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第2話 「死罪の宣言」
しおりを挟む目を覚ましたのは自身の部屋。
昨日の出来事を忘れたわけではない。
思い出すだけで大量の汗が流れてしまう。
起き上がり洗面所の鏡を見る。
「……ずいぶんとひどい顔だな」
過労死寸前の浪人のようだ。
エドナの俺への想いは消えた、アベルに惹かれてああなっただけ。
仕方ないと割り切れるほど心は鉄壁ではない俺は、まず浮かんできた疑問符に答えを探す。
敵対するアベルに呼ばれた理由。
エドナがあの部屋にいた経緯。
いつからなのか、つい最近エドナとデートをしたばかりだ。
だめだ、情報がちぐはぐしている。
考えば考えるほど胸が苦しくなってきた。
なんとか支度を終え部屋から出ようとしたその時、扉が叩かれる。
「なんだ、どうかしたのか?」
扉を開ける。
外には完全武装をした兵士が複数人待ち受けていた。
「貴様がカリヤだな!」
左右から挟まれるように捕まれ床へと叩き落とされる。
意味のわからない状況に抵抗をしようと両手に力を込めるが、拘束具のような物で拘束されていた。
「くっ! なんなんだお前らは!」
「黙れ犯罪者が! 大人しく同行してもらうぞ」
「犯罪だと? 誰が……」
「カリヤ・ゼロ。貴様に公爵令嬢様への強姦の容疑がかけられている!」
兵士に告げられたのは信じられない冤罪だった。
昨晩から色々なことが起きすぎて頭の中の容量が限界を迎える寸前である。
連行された先は謁見の間。
マグノリア王国、国王エリダヌス・マーキュリー陛下の前に跪かせれる。
「国王陛下よ、これはどういうことなのですか! 見覚えのない罪の容疑をかけられて——」
思わず押し黙ってしまう。
この場にはエドナとアベルもいたからだ。
騎士団長のライアンさんも訝しい表情でこちらを睨みつけていた。
まるで犯罪者に向ける眼差だ。
「カリヤ・ゼロ。お主の国への貢献は度々耳に入っていた、清き騎士であり時期『聖騎士』として期待されておったのに実に残念だ」
国王陛下の威圧のまじった声に狼狽してしまう。
このお方のためにいつしか役に立てるような、誉れある騎士になろうと尽力したというのに。
憧れの存在にさえ侮蔑の視線をむけられるというのか。
「……私が何をしたというのですか! 公爵家の令嬢との面識が私には一切ございません! この場に連れてくだされば冤罪であることを証明できます!」
誰かの流した虚言であれば公爵令嬢も俺の罪状を否定してくれるかもしれない。
「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!」
そこで急にアベルが混ざってきた。
そもそも何故こいつが此処にいるのかも謎だ。
だが国王陛下からの注意はなく、アベルは言葉を続けた。
「カリヤ、てめぇの罪を忘れるだけじゃなく襲った幼気《いたいけ》な女性のことも忘れたってのか。化けの皮が剥がれたなぁ」
見下しながら好き勝手いうアベルに飛びかかり殺してやりたい気分を抑え込みながら問う。
「じゃあ答えろよ! 俺が一体だれを襲ったっていうんだ!」
隣にいるエドナが唐突に泣き崩れた。
アベルは彼女を支えながら劇的に言い放つのだった。
「公爵家令嬢エドナ・ルイ・コディントン様をお前は自身の欲求を満たすために辱めたんだ! この外道が!」
その公爵家令嬢こそが、かつて俺が救い恋仲になった少女エドナだった。
エドナが姓を頑なに隠していた理由。
聖騎士試験間近でアベルの過剰な嫌がらせ。
時期聖騎士として期待されていた。
そして、あの夜。
あ、全部……計画的だったというのか。
俺を完全に陥れるために最初から。
アベルを聖騎士にする為もっともその実績に近い俺を犯罪者に成り立たせ、協力者以上の関係であろうエドナに証言をさせてアベルに救われたことにする。
そうすればアベルが聖騎士となり。
俺が犯罪者になる。
『後に分かること』がこういうことだったなんて。
名高い貴族を襲うというのは万死に値する。
俺を殺せば証拠は永遠に闇に葬られ、そうなればアベルらはこの先優雅な人生を約束されるだろう。
「罪人カリヤ・ゼロ、貴様を死刑とする」
国王陛下に死罪を宣言された。
尊厳も信頼も何もかもを奪われ、死を告げられた俺は不敵に笑うエドナを初めて醜く見えていた。
この女とは最初から関わらなければ良かったと、いまさら後悔をしても遅かった。
その後、幽閉された俺は着々と近づいてくる命日にただひたすら怯えることしかできなかった。
———さて、私の番がやってきたか。
ことの経緯をすべて傍観していた『魔女の森』の番人が意味深に呟くのだった。
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