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59(本編最終話)

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出会いから九年目の今日、私はバレットと結婚する。

あれから計画通りに事は進み、面白いことがたくさんあった。
その中でも私とバレットにとって他人事ではないのが、あの優しくお茶目な王太子妃だった。王太子妃はバレットの二代前にヴァルカーレ監獄長を務めた侯爵の末娘だったのだ。

王太子妃は私がアベル王子から聞いたと思っており、アベル王子はその逆だったようで、バレットも私がどちらかから聞いて知っていると思っていたとのことだった。
私に甘いはずである。

王家と第三王子夫妻の嘘の対立も幾らか緩和してきた。
あと何年辛抱すれば再会できるだろうか。早く、直接感謝を伝えたい。

今ではもう全ての元凶アンブロシウスもこの世にいない。

バレットに血を分けた父親であろうと、やはり最期まで同情できなかった。バレットに迷いがなかったこともある。あの男は邪悪な悪人だったのだ。

それに私の公の父との確執も死後になって徐々に明らかになった。
結局のところ詳細は知れないが、父が口を開かない限り無理に聞き出そうとは思わない。母もライシャワー伯爵家だけでなく明確にアンブロシウスのことも憎悪していた。

私に知らせないならば、その意味があるのだ。

父はアンブロシウス処刑後、若干陽気になり、ここ数年は修復が済んだ崖の裏側の居住区でのんびりと隠居生活を満喫している。母の話では日光浴までしているというから、その上機嫌は見せかけではなく本物だろう。ニックスと釣りに出る日さえあるらしい。船の名はビアトリス号だという。

アベル王子のところの姫も、もうじき三才。

私はすっかり婚期を逃してしまい、今更ウェディングドレスなど少し気恥ずかしい年齢になった。それでもバレットは私を可愛いと言って、毎日、毎日、絶えず大きな愛を注いでくれる。

バレットとは絶えず傍にいるか、離れ離れになるか、いつも両極端だった。
ここ半年は私一人で領地経営に勤しんでいる。バレットは一度は籍を抜けスノーデン侯爵家に入る必要があったからだ。
出会った後のことをいえば、共に過ごした時間より離れていた時間の方が各段に短い。
それでも離れている時間は愛を膨らませてくれる。

私には野望があった。
私の年齢ならば、まだ、子どもが産める。

父は私がそうとは知らずにニックスと親子の絆を結べるよう、冷淡な父親を演じてくれた。今ではその愛情の深さがわかる。

私も多くの嘘をついた。

けれど私も、バレットと愛の溢れる笑いの絶えない明るい家庭を築きたい。
私とバレットとの間に大人しくて繊細な子は産まれないだろう。でももし奇跡が起こるなら、愛が奇跡を起こすなら、それもまた楽しもう。可愛いに決まっている。

人生は嘘と秘密が付き物だ。
そこに真心からの愛があれば、人生は素晴らしいものになる。

生きていこう。
愛する人と。

教会の鐘が鳴る。
これが結婚式というものだ。
神はきっと、私たちを祝福するだろう。


私が白いベールの内側から辿るべき道の先を盗み見ると、愛しい人が立っていた。私を待っている。
一歩ずつ、私は踏みしめる。

愛に包まれた幸せな人生を、一秒毎に刻みながら。今日また、あなたの隣へ。


バレット。
私の愛しい、お兄様。
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