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婚約者編
予知
しおりを挟むアマリリスは、窓側の席に座る。隣にレオナードが座り、その後ろにアレルが座る。
授業中にぴーちゃん達と戯れるなんて、もうしないわ。アマリリスは思い、教師の授業をきちんと聞いていた。
しかし、何か心が騒がしい。窓から外を見る。何か変な感じ。嫌な予感がする。アマリリスは、授業中なのに立ち上がった。椅子の音で、皆がアマリリスを見た。レオナードとアレルが、
「どうした?」
「どうしたんですか?」
アマリリスは、
「外に行ってきます」
と言って教室を出た。
アマリリスは、学園の中庭に走って行った。
(やっぱり何かおかしいわ)
周りを見回す。いつも木にいる小鳥達がいない。小鳥の囀りも聞こえない。風もない。アマリリスは、寒気を感じた。この感覚、確か三か月前にもあった。アマリリスは、地面に横になり、地面に耳を当てる。
(やはり……、そうだ。大地の下から何か突き上げてくるような感覚があるわ)
「アマリリス嬢……」
アマリリスの後を追いかけてきたレオナードの声がする。
この場所は、教室からも見える。教室にいる令嬢達が、
「まぁ、はしたないわ。淑女としてどうなのかしら」
「まぁ、お行儀が悪いですわね」
クスクスと笑ってる声が聞こえてくる。レオナードがその令嬢達の発言を無視し、アマリリスの所へ来ると、ジャケットを脱ぎ、スカートからでていた素肌に掛けてくれた。
「どうした? 何かあったか?」
レオナードが屈んで、アマリリスの耳元で聞く。令嬢の悲鳴や感嘆の声があがる。
「おやめになって、殿下」
「あまりお近づきにならないで……」
「なんて、殿下はお優しい」
「さすが、慈悲深いお方だわ」などだ。
アマリリスは、耳をすませながら、
「この感覚、三カ月前にもあったんです。三か月前、地震がありましたよね? それほど、大きな地震ではなかったので、街でも被害は少しでした。その時、森の動物達は、そわそわしてました。森は静かになり、地面から何か突き上げ来るような感覚があったんです。その時の感覚と一緒なんです。それも前回よりもかなり大きな感覚があります」
アマリリスは、あの森に住んで、だいぶ野性的になったようだ。
「それは、どういうことだ?」
「大きな地震が来るように感じます。前回より多分……相当大きな地震が……」
この国は、地震が多い。普段は、被害が出るほどの大きさの地震はほとんどない。八〇年前にこの国に大きな地震があり、各領地大きな被害がでたという。復興に時間がかかったと聞いている。
すると、学園の門が騒がしい。犬が吠えてる。これクゥーだわ。アマリリスは、起き上がり、レオナードにジャケットを渡す。
「ジャケットありがとうございます。殿下、クゥーが門にいるみたいです。行ってきます」
アマリリスは、門に向かって走る。レオナードとアレルがついてくる。門番に私の飼い犬だとアマリリスは、言い、門を開けてもらう。クゥーが、アマリリスに飛びつき、しっぽを振り、ワン、ワン吠える。落ち着きがない。クゥーの頭の上には、ぴーちゃんが乗っている。アマリリスの方に飛んできて、アマリリスのボレロについてるポケットの中に入ろうとする。アマリリスは、ポケットを開け、中にぴーちゃんを入れる。震えてるように感じる。
(やはり、三か月前と同じだわ。あの時もクゥーもぴーちゃんも落ち着きなかった。でも、あの時以上に落ち着きないように感じるわ)
「クゥー、どうしたんだ」
アレルが、クゥーを撫でながら聞く。クゥーは、しっぽを振り、落ち着きなく、ワンワン吠える。
しかし、これは、予知であって、本当に起きるかどうかの確証はない。
(皆、信じてくれるかしら。もし、信じてもらえても、はずれてしまったらどうしましょう。でも、起きてしまったら大変だ。後悔したくない)
「殿下、私、一度、家に戻り、街に行き、皆に避難を呼びかけてきます。信じてくれるかはわかりませんが……。あくまでも、予知なので、本当に起きるかはわかりません。外れてしまうかもしれません。でも、もうすぐ、昼時です。火を使ってる者もいるかと思います。火事になったら大変です。火を使わず、物が倒れそうな場所や落ちてきそうな場所にいないよう伝えてきます」
「ちょっと、待て。リリー、どのくらいで地震が起きそうなのだ?」
クゥーとぴーちゃんの様子を見て、レオナードもアレルも異常を感じたようだ。
「正確にはわかりません。一時間後くらいかと……」
「時間がないな。アレル、王宮に行って、陛下に報告してくれ。伝書鳩を使って各領地にも避難するよう連絡するよう伝えてくれ」
アレルは頷く。
「殿下は、信じてくれるのですか? 外れるかもしれませんよ?」
「当たり前だ。信じる。外れたら、外れたでいいではないか。その方がいい。用心に越したことはない。外れても気にすることはない」
アマリリスの頭をなで、微笑んだ。
(やっぱり、レオは優しい。大好きだわ)
アマリリスはほっとする。
この国には、緊急時に各領地に連絡をする伝書鳩が飼われている。王家の紋章入りの紙に用件を書いた紙を足首に付け、飛ばすのだ。アマリリスたちは、学園長の部屋に向かった。レオナードは、学園長に生徒達を安全な場所に誘導するように説明していた。
そして、アマリリスとレオナードは、学園の馬を借りた。やはり、馬も落ち着きがないように感じる。アレルは、既に王宮に向かっている。アマリリスは、レオナードに馬に乗せてもらい、まず公爵家へ向かった。もちろん、クゥーも一緒だ。
父親とトーマスに話し、公爵家にいる使用人たちを中庭に避難させた。厨房にいた料理人たちも火を消し、中庭に避難してもらった。公爵家は、皆、アマリリスの言うことを信じてくれる。
アマリリスは、急いで自称平民メルの時に着ていた服に着替え、帽子をかぶった。自称平民メルの完成だ。アマリリスは、急いで街に向かう。アマリリスの護衛のリサが、馬で連れて行ってくれた。クゥーも一緒だ。ぴーちゃんは、ボレロのポケットの中で留守番だ。レオナードは、アマリリスを公爵家で降ろした後、王宮に向かっていた。
街で、アマリリスは、すぐ八百屋のハルさんのところへ行った。
「ハルさん、一時間ぐらいで大きな地震がきそうなんです。どうか避難してください」
アマリリスは、必死に伝える。
「なんだって。それは、大変だ。わかったよ。メル、避難するよ。あと、皆にも伝えよう」
「信じてくれるんですか?」
「もちろんさ。万能薬を作り、癒しのホープを演奏するメルの言うことは信じられるさ。なぁ、ボブ」
隣のテントにいる肉屋のボブさんに声をかける。
「あぁ、信じるさ。俺も手伝うよ。皆に知らせよう」
「ハルさん、ボブさん、ありがとうございます。昼時なので、火を使わないよう伝えてください。火事になったら大変です」
「あぁ、わかったよ」
アマリリスは、ハルさんとボブさんに街のことを頼み、孤児院にむかった。
孤児院に着き、神官とダルとトムに大きな地震が起きそうなことを伝え、子供たちを避難させるよう伝えた。孤児院の皆もアマリリスの言うことを信じてくれた。
***
王宮にて、
「陛下、本気ですか? 確証のない、予知なのに、公務を止めて避難するのですか?」
宰相が言う。
「あぁ、レオが言っているのだ。レオの責任のもとの発言だろう。私は、レオの事を信じる。ちょうどいい、次期国王としての器を見るいい機会だ。 宰相、信じないのなら、引き続き仕事をしていてくれてかまわない」
王宮内にある広場には、王族、文官、使用人等、王宮で働く者が集まっていた。王宮料理人たちも厨房の火を止め、広場に集まっていた。
アマリリスは、孤児院に伝えた後、リサとクゥーと共に公爵家に戻り、帽子を取り、学園の制服に着替えた。アマリリス公爵令嬢の完成だ。ぴーちゃんは、ボレロのポケットの中でちゃんと留守番をしていた。それから、リサとクゥーと共に王宮に行き、レオナードとアレルと合流した。
「レオ」
「リリー、王宮では、避難が完了している。伝書鳩も各領地に放った。領民も避難しているだろう」
(さすがだわ、レオ。仕事が早いわね。それに、皆、レオを信じてる。人望の厚さを感じた。レオの次期国王としての器を感じるわ。ここまでレオにしてもらって、これで、地震が起きなかったらどうしよう。起きないにこしたことはないのだけれど、ここまで、私の事を信用してもらったのに……)
アマリリスは、不安になる。それが、レオナードに伝わったのか、レオナードがアマリリスを軽く抱きしめてきた。ボレロのポケットの中にぴーちゃんがいるのを知っているため、軽くアマリリスを自分のところに引き寄せた。
「大丈夫だ。地震は、起きないにこしたことはない。外れたら外れたで良かったで済む。心配するな」
アマリリスは、頭を前に傾け、レオナードの胸の中にうずめて頷いた。
(レオは、優しくて、頼りになるわ。レオが婚約者で良かったわ。待って。でも、まだ、私たちが婚約してるって公表してないわよね。それなのに、触れ合ってたらまずいわよね)
アマリリスは、パッとレオナードから離れた。
「あっ、残念」
(レオは笑っているけど、今、周りにいる人たちの視線が、さっと逸らされたわ)
アマリリスの顔が赤くなる。側にいたアレルが笑顔で言う。
「皆、レオナード様との仲睦しい様子を見てましたよ」
アマリリスは、顔を両手で押さえた。
(恥ずかしいわ)
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