3 / 20
3
しおりを挟む
学長室からの帰り道。
長い回廊をとぼとぼと歩いていた私は見てしまった。
生徒たちのお気に入りの場所として歴代堂々一位の人気を誇る中庭。
この広い中庭は男女の棟を分ける意味でも重大な役割を担っている。つまり、堂々とデートができたり、出会いが待っている場所。
巨木を中心に、緑の草地と、それを囲む円形に敷かれた美しいタイルの歩道が上から見ても美しい。ベンチでお喋りしたり、草の上に寝転んで昼寝をしたり、木製のブランコで微睡んだり……教員たちの目が届くこの場所ではかなり自由に寛ぐことも黙認されていた。
そこにジュリアンがいた。
「……」
私は足を止め、手摺りに捉まり、彼を見下ろす。
「……」
ジュリアンは巨木の幹に寄りかかり、大人っぽい令嬢と抱きあっている。
新入生とのことだったけれど、身長も私より高いし、スタイルも魅力的だ。とても15才には見えない。肩で切りそろえた艶のある金髪に、驚くほど白い肌。
確かに、その子は美しかった。
表情までは見えない。
けれど、木の幹に寄りかかるジュリアンに大胆に抱きついて甘えている様子は離れていてもよくわかる。
目が逸らせなかった。
ジュリアンはその子の髪を優しく撫でたり、じっと見つめ合ったり、本当に恋人として振舞っている。
やがて二人は、昼下がりの木陰で長いキスを始めた。
「……っ」
耐えられない。
私は走った。
次の授業へ向かわなければならなかったけれど、目的地なんてない。ただこの場から消えてなくなりたい。
私は人気の無い方を無意識に選びながら号泣して走っていた。
薄暗く狭い螺旋階段を上り、こらえきれなくなった嗚咽を洩らしながら逃げ続ける。
学園の構造は中庭を見下ろす教室棟と図書室と食堂、中庭を左右から挟む男女別の寮、教室棟の正面は大小合わせて三つの広間の上階に教員たちの居住区があり礼拝堂と校門に繋がる大階段を有する総称〝エントランス〟と呼ばれる棟で成っており、それらを分ける四つの塔が配置されている。
私は気付くと、塔の一つを上り切っていた。
「……」
見張り台の役目は持っていない。
塔のてっぺんは、美しい飾り窓に囲まれた円形の小部屋。石造りの重厚な屋根から可愛らしいランタンが下がり、狭い空間ながら寛げるような長椅子が置かれ、そこに人が寝ていた。
「…………」
もしかして、秘密の住人?
一瞬、そんな考えが過る。
すぐ正気に戻った私は、その人物が知っている相手だと気づいた。
繊細で美しい顔立ちにしなやかな漆黒の髪がよく似合う、ミステリアスな同級生。行事や図書室では見かけたことのあるくらいだけれど、有名なのでみんな知っている。
孤高のマクダウェル侯爵令息。
初年度にから留年し、私たちより二つ年上で誰とも打ち解けない。
その人の秘密の隠れ家に足を踏み入れてしまったのだ。
「……」
私は抜き足差し足、壁伝いに螺旋階段を下りる為に後ずさる。
次の瞬間。
「こら。逃げちゃうの?」
「!」
なめらかな低い声に呼び止められた。
長い回廊をとぼとぼと歩いていた私は見てしまった。
生徒たちのお気に入りの場所として歴代堂々一位の人気を誇る中庭。
この広い中庭は男女の棟を分ける意味でも重大な役割を担っている。つまり、堂々とデートができたり、出会いが待っている場所。
巨木を中心に、緑の草地と、それを囲む円形に敷かれた美しいタイルの歩道が上から見ても美しい。ベンチでお喋りしたり、草の上に寝転んで昼寝をしたり、木製のブランコで微睡んだり……教員たちの目が届くこの場所ではかなり自由に寛ぐことも黙認されていた。
そこにジュリアンがいた。
「……」
私は足を止め、手摺りに捉まり、彼を見下ろす。
「……」
ジュリアンは巨木の幹に寄りかかり、大人っぽい令嬢と抱きあっている。
新入生とのことだったけれど、身長も私より高いし、スタイルも魅力的だ。とても15才には見えない。肩で切りそろえた艶のある金髪に、驚くほど白い肌。
確かに、その子は美しかった。
表情までは見えない。
けれど、木の幹に寄りかかるジュリアンに大胆に抱きついて甘えている様子は離れていてもよくわかる。
目が逸らせなかった。
ジュリアンはその子の髪を優しく撫でたり、じっと見つめ合ったり、本当に恋人として振舞っている。
やがて二人は、昼下がりの木陰で長いキスを始めた。
「……っ」
耐えられない。
私は走った。
次の授業へ向かわなければならなかったけれど、目的地なんてない。ただこの場から消えてなくなりたい。
私は人気の無い方を無意識に選びながら号泣して走っていた。
薄暗く狭い螺旋階段を上り、こらえきれなくなった嗚咽を洩らしながら逃げ続ける。
学園の構造は中庭を見下ろす教室棟と図書室と食堂、中庭を左右から挟む男女別の寮、教室棟の正面は大小合わせて三つの広間の上階に教員たちの居住区があり礼拝堂と校門に繋がる大階段を有する総称〝エントランス〟と呼ばれる棟で成っており、それらを分ける四つの塔が配置されている。
私は気付くと、塔の一つを上り切っていた。
「……」
見張り台の役目は持っていない。
塔のてっぺんは、美しい飾り窓に囲まれた円形の小部屋。石造りの重厚な屋根から可愛らしいランタンが下がり、狭い空間ながら寛げるような長椅子が置かれ、そこに人が寝ていた。
「…………」
もしかして、秘密の住人?
一瞬、そんな考えが過る。
すぐ正気に戻った私は、その人物が知っている相手だと気づいた。
繊細で美しい顔立ちにしなやかな漆黒の髪がよく似合う、ミステリアスな同級生。行事や図書室では見かけたことのあるくらいだけれど、有名なのでみんな知っている。
孤高のマクダウェル侯爵令息。
初年度にから留年し、私たちより二つ年上で誰とも打ち解けない。
その人の秘密の隠れ家に足を踏み入れてしまったのだ。
「……」
私は抜き足差し足、壁伝いに螺旋階段を下りる為に後ずさる。
次の瞬間。
「こら。逃げちゃうの?」
「!」
なめらかな低い声に呼び止められた。
18
お気に入りに追加
1,246
あなたにおすすめの小説
裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!
お前は保険と言われて婚約解消したら、女嫌いの王弟殿下に懐かれてしまった
cyaru
恋愛
クラリッサは苛立っていた。
婚約者のエミリオがここ1年浮気をしている。その事を両親や祖父母、エミリオの親に訴えるも我慢をするのが当たり前のように流されてしまう。
以前のエミリオはそうじゃ無かった。喧嘩もしたけれど仲は悪くなかった。
エミリオの心変わりはファルマという女性が現れてからの事。
「このまま結婚していいのかな」そんな悩みを抱えていたが、王家主催の夜会でエミリオがエスコートをしてくれるのかも連絡が来ない。
欠席も遅刻も出来ない夜会なので、クラリッサはエミリオを呼び出しどうするのかと問うつもりだった。
しかしエミリオは「お前は保険だ」とクラリッサに言い放つ。
ファルマと結ばれなかった時に、この年から相手を探すのはお互いに困るだろうと言われキレた。
父に「婚約を解消できないのならこのまま修道院に駆け込む!」と凄み、遂に婚約は解消になった。
エスコート役を小父に頼み出席した夜会。入場しようと順番を待っていると騒がしい。
何だろうと行ってみればエミリオがクラリッサの友人を罵倒する場だった。何に怒っているのか?と思えば友人がファルマを脅し、持ち物を奪い取ったのだという。
「こんな祝いの場で!!」クラリッサは堪らず友人を庇うようにエミリオの前に出たが婚約を勝手に解消した事にも腹を立てていたエミリオはクラリッサを「お一人様で入場なんて憐れだな」と矛先を変えてきた。
そこに「遅くなってすまない」と大きな男性が現れエミリオに言った。
「私の連れに何をしようと?」
――連れ?!――
クラリッサにはその男に見覚えがないのだが??
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★6月15日投稿開始、完結は6月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。
〖完結〗容姿しか取り柄のない殿下を、愛することはありません。
藍川みいな
恋愛
幼い頃から、完璧な王妃になるよう教育を受けて来たエリアーナ。エリアーナは、無能な王太子の代わりに公務を行う為に選ばれた。
婚約者である王太子ラクセルは初対面で、 「ずいぶん、平凡な顔だな。美しい女なら沢山居るだろうに、なぜおまえが婚約者なのだ……」と言った。
それ以来、結婚式まで二人は会うことがなかった。
結婚式の日も、不機嫌な顔でエリアーナを侮辱するラクセル。それどころか、初夜だというのに 「おまえを抱くなど、ありえない! おまえは、次期国王の私の子が欲しいのだろう? 残念だったな。まあ、私に跪いて抱いてくださいと頼めば、考えてやらんこともないが?」と言い放つ始末。
更にラクセルは側妃を迎え、エリアーナを自室に軟禁すると言い出した。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
架空の世界ですので、王太子妃が摂政である王太子の仕事を行っていることもサラッと流してください。
【完結済】二度も婚約破棄されてしまった私は美麗公爵様のお屋敷で働くことになりました
鳴宮野々花
恋愛
二度も婚約破棄された。それもどちらも同じ女性に相手を奪われて─────
一度ならず二度までも婚約を破棄された自分は社交界の腫れ物扱い。もう自分にまともな結婚相手は見つからないだろうと思った子爵令嬢のロゼッタは、何かしら手に職をつけ一人で生きていこうと決意する。
そんな中侍女として働くことになった公爵家には、美麗な容姿に冷たい態度の若き公爵と、病弱な美しい妹がいた。ロゼッタはその妹オリビアの侍女として働くうちに、かつて自分の婚約者を二度も奪った令嬢、エーベルに再会することとなる。
その後、望めないと思っていた幸せをようやく手にしようとしたロゼッタのことを、またも邪魔するエーベル。なぜこんなにも執拗に自分の幸せを踏みにじろうとしてくるのか…………
※作者独自の架空の世界のお話です。現代社会とは結婚に対する価値観や感覚がまるっきり違いますが、どうぞご理解の上広い心でお読みくださいませ。
※この作品は小説家になろうにも投稿しています。
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる