上 下
3 / 25

第3話 「魔女の騎士として」

しおりを挟む


 目を覚ました俺の眼前に痴女がいた。
 服を脱ぎ、下着すらつけていない胸のない金髪の少女が肌をさらしていた。

 思わず声を漏らしてしまう。

「おやおや、なんともタイミングの悪い目覚めだろうか。まだ関係も持たない男の瞳に真裸を写してしまった。これではお嫁にいけない」

 ニヤニヤとしながら胸を隠すが、彼女からは羞恥が微塵も感じられなかった。

「ならば君が私の婿になることでしか清算できないな~」

 誰なんだ、この女は。
 俺は何処にいるんだ?
 城の地下へと幽閉されて、死刑当日まで閉じ込められていたはず。

 それなのに俺はベットに寝かされていた。

「アンタは誰だ?」

「おっと、そんなに警戒をされては困る。ましてや君を救った恩人である立場の私に敵意を向けるなど無礼だとは思わないかい」

 少女は平然とした様子で顔を近づけてきた。
 布一つ身につけていないので目のやり場に困っていたが、口程でもない少女は構わず語る。

「と言いたいところだが。君の意識がない時に事を運ばせてもらったのだから、まず説明しなければならないな」

 指を鳴らし無かった服が彼女の身を纏う。
 
「私の名前はアーシャ・アビゲイル」

 それは魔女の名だった。
 世界で十人しかいない希なる魔術師。
 普通の魔術師とは異なる異才を持ち、森羅万象すべてを掌握するほどの力を秘めているとされている存在だ。

 マグノリア王国周辺に住処がある噂は聞いていたが、こうしてお目にかかるのは初めてである。

「厄災だったね。まさか愛しいと思った女には他に男がいて、その男のために君を犠牲にした」

「……見ていたんですね」

 アビゲイルさんは偉大な魔女だ。
 尊敬に値する人は敬わなければならない。

「ああ、監視していた私も心苦しくてな。放っておけずに牢へと幽閉された君を救ってやったのさ。だが幽閉された君は看守からも酷い扱いを受け、身体はすでに衰弱しきっていた。死刑当日を迎える前に野垂れ死んでいては私も困る。世界に一つしかない貴重な回復薬でなんとか治療はできたが、気を失ったままの君を住処に運ぶのには骨が折れたよ」

「それは……なんというか、お手数をおかけしました」

 深々と頭を下げる。
 死刑から救ってくれただけではなく傷までを治してくれるとは頭が上がらない、さすがは魔女様だ。

「お礼は、私と子作りをして返したまえ」

「は?」

 そんな簡単に要求されては困る。
 初めて会った女性とも、そんなことができるか。
 それにアベルとエドナの件で、そういった行為にはトラウマがあるので精神が強制的に拒絶していた。

「むぅ、何なのだその嫌そーな顔は。こう見えても私は成熟しきっている。声を大にしてあまり言いたくはないが、婚期を逃した女がたとえ魔女でも慌てるものだぞ」

「他に方法はあるでしょう!」

 グイグイくるアビゲイルさんを押し返す。

「チッ、乙女心も知らぬ青二才が。仕方ない、では礼の方は他で補ってもらうからな」

 悲しそうな表情で彼女は椅子に腰掛けた。
 そして本を開き、落胆した声でいった。

「病み上がりだから安静にすることだな。内容はあとで聞かせるから」

 本のページをまくったきりアビゲイルさんは話さなくなった。
 魔女のイメージが変わりそうだ。




 ———




 アビゲイルさんが山菜をとりに出かけた。
 部屋で一人になった俺はベットから起き上がり、全身に巻かれていた包帯をはずす。

 どれぐらい寝ていたのかを聞き損ねたせいで時間の感覚がおかしくなっていたが、傷が完全に癒えたということはかなりの時間の経過が窺える。

 この借りは高くつくかもしれない。
 コツコツでもいいので恩返しをしなければ騎士としての心得が……

「そうだ……俺はもう騎士ではなかったな」

 自分の置かれている状況は最悪そのものだ。
 同期に裏切られ、悪女に利用され、聖騎士にもなれずこのザマだ。

 人生が大きく狂ってしまった。

 俺を陥れたあの二人を姿を思いだすだけでも腹わたが煮え繰り返る。

 それなのに、死んでいたかもしれなかったのに復讐心までは湧いてこなかった。
 エドナとアベルへの復讐に時間をかける価値なんてない。

 ならば、どうするべきか。
 目的はまだまだ不確かだが、なんらかの形で見返してやればいい。

 いま大切なのは自分が冤罪にかけられたという事実を世間に発信できるよう行動をすること。



「ただいま、帰ったぞカリヤ」

 農家のような服装をしたアビゲイルさんがカゴにつめた山菜を手にして帰ってきた。

「ほれ大量に……おや、立てるようになったのだな」

「はい、おかげさまで」

「では早速だが君を助けた代価をいただくとする。君もそれでいいな?」

 何故かアビゲイルさんは嬉しそうにしていた。
 なにを企んでいるかは分からないが、

「本日をもって王国騎士ではなく、魔女アーシャ・アビゲイル様の騎士としてこの命を捧げましょう」

 手始めに至高の座に在りし魔女を協力者の一人にするため、不敗と言われてきた剣技をアビゲイルさんの為に振るうとしよう。








「終わったら、私のところへ婿入りをしろ」

「……考えておきます」

「絶対だぞっ!」


彼女こそが偉大な魔女であることを忘れてしまいそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれたモブキャラの俺。女神の手違いで勇者が貰うはずのチートスキルを貰っていた。気づいたらモブの俺が世界を救っちゃってました。

つくも
ファンタジー
主人公——臼井影人(うすいかげと)は勉強も運動もできない、影の薄いどこにでもいる普通の高校生である。 そんな彼は、裏庭の掃除をしていた時に、影人とは対照的で、勉強もスポーツもできる上に生徒会長もしている——日向勇人(ひなたはやと)の勇者召喚に巻き込まれてしまった。 勇人は異世界に旅立つより前に、女神からチートスキルを付与される。そして、異世界に召喚されるのであった。 始まりの国。エスティーゼ王国で目覚める二人。当然のように、勇者ではなくモブキャラでしかない影人は用無しという事で、王国を追い出された。 だが、ステータスを開いた時に影人は気づいてしまう。影人が勇者が貰うはずだったチートスキルを全て貰い受けている事に。 これは勇者が貰うはずだったチートスキルを手違いで貰い受けたモブキャラが、世界を救う英雄譚である。 ※他サイトでも公開

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

英雄に幼馴染を寝取られたが、物語の完璧美少女メインヒロインに溺愛されてしまった自称脇役の青年の恋愛事情

灰色の鼠
ファンタジー
・他サイト総合日間ランキング1位! ・総合週間ランキング1位! ・ラブコメ日間ランキング1位! ・ラブコメ週間ランキング1位! ・ラブコメ月間ランキング1位獲得!  魔王を討ちとったハーレム主人公のような英雄リュートに結婚を誓い合った幼馴染を奪い取られてしまった脇役ヘリオス。  幼いころから何かの主人公になりたいと願っていたが、どんなに努力をしても自分は舞台上で活躍するような英雄にはなれないことを認め、絶望する。  そんな彼のことを、主人公リュートと結ばれなければならない物語のメインヒロインが異様なまでに執着するようになり、いつしか溺愛されてしまう。  これは脇役モブと、美少女メインヒロインを中心に起きる様々なトラブルを描いたラブコメである———

Sランクパーティから追放された俺、勇者の力に目覚めて最強になる。

石八
ファンタジー
 主人公のレンは、冒険者ギルドの中で最高ランクであるSランクパーティのメンバーであった。しかしある日突然、パーティリーダーであるギリュウという男に「いきなりで悪いが、レンにはこのパーティから抜けてもらう」と告げられ、パーティを脱退させられてしまう。怒りを覚えたレンはそのギルドを脱退し、別のギルドでまた1から冒険者稼業を始める。そしてそこで最強の《勇者》というスキルが開花し、ギリュウ達を見返すため、己を鍛えるため、レンの冒険譚が始まるのであった。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

処理中です...