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それからというもの嫌な日々は続いた。

いくら真面目に学園の顔を務めようとしても、食堂や中庭や各階のテラスなどでジュリアンと男爵令嬢ティナの仲睦まじい姿を見せつけられた。
二人は周囲からの白い視線を浴びようと構わない様子で、寧ろ愛を貫いている自分たちに酔ってさえいるようだった。

だから、悲しみに暮れるより怒りが募った。

ジュリアンはいったい何を考えているの?
未来ある貴族の令息として恥ずかしくないの?

ティナ、あなたどういうつもりなの?
婚約者の在る人と知っていて恋をしたの?
相手は伯爵家よ?

「……」

ジュリアンとティナはどちらから始まった関係なのだろう。
どちらにしても、言った方は言った方だし、受けた方も受けた方だ。

そんな雑念を振り払うために私はキャンディーの塔へ上った。
一日三個までのご褒美。
理不尽と侮辱に耐えるご褒美だ。

私が訪ねていくとマクダウェル侯爵令息はいたりいなかったりした。いれば笑顔で私に長椅子を譲り散歩に出る。

不機嫌な私を見て上機嫌なマクダウェル侯爵令息が不思議だったけれど、厚かましい二人を思えば苛立つまでもないこと。キャンディーと隠れ家を提供してくれて感謝しているくらいだ。

ある日、廊下ですれ違ったティナに睨まれた。

「……」

私は思わず足を止めた。
人の婚約者を奪って堂々としているような人に睨まれる筋合いはない。

その場で目を閉じ10秒数える。
私は今年のベストカップル。学園の顔。感情的になるべきではない。

瞼を開けて息を整え再び歩き出した私にも、腫れ物を見るような視線が方々から注がれていた。そちらの方が辛くて、結局私は足元ばかり見て歩くようになってしまった。

やがて……

「あの方、男爵令嬢に横取りされたんですって」
「情けない。そんな方がベストカップルだなんておかしいわ」
「クライヴ伯爵令息は飽きたって仰ってるそうよ」
「あー、飽きられそう。特に美人ってわけでもないもの」

至らなかった私を責める派閥が現れ始めた。
それは私を責めるだけでなく、嘲笑ったり、揶揄ったり、ありもしない失敗を吹聴したり酷い進化を遂げる。

「どういうこと!?」
「悪いのは浮気した二人の方じゃない!」

友人たちは私と怒ってくれる。
でも、私もいけなかった。心がささくれ立って、周囲への気遣いや優しさなど忘れてしまっていた。笑顔もなくなり、私は心の怒りをぽつりと零してしまった。

「あんな奴知らない」

その態度が、友人たちを遠ざける結果になってしまった。

──男爵令嬢に婚約者を横取りされて、彼女はすっかり変わってしまった。
──拗ねて怒って周囲を遠ざけるようになった。
──義務だから学園の顔としての仕事をしてるだけ。

「あなたの態度はフェグレン王立学園のベストカップルを名乗る学園の顔に相応しくありません」

風紀委員長であるランバーグ侯爵令嬢ジェシカに叱責され、私は学園の顔としての手紙の返信という大切な仕事さえ奪われた。

私にはもうこの学園に居場所がない。
マクダウェル侯爵令息の待つキャンディーの塔だけが私に安らぎを与えてくれる。静けさという、孤独という安らぎを。

「エレノア。大丈夫。全ては過ぎ去るよ」
「……」

塞ぎ込み頑なになった私に変わらない優しさを向けてくれるのも、もうマクダウェル侯爵令息だけになっていた。

辛い日々を淡々と消化していく。
そして気づけば夏季休暇が迫っていた。
両親にこの為体とその理由を説明しなければならない。

「……」

もう学園には戻らないかもしれない。
そんなことを考えながら淡々と荷造りをした。惨めだった。
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