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第3話 「魔女の騎士として」

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 目を覚ました俺の眼前に痴女がいた。
 服を脱ぎ、下着すらつけていない胸のない金髪の少女が肌をさらしていた。

 思わず声を漏らしてしまう。

「おやおや、なんともタイミングの悪い目覚めだろうか。まだ関係も持たない男の瞳に真裸を写してしまった。これではお嫁にいけない」

 ニヤニヤとしながら胸を隠すが、彼女からは羞恥が微塵も感じられなかった。

「ならば君が私の婿になることでしか清算できないな~」

 誰なんだ、この女は。
 俺は何処にいるんだ?
 城の地下へと幽閉されて、死刑当日まで閉じ込められていたはず。

 それなのに俺はベットに寝かされていた。

「アンタは誰だ?」

「おっと、そんなに警戒をされては困る。ましてや君を救った恩人である立場の私に敵意を向けるなど無礼だとは思わないかい」

 少女は平然とした様子で顔を近づけてきた。
 布一つ身につけていないので目のやり場に困っていたが、口程でもない少女は構わず語る。

「と言いたいところだが。君の意識がない時に事を運ばせてもらったのだから、まず説明しなければならないな」

 指を鳴らし無かった服が彼女の身を纏う。
 
「私の名前はアーシャ・アビゲイル」

 それは魔女の名だった。
 世界で十人しかいない希なる魔術師。
 普通の魔術師とは異なる異才を持ち、森羅万象すべてを掌握するほどの力を秘めているとされている存在だ。

 マグノリア王国周辺に住処がある噂は聞いていたが、こうしてお目にかかるのは初めてである。

「厄災だったね。まさか愛しいと思った女には他に男がいて、その男のために君を犠牲にした」

「……見ていたんですね」

 アビゲイルさんは偉大な魔女だ。
 尊敬に値する人は敬わなければならない。

「ああ、監視していた私も心苦しくてな。放っておけずに牢へと幽閉された君を救ってやったのさ。だが幽閉された君は看守からも酷い扱いを受け、身体はすでに衰弱しきっていた。死刑当日を迎える前に野垂れ死んでいては私も困る。世界に一つしかない貴重な回復薬でなんとか治療はできたが、気を失ったままの君を住処に運ぶのには骨が折れたよ」

「それは……なんというか、お手数をおかけしました」

 深々と頭を下げる。
 死刑から救ってくれただけではなく傷までを治してくれるとは頭が上がらない、さすがは魔女様だ。

「お礼は、私と子作りをして返したまえ」

「は?」

 そんな簡単に要求されては困る。
 初めて会った女性とも、そんなことができるか。
 それにアベルとエドナの件で、そういった行為にはトラウマがあるので精神が強制的に拒絶していた。

「むぅ、何なのだその嫌そーな顔は。こう見えても私は成熟しきっている。声を大にしてあまり言いたくはないが、婚期を逃した女がたとえ魔女でも慌てるものだぞ」

「他に方法はあるでしょう!」

 グイグイくるアビゲイルさんを押し返す。

「チッ、乙女心も知らぬ青二才が。仕方ない、では礼の方は他で補ってもらうからな」

 悲しそうな表情で彼女は椅子に腰掛けた。
 そして本を開き、落胆した声でいった。

「病み上がりだから安静にすることだな。内容はあとで聞かせるから」

 本のページをまくったきりアビゲイルさんは話さなくなった。
 魔女のイメージが変わりそうだ。




 ———




 アビゲイルさんが山菜をとりに出かけた。
 部屋で一人になった俺はベットから起き上がり、全身に巻かれていた包帯をはずす。

 どれぐらい寝ていたのかを聞き損ねたせいで時間の感覚がおかしくなっていたが、傷が完全に癒えたということはかなりの時間の経過が窺える。

 この借りは高くつくかもしれない。
 コツコツでもいいので恩返しをしなければ騎士としての心得が……

「そうだ……俺はもう騎士ではなかったな」

 自分の置かれている状況は最悪そのものだ。
 同期に裏切られ、悪女に利用され、聖騎士にもなれずこのザマだ。

 人生が大きく狂ってしまった。

 俺を陥れたあの二人を姿を思いだすだけでも腹わたが煮え繰り返る。

 それなのに、死んでいたかもしれなかったのに復讐心までは湧いてこなかった。
 エドナとアベルへの復讐に時間をかける価値なんてない。

 ならば、どうするべきか。
 目的はまだまだ不確かだが、なんらかの形で見返してやればいい。

 いま大切なのは自分が冤罪にかけられたという事実を世間に発信できるよう行動をすること。



「ただいま、帰ったぞカリヤ」

 農家のような服装をしたアビゲイルさんがカゴにつめた山菜を手にして帰ってきた。

「ほれ大量に……おや、立てるようになったのだな」

「はい、おかげさまで」

「では早速だが君を助けた代価をいただくとする。君もそれでいいな?」

 何故かアビゲイルさんは嬉しそうにしていた。
 なにを企んでいるかは分からないが、

「本日をもって王国騎士ではなく、魔女アーシャ・アビゲイル様の騎士としてこの命を捧げましょう」

 手始めに至高の座に在りし魔女を協力者の一人にするため、不敗と言われてきた剣技をアビゲイルさんの為に振るうとしよう。








「終わったら、私のところへ婿入りをしろ」

「……考えておきます」

「絶対だぞっ!」


彼女こそが偉大な魔女であることを忘れてしまいそうだ。
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