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第2章 主要人物として

第31話 「成果ゼロ」

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「記憶がないだぁ!?」

 不快な声を漏らすのは我らが学院長である。執務机で書類に目を通している途中だったがリールの成果を聞いて思わず声を漏らしていた。
 今朝、ヘリオスに絡んだ三年から五年の悪ガキどもからありえない発言を聞いたからだ。

「はい、生徒会の管理している牢屋で話を伺いましたが全員本当に知らないみたいです。依頼を受け、ヘリオス様に危害を加える部分だけの記憶が切り取られたようでした」
「ぐぬぬぬ……小癪な手法を用いりやがって」 

 更にロベリアが唸る。助手のリールは読心術をも得意にしている。その実力は凄腕の心理学者並みだ。常にポーカーフェイスをしているのも相手に自分の心を読み取らせないためである。

 だというのに成果がないとは妙な話だ。
 悪ガキどもがリールと対抗するぐらいのポーカーフェイスを得意としているのか、それとも魔術の類が関係しているか。もっとも考えられるのは後者の方だが。
 その首謀者が誰なのかという証言をしてくれる者がいなければ不利な状況であることが覆されない。

「依頼した人物、相当な策士だな。痕跡を確実に掻き消すため手の込んだことを……これを実行できるのは並みの生徒では不可能だ」
「同感です」
「しかし、なにか引き出せるかもしれない。引き続き悪ガキどもの尋問は任せる。確実に分からないようであれば解放しろ。奴らの退学手続きはその間済ませる」

 記憶がないにせよ元々学院の問題児どもだ、最初から容赦するという発想がロベリアの頭の片隅には無かったので手っ取り早く退学処分だ。

「……なぁ、リール」
「はい」

 用が済み立ち去ろうとしたリールをロベリアが呼び止める。上司の呼びかけに応じるためリールは足を止めた。

「単刀直入に問うが、お前はヘリオスを見てどう思った?」

 訊かれたリールが目をそらした。ロベリアが話している時に絶対にしない行為だ。それほど心を揺らがせているのかがロベリアにも分かっていた。
 意表を突けば例え感情の抑制が得意な相手であろうと予想外な行動をとってしまう。
 万国共通だ。

「一目彼を見て、深傷を抉られるような気分でした」
「ほう……何故だ」
「似ていたからです、私の亡き兄に。だけど期待外れでした。まったく似ていない、性格もなにもかもが決して交わらないほど乖離していました」

 彼女の声には怒りが混じっていた。それほどまで憎いのかと、ピリピリとした空気の中で話をふったロベリアは多少の罪悪感を覚えるのだった。

「しかし命令であれば彼を守りましょう。最善は尽くしますが失敗の可能性もあるので了承お願いします。では……」

 意味深な言葉を残しリールは学院長室から出ていった。残されたロベリアは厄介な展開に溜息を吐くしかなかった。彼自身もリールの兄に繋がりのある人物の一人だ。彼は好青年で誰からも認められる人格者だったが四年前、世界の存亡をかけたある戦いで彼は死んだ。

 ロベリアとマギア、リールとその他大勢が悲しみで打ちひしがれるほどの出来事だった。もう過去のだというのに誰一人も拭えないままである。
 ヘリオスを若干贔屓してしまっていたのは彼の姿を重ねてしまったからかもしれない。もしも本当にヘリオスが彼に似ているのならば、何かしら世界をひっくり返るほどの出来事が起きるかもしれない。

 ———ロベリアはよく当たる予感に襲われていた。
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