魔法使いの同居人

たむら

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誘拐少女と探偵

6話

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 部屋のドアをノックすると、「はーい」と間延びした声が返ってきた。

 扉を開くと紅坂さんは自室の机で何やら作業をしている。こちらを一瞥することもなく、真剣なまなざしで手元に集中していた。積み重なった段ボールで何の作業をしているのかは見えなかったが、部屋中に充満するシンナー臭で想像はついた。プラモデルを作っているのだ。

「またプラモデルですか?」

 紅坂さんの傍らに近づくと、ロボットの足と思われるパーツに色を塗っているところだった。瞬きを忘れているのではないかと心配になるほど、大きく目を見開き、器用に色を伸ばしている。

「そこに立つと影になるからずれてくれるかな」

 僕は謝罪をし、言われた通り照明と被らないよう立ち位置を変える。

「それで、何か用?」
「今日は僕が夕食当番でしたので、夕飯のメニューの要望を聞こうかと」
「何でもいいよ。真雪くんに任せる」
「じゃあ、レトルトカレーでいいですか?」
「オッケー」

 紅坂さんからの了承をもらえたことで安堵する。記憶喪失のせいなのか、そもそものスキルのせいなのかわからないが、僕の料理のレパートリーはほとんどゼロと言ってよかった。

 ほっとして部屋を見回すと、これまで彼女が作ったと思われるプラモデルがきれいに並べられたケースが目に留まる。アクリル板が貼られた大きなもので、同じ棚が横に三つ並んでいた。ほとんどが人型ロボットだが、いくつか戦車のような乗り物も混じっていた。

「同じロボットが何個もあるのはなぜですか?」

 何となく質問すると、塗料中のパーツから目を離さずに「量産型だからだよ」と返事があった。意味はわからなかったが、紅坂さんのほうはこれで伝わったでしょと言わんばかりの態度だったので、聞き直すのは控える。

 これ以上邪魔をするのも憚られるので、そっと部屋から出ようとしたところ、「ああ、そういえば」と思い付きを口にするように紅坂さんが言った。

「預かっていたゼンマイの思考が見えたよ」
「何のことです」
「これだよ」

 そう言って紅坂さんが引き出しから取り出したのは、僕が初日に渡した鍵のようなゼンマイのような物だった。

「こいつの思考がようやく読めたの」
「思考?」
「相手が人間だと、今考えてることをダイレクトに読めるんだけど、物体の思考は不安定でムラがあるから、時間と根気が必要なうえ得られる情報が断片的になって困るんだよね」

 そう言われても彼女の言っていることがすぐにはピンとこなかった。少しの間があって、僕は紅坂さんが彼女の超能力を使って、僕が記憶を失う前から持っていた例のゼンマイから思考を読み取ったのだとわかった。紅坂さん曰く、物であっても思考(と言っていいのかはよくわからないが)は読めるらしい。

「それで何かわかったんですか?」
「過去にこのゼンマイがあった場所がわかった」
「本当ですか?」

 紅坂さんは「凄いでしょ」と言って、不敵に微笑んだ。

「どこですか?」
「焦らないの。今日はもうとっくに終業してるから、明日にしようよ」

 紅坂さんの視線は再びプラモデルへ戻る。今すぐ聞きたい気持ちが沸き上がるが、紅坂さんが時間外勤務を病的に嫌うことを知っている僕は、はやる気持ちを何とか抑え込む。

「明日になったら教えてくれるんですか?」
「教えるというか、明日の午前中なら時間が取れるし、直接行っちゃおうよ」

 思わぬ提案に、記憶を取り戻さなければという気持ちとは裏腹に尻込みしてしまう。展開が急すぎるように感じた。もっと暗闇を一歩ずつ慎重に進むように、ゆっくりと心構えをして真相に進みたい気持ちに駆られる。

 しかし、そんな僕の弱腰な提案は、紅坂さんの「まどろっこしいのは好きじゃないの」の一言で切り捨てられてしまった。

 話はこれまでと自身の作業に戻る紅坂さんを部屋に残し、僕は夕食の準備に取り掛かった。明日のことで頭がいっぱいだった僕は、レトルトカレーを三人分用意してしまった。
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