上 下
4 / 10

しおりを挟む
でも、そんな楽しい時間は永遠には続かないものだ。
何曲か踊ってから再び壁際に戻ってお喋りしている所へ妹がいつの間にか忍び寄っていた。

この上ない程に残酷な瞬間に。

「マチルダ。僕は恋をしてしまった。もう君しか見えない。君が好きだ。愛してる。どうか僕と結婚してください」
「お姉様」
「?」

忘れていた。
このビヨネッタという存在を。

求婚の瞬間に話しかけるなんて、絶対、偶然ではない。

「やあ、君は?」
「私は妹のビヨネッタです」
「ああ、君たち姉妹なのか。どちらも違った意味で目立っていたけど、姉妹とは気づかなかったよ」

レオポルドの目が妹を捕えた瞬間、私は悟った。
夢から醒める時間だと。

「そんな!素敵なお姉様と比べられたら、私なんて……あっ」
「ビヨネッタ!」

わざとらしく妹が胸を押さえてよろめく。
レオポルドはビヨネッタを抱きとめた。私の心はみるみる凍り付いていく。

「どうしたんだい?ビヨネッタ!マチルダ、これはどういう事だ?」
「ごめんなさい、レオポルド様。私、ちょっと体が弱くて……」

嘘よ。
あんなに踊っていたのに。

「マチルダ。どうして黙っている?妹が心配じゃないのか?」
「あ……私も、少し、クラクラして」

それは事実だった。
レオポルドと踊った直後にすすめられたグラスにはお酒が入っていて、慣れない私は酔ってしまったのだ。

「は?妹に対抗してるのか?君がそんな女とは思わなかった」
「……」
「レオポルド様、いけません。お姉様を責めないであげて」

言いながら、ビヨネッタは一瞬、私に舌を出して見せる。
私は壁に背をつけて俯いた。

「ああ、なんていじらしい女の子なんだ。ビヨネッタ、大丈夫だよ、僕がついている。御両親の所まで連れて行ってあげるよ。さあ行こう」
「レオポルド様……」

さっきまで私を口説いていたレオポルドは、今は、ビヨネッタを大切そうに抱きかかえて背を向けている。
そして振り返った時にはもう、私を責める目つきで冷たい言葉を吐き捨てた。

「さっきの事は忘れてくれ。僕はビヨネッタに申し込む。余計な口を挟んだら許さないぞ」
「……」

私の返事を待たずにレオポルドはビヨネッタに笑顔を向け、歩き始めた。
ビヨネッタは何度か私のほうを向いては舌を出して笑い、私を馬鹿にしていた。

「……っ」

耐えられない。
もうこんな辛い思いはたくさん。

私は駆け出した。
大広間を抜けてバルコニーへと出る。手すりに寄りかかって蹲り泣いた。

「……っく、……う」

何時間そうして泣いていただろう。
溢れる涙も勢いを失い始めた頃、コツコツと乾いた足音が背後から近づいてくるのに気付き、私は恐る恐る振り向いた。

「……誰?」
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】私から奪っていく妹にさよならを

横居花琉
恋愛
妹のメラニーに物を奪われたジャスミン。 両親はメラニーを可愛がり、ジャスミンに我慢するように言った。 やがて婚約者ができたジャスミンだったが、メラニーは婚約者も奪った。

【完結】結婚しても私の居場所はありませんでした

横居花琉
恋愛
セリーナは両親から愛されておらず、資金援助と引き換えに望まない婚約を強要された。 婚約者のグスタフもセリーナを愛しておらず、金を稼ぐ能力が目当てでの婚約だった。 結婚してからも二人の関係は変わらなかった。 その関係もセリーナが開き直ることで終わりを迎える。

【完結】本当に私と結婚したいの?

横居花琉
恋愛
ウィリアム王子には公爵令嬢のセシリアという婚約者がいたが、彼はパメラという令嬢にご執心だった。 王命による婚約なのにセシリアとの結婚に乗り気でないことは明らかだった。 困ったセシリアは王妃に相談することにした。

あなたとの縁を切らせてもらいます

しろねこ。
恋愛
婚約解消の話が婚約者の口から出たから改めて考えた。 彼と私はどうなるべきか。 彼の気持ちは私になく、私も彼に対して思う事は無くなった。お互いに惹かれていないならば、そして納得しているならば、もういいのではないか。 「あなたとの縁を切らせてください」 あくまでも自分のけじめの為にその言葉を伝えた。 新しい道を歩みたくて言った事だけれど、どうもそこから彼の人生が転落し始めたようで……。 さらりと読める長さです、お読み頂けると嬉しいです( ˘ω˘ ) 小説家になろうさん、カクヨムさん、ノベルアップ+さんにも投稿しています。

(完結)妹の為に薬草を採りに行ったら、婚約者を奪われていましたーーでも、そんな男で本当にいいの?

青空一夏
恋愛
妹を溺愛する薬師である姉は、病弱な妹の為によく効くという薬草を遠方まで探す旅に出た。だが半年後に戻ってくると、自分の婚約者が妹と・・・・・・ 心優しい姉と、心が醜い妹のお話し。妹が大好きな天然系ポジティブ姉。コメディ。もう一回言います。コメディです。 ※ご注意 これは一切史実に基づいていない異世界のお話しです。現代的言葉遣いや、食べ物や商品、機器など、唐突に現れる可能性もありますのでご了承くださいませ。ファンタジー要素多め。コメディ。 この異世界では薬師は貴族令嬢がなるものではない、という設定です。

虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~

***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」 妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。 「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」 元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。 両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません! あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。 他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては! 「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか? あなたにはもう関係のない話ですが? 妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!! ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね? 私、いろいろ調べさせていただいたんですよ? あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか? ・・・××しますよ?

妹に全てを奪われるなら、私は全てを捨てて家出します

ねこいかいち
恋愛
子爵令嬢のティファニアは、婚約者のアーデルとの結婚を間近に控えていた。全ては順調にいく。そう思っていたティファニアの前に、ティファニアのものは何でも欲しがる妹のフィーリアがまたしても欲しがり癖を出す。「アーデル様を、私にくださいな」そうにこやかに告げるフィーリア。フィーリアに甘い両親も、それを了承してしまう。唯一信頼していたアーデルも、婚約破棄に同意してしまった。私の人生を何だと思っているの? そう思ったティファニアは、家出を決意する。従者も連れず、祖父母の元に行くことを決意するティファニア。もう、奪われるならば私は全てを捨てます。帰ってこいと言われても、妹がいる家になんて帰りません。

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

処理中です...