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第14話 「預言者の棲む村」

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 ———知るべきなのは未来ではなく、現在《いま》だ。





 私の名前はシズ。ド田舎の村に住む村娘だ。
 肩まで伸びている黒のボブヘア、青い瞳を持っている。
 村での私の仕事は収穫期前の野菜の面倒を見ること、家の家事や弟や妹の面倒を見ることだ。

 いつもの日常。
 いつもの平穏に私は飽きていた。
 いや、忘れることに飽きていたのかもしれない。

 今年で私は12歳だ。
 あの子と会えなくなってから4年経つというのに、忘れようと決めたのに。
 今もこうして思い出してしまう。

「ねぇ、シズ姉!」

 仕事をしている途中、弟が畑にやってきた。
 友達たちと遊んでいたのに、もう帰ってきたのか。
 いや、様子がいつもより明るかったので何か良いことでもあったのだろう。

「どうかしたの? 私まだ仕事中だからおやつは用意できないよ」

「違う、違う! おやつも欲しいけど、それよりも村の南口に来なよ!」

「あのね、話聞いてなかったの……」

「旅人がやってきたんだよ!」

 弟の言葉で私は手を止めた。
 誰なのだろうか、なんてどうでもよかった。
 私は仕事を放り出し、弟を置いていき村の南口を目指す。

 すでに人だかりが出来てい構わない。
 混雑の中、強引に人をかきわけながら先頭へと急ぐ。
 その先には旅人の男女が二人。
 魔術師と剣士の二人だ。

 魔術師の女性はホウキの上にのって浮いており、田舎の私たちの目から見たら異常現象に等しい。

「旅人さん! 旅人さん!」

 声を張り上げるも群衆には勝てない。
 両サイドから挟まれ、後ろへと押し戻されてしまう。

 一生のお願いがあるというのに。
 あの子を、あの子を助けてほしいのに。
 私の声は大勢の人たちによってかき消されていた。




 ————





 旅を開始してからニヶ月。
 マグノリア王国や騎士団からの追跡を逃れるため、人目の多い大都市や国はなるべく避けるよう旅をしている。
 旅人と名乗り宿に泊まっては、偽名であるホロウを称して素性を隠している。

 そして次にやってきた村は、遠くから見たら絶景な山の麓に位置していた。
 涼しく草木が揺れる緑の大地に建つ家屋、それそのものが芸術的な絵画のように見えた。

 村の住人らも平和町ほどではないが、大事のように歓迎をしてくれた。

「まさか一軒家に泊まれとは思わなかったな」

 空いたスペースに私物を並べながらアビゲイルさんは言った。

「他の国に移住する家族、旅人に憧れて村を出たりする人、色んな理由で空けている家が多いらしいですよ」

 先ほど村長に聞いた話を思い出す。
 故郷への思い入れよりも自分が思い描く未来に向かうからこそ、祝福が訪れる。

 ふむ、と似合わない声が漏れた。

「この村の人らは未来という言葉に固執しているように感じませんか?」

 自分だけかと思ったらアビゲイルさんは同意するように頷いた。

「荷物を置いてきたら村の中央部に来るようにと村長に言われたな。私は研究があるんでな、悪いがカリヤ一人だけで行ってくれ」

「言われなくても」

 想像していた通り。
 アビゲイルさんは相変わらず、訪れた国の行事や伝統に興味がなさそうだ。

 約束通りの場所に行くと、まだ明るい昼時だというのに黒衣を着た複数人の男女と村長が待っていた。
 特にそれについて疑問を口にしたり、反応を示さないようにしながら、

「これを着てください」

 渡された黒いフード付きの服装を着る。

 そこから神殿に案内された。
 地中へと繋がる人工的に作られた階段を降りる。
 壁に設置された松明が暗闇を照らしてくれていたが、どこか不気味だ。
 壁には文字のようなのが刻まれていたが読めない。

 最深部の広間に到着すると、そこには松明が設置されておらず俺らが入ってくるまでは暗いままだ。
 黒衣を着た男が松明で空間を垂らし、村長が手招きしてきた。

 広間の奥には祭壇があった。
 祭壇に近づくと、村長に手を差しだすように言われる。言われた通りにすると、唐突に祭壇から声がした。
 人がいたのだ、祭壇のさらに奥の壁の裏側に。
 驚きつつ、耳を傾ける。

「———汝、本性を暴きし時こそ幸福の鐘が鳴るであろう」

 意味深なことを言われ、それっきりだ。
 村長がいうには、この祭壇の向こう側にいるのは『預言者』で人の未来を視ることができるらしい。

 半信半疑だが、この場にいる者たちが言うには幸福な未来を手にするため、予言を信じた住人の殆どが村を出たとのことだ。

 この村の伝統に触れ、ついでに預言してもらった後に夜まで歓迎会をやってくれた。

 久々の村人で相当嬉しいらしいが、ここまでおもてなしされるとは思っていなかったため終わる頃にはヘトヘトだ。



「あの! 旅人さん待って!」

 帰りの道中、少女に呼び止められた。
 周りにはもう人はいなく、子供が一人出歩いていい時間ではなかった。

 帰るよう促すが聞いてくれず泊まっている家に入れてくれとまで言われてしまう。
 この村に着いてから休めていないので深いため息をこぼしながらも了承した。

「だが、すぐに帰るように。ご両親が心配するぞ」

「はい、もちろんです」

 わけも説明されないまま俺は彼女を家に招き入れるのだった。
 その夜、彼女に聞かされた事実がすべて、この村に隠された残酷な核心に触れることになるとは知る由もなかった。
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