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第2章 主要人物として

第59話 「帰省、英雄の妹」

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 実家に帰って早々にドロシーに送られたのは歓迎ムードではありませんでした。
 理由は言わずとも見当は付きます。
 きっと英雄リュートとの関係に関してでしょう。
 無論、両親も怒り心頭。

 せっかくの幼馴染の想いを無我にする馬鹿がいるだとか、あんないい男他にはいないと勝手なことを言ってきます。
 例え、幼馴染であろうと嫌なものは嫌。
 長い間、ため込んでいた想いを全部、両親にぶつけ、ドロシー言い返しました。

「学院に通ったのが原因なのね! じゃないと、あなたがそのような横暴な態度をとるはずがない、チャラチャラした男に惑わされたのでしょ! そうなのでしょ!?」
「違うわよ、ちゃんとした恋人ですもん」
「まあ信じられない! あなたにリュートという完璧な人がいながら! 不純よ!」

 他に恋人がいることも明かしました。
 すると、両親は予想通りさらに激情して詰め寄ってきます。
 父親も苛立っているのか、髪の毛をかきむしっていました。

「これは私の人生だから、好きに選んだっていいじゃない。勝手に決めないでよ!」
「ドロシー! 母さんになんてことを言うんだ!」

 父が椅子から勢いよく立ち上がり、ドロシーの頬を叩こうとしました。
 初めて親父にぶたれることになりますが、一般人の殴りなど彼女には静止しているに等しいです。
 適当にかわし、父親をビンタしました。
 意外と脆かったので一発で沈黙しました。
 男の威厳とやらを崩壊させるには十分すぎます。

「母さんこれだけは聞いて」

 ドロシーは一旦、冷静になり母親に悲しそうな眼を向けました。
 両親にも隠していた事実だ、半分自分にも原因があることを彼女は自覚していました。
 黙っていたことを吐き出そう。

「私、昔からリュートが嫌いだった。大っ嫌い。人の損得も考えられない自己中な人が一番嫌いよ。英雄だがなんだか知らないけどね、幼馴染だから一番分かっていることもあるのよ? その人の良いところや、悪いところもね」

 世界をともに巡った中だからこそ言えるのでした。
 大勢の人を救った、その事実にしか目を向けない人間があまりにも多い。
 戦争で故郷を失い、難民になって亡くなった人も多いというのに彼は魔王を打倒しただけで、その後は何もしないのです。
 小さな町や村が戦争で犠牲になったことも知らずに何もかもが解決したと言うのです。
 本当に自分が正義であることを公言したいのなら小さな芽も救うべきではないのか?

 だというのに大した努力をすることもなく地位を手に入れて自分だけのうのうと暮らしている。
 学院に通う暇があるのなら、他にある課題も片付けるべきではないでしょうか。

「あの人は私の大好きな人をも傷つけた……それだけは許せないわ」

 なにが英雄か、とドロシーは内心思うのでした。
 それを聞いた母は、理解したのかは分かりませんが、とても気の毒そうな顔をしました。

 もうこんな家には帰らない。
 そう決めたドロシーは荷物を纏めて家を出ました。
 母親が何度も謝り止めようとしますが、彼女には聞く耳はもうありません。

 最悪の帰省だ。
 両親と喧嘩別れをするとは最悪な娘だ、とドロシーは思いました。
 帰らなければよかったと後悔しても遅い。
 思いつめた顔をしながら村を出るために歩いていると。

 突然、同世代ぐらいの黒髪の女の子に呼び止められました。

「……っ」

 道の先で両腕を組み、仁王立ちをしていました。
 鋭い目つきで睨まれ、相変わらずな態度にドロシーは懐かしさすら覚えました。

「あら、久しぶりじゃない、ティファナちゃん」
「ええ……本当にお久しぶりですね、ドロシーお姉さん」

 会いたくもなかったリュートの義妹のティファナでした。


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