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見聞録

観光できる地下世界 ⑧

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 エヴラールたちと別れてから、リースたちはマーキスたちの掘った穴の中に進んだ。その途中、一行はマーキスたちが掘っていない穴の中を突き進む。
 その穴は、短時間でエリチョク・妖精たちのタッグで急遽掘られた道だ。リースの身長に合わせ、その穴は作られている。
 エリチョクたちの案内で、リースは黙々と地下世界の奥へと誘われた。

「絵に描いたような世界だ」

 途中のぽっかりと開けた小さな空間では、暗闇の中で虫やきのこが淡く光っていた。発光する虫の光は、蛍のそれに近しい。きのこ類は、黄色の粒子をまき散らしたり、蛍光色の光を点滅したりする。
 中々お目にかかれない光景に、リースはつい日本語で感嘆してしまった次第である。
 観光地でも、幻想的な苔むした場所にある湧き水や、ガラス細工のような花が咲き誇る場所もあった。自然にできた面白い形の柱では、みな思い思いにどんな形に見えるかで楽しみもした。

「地面って、想像以上に不思議な光景が広がってるんだな」

 リースの小さな独り言は、すぐに穴の中で消えていく。


 * * *


 それから、一行は更に奥へと進み、大きく開けた空間へと出た。
 真っ暗闇の中を、リースの周囲に浮遊する魔道具の人工の明かりが薄暗く照らす。それでも、リースには空間中央に鎮座するものが、十分把握できた。

 エヴラールとリースは、観光地であるここ付近にこれ・・が隠されているという噂を聞きつけ、わざわざやって来たのだ。
 観光地を巡っても見つけられなかったものを、リースはようやく発見した。

 エリチョク・妖精たちは、中央に位置するそれの気を嫌がり、決して近づこうとしない。
 リースだけが単身で、迷いなくそれ・・に近づいた。

 リースの薄葡萄色の瞳が映し出すは、暗闇の中ですら異質な黒を纏う、大きな石のようなものだった。高さはリース三人分ほどだろうか。横幅も、リースが手を広げるより少しある。
 間近になればなるほど、禍々しさを感じる物体だ。
 これこそ、暗黒時代と呼ばれた先の時代の負の遺産であった。「魔瘴」と称される、この世界にかつて多大なる悪影響を及ぼした代物である。
 それが、悪影響を外に生じさせないよう、このような形で封印されていた。そうするしか、魔瘴の悪影響を食い止める手段はなかったのである。

 近づくことすら躊躇われるそれに、リースはまさかの行動に出た。その魔瘴を封じた結界に、直接手を触れたのである。
 間もなく、リースが触れている部分から、その封印結界は淡い黄色の光を作り始めた。やがて全体が発光し、輝きを帯びる。ときどき、蛍の光に似た粒子が舞った。

 数分後、魔瘴の封印結界は、跡形もなく消えていた。
 大きく開けた空間には、もはや何もない。

 自身の果たすべきことを終えたリースは、栄養ドリンクのような小瓶をぐいと煽っていた。飲み終わり、ぷはあと満足そうにしている。まるで、湯上がりで牛乳瓶を飲み干したかのようだ。

「任務完了」

 満足そうに笑みを湛えるリースに、彼女に手を貸したエリチョク・妖精たちも喜色満面である。


 * * *


 リースたちは、そのまままっすぐ同じ道を辿って元の場所に戻らなかった。
 途中、エリチョクたちがリースを違う道に案内したからである。行き止まりに思えたその道で、エリチョクたちはそこら辺の石をリースに持ってきて見せた。
 リースは首を傾げながら、エリチョクたちがそれぞれ頭の上に掲げるその石をじっと見つめる。そして、その石の中に、リースは思いがけないものが含まれていることを知った。

「なるほど。確かにこれは、見つけてからのお楽しみ、ですね」

 リースは日本語で語りながら、マーキスの言葉を思い出し笑顔になる。
 
「みんな、本当にいろいろとありがとうございます。おかげで、いい言い訳報告ができます」

 リースの感謝に、エリチョクたちは素直に嬉しそうだった。
 そうして、リースたちはそれら鉱石を持ち帰り、エヴラールたちが待つ場所へ戻ったのである。
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