの予感を覚えて、俺は咄嗟にうそをついた。実際はまったく以ってヒマなんだけど。
「うそ! どー見てもヒマそうじゃない!?」
「こう見えても忙しいんだよ」
「じゃあ、それでもいいから、今晩ちょっと付き合って!!」
「はあ!? 意味わかんねぇ!」
ヒマかどうか聞く意味ってあったのか? というより、嫌な予感がむちゃくちゃするんだけど――。
「一応、聞いてやるけど、なにに付き合えって?」
「え~と……飲み会? みたいな」
美晴の目が泳いでる。こいつ絶対ごまかしたな。
「へぇ……飲み会ねぇ……」
思い切り不審な目を向けてやった。
「飲み会……みたいな……合コン?」
「なんで俺が美晴の合コンに付き合うんだよ」
「付き合うっていうか……参加?」
参加? 合コンって普通、自分の兄弟を誘ったりしないだろう。
「今日来る予定の子が一人、急に来れなくなって、どうしても人数が足りないの!」
「…………」
「……だからね、千章、女の子の振りして参加して?」
美晴は顔の前で両手を合わせて、かわいらしく首をかしげてみせた。その仕草にやられる男がいることは認めるが、本性を知り尽くしている兄弟に通じるわけはないだろう。
「絶・対・い・や・だ」
美晴の顔を正面から見て言い切った。もう二度と女装なんてしないと決めているんだ。しかも前回は事情が事情で仕方なくだったけど、合コンって明らかに無理があるとわからないのだろうか。
「千章、ほんと一生のお願い!! 今日の相手って小塚製薬の男なの! 一流企業よ?」
「それ、俺に全く関係ねぇし」
「かわいい女の子もいるから!」
「いるからどうしろってんだ!?」
「あたしがこんだけ頼んでんのよ? 恩売るチャンスよ?」
「ぜっったいに、嫌だ!!」
冗談じゃない。女装してこともあろうか、見知らぬ男の前でにこにこしてろって、一体なんの拷問だよ。
「へぇぇ……ここまで頼んでもダメなんだ」
美晴の目が据わってる。しかも「ここまで」頼まれたようには全然思えない。
一ヶ月前に律と、いわゆる恋人同士になってから、比較的穏やかに日常は過ぎていた。悩むだけ悩んだ俺は、決めてしまえば意外と順応力があったようだ。
そのときの俺は十一月から就職が決まっていて、最後の自由な一週間を満喫していた。
昨日の土曜日、律は商店街の青年部の寄り合いがあるとかで出かけていて、俺は家でゆっくり過ごしていた。インドアな俺は用がなければ大抵は家にいる。
問題が起きたのは夜の、というか夕方の六時ごろ。隣の部屋で電話をしていたらしい美晴が、すさまじい勢いで俺の部屋に入ってきて始まった。
――というか、仮にも男兄弟の部屋に入るなら、ノックするとか声くらいかけろよ。
「千章! 今晩ヒマ?」
「ヒマじゃない!」
美晴の尋常じゃない勢いに、面倒ごとの予感を覚えて、俺は咄嗟にうそをついた。実際はまったく以ってヒマなんだけど。
「うそ! どー見てもヒマそうじゃない!?」
「こう見えても忙しいんだよ」
「じゃあ、それでもいいから、今晩ちょっと付き合って!!」
「はあ!? 意味わかんねぇ!」
ヒマかどうか聞く意味ってあったのか? というより、嫌な予感がむちゃくちゃするんだけど――。
「一応、聞いてやるけど、なにに付き合えって?」
「え~と……飲み会? みたいな」
美晴の目が泳いでる。こいつ絶対ごまかしたな。
「へぇ……飲み会ねぇ……」
思い切り不審な目を向けてやった。
「飲み会……みたいな……合コン?」
「なんで俺が美晴の合コンに付き合うんだよ」
「付き合うっていうか……参加?」
参加? 合コンって普通、自分の兄弟を誘ったりしないだろう。
「今日来る予定の子が一人、急に来れなくなって、どうしても人数が足りないの!」
「…………」
「……だからね、千章、女の子の振りして参加して?」
美晴は顔の前で両手を合わせて、かわいらしく首をかしげてみせた。その仕草にやられる男がいることは認めるが、本性を知り尽くしている兄弟に通じるわけはないだろう。
「絶・対・い・や・だ」
美晴の顔を正面から見て言い切った。もう二度と女装なんてしないと決めているんだ。しかも前回は事情が事情で仕方なくだったけど、合コンって明らかに無理があるとわからないのだろうか。
「千章、ほんと一生のお願い!! 今日の相手って小塚製薬の男なの! 一流企業よ?」
「それ、俺に全く関係ねぇし」
「かわいい女の子もいるから!」
「いるからどうしろってんだ!?」
「あたしがこんだけ頼んでんのよ? 恩売るチャンスよ?」
「ぜっったいに、嫌だ!!」
冗談じゃない。女装してこともあろうか、見知らぬ男の前でにこにこしてろって、一体なんの拷問だよ。
「へぇぇ……ここまで頼んでもダメなんだ」
美晴の目が据わってる。しかも「ここまで」頼まれたようには全然思えない。
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