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「あら?お姉様、素敵なリボンね。ちょうだい」

妹に目を付けられたリボンなんて、もう私のものじゃない。

「まあ、マチルダ。いい髪飾りね。ビヨネッタに似合いそう」

母は私が妹に譲るのを当然の義務と考えている。
抵抗するだけ無駄。渡さなければ私が意地悪だと責められる。

「最近はやっと素直になったようだな、マチルダ」

父に褒められた。
妹の召使いのような毎日を黙って耐えてやっと褒められた。

みんな嫌い。
この家に私の居場所なんてない。

必要なのは便利な召使いのマチルダ。

私の心は凍り付き、妹はますます元気で強欲になっていった。

どうしてあんなに元気なのに、誰も健康だと思わないの?
もう何年も熱を出して寝込んですらいないのに、何が心配なの?

「お姉様って動く人形みたいね」
「……」
「もうちょっと召使いらしくしてよ。つまんない」

さすがに酷すぎる。
我慢の限界で頭に血が上り私は後先考えず母にこの事を話してしまった。

「まあ!あなた、なんていう嘘を吐くの!?」
「え……?」
「ビヨネッタがあなたを召使いのように扱うはずがないでしょう?」
「いいえ、お母様。本当にそう言われました」
「いい加減にしなさい。見損なったわ、マチルダ。妹に優しくしてあげる事さえ気持ちよくできないなんて、あなたはまともな人間じゃないわ」

それから母の態度は桁違いに冷たくなった。

例えば食事中にビヨネッタがフォークを落としたりする。
そうすると母はビヨネッタのような事を言う。

「あら、気にしないでビヨネッタ。マチルダが拾えばいいの」

どうして私が?
そう戸惑っている私に向かって、父は人格を疑うようなきつい目線を送ってくる。

仕方ないわね……私が拾えばみんなそれで気が済むのね……

「嫌ならやらなくてもいいんだぞ。一人で生きていけるなら、いつでも好きな時に出て行け」
「……いいえ。拾います。拾わせて頂きます」

悔しい……
涙が零れたけれど、母が溜息をついて私を呆れ顔で見下している。

「お姉様!」

ビヨネッタが椅子から転げ落ちるような勢いで傍に跪いた。

「ごめんなさいお姉様!私が拾えばよかったのに。ああ、お姉様、泣かないで。フォークを拾うのがそんなに辛いなんて思わなかったの。次からは自分で自分の事はするようにするわ。だから泣かないで、大切なマチルダお姉様!」
「……は?」

ビヨネッタが私を抱きしめて変な事を言っている。

でも……
だけど……

私の耳元には、ビヨネッタのクククククという低い笑い声が続いている。

「まあ、なんて優しい子なんでしょう!」
「マチルダ!お前は恥ずかしくないのか?ビヨネッタはこんなにもお前を愛してくれているのに、お前は姉として愛情を返せないのか?お前は人として欠陥品だ。実に嘆かわしい」

妹の笑い声が聞こえず、妹の後ろ姿しか見えない両親は、私を責める。

こんなの、酷すぎる。

私は心を殺して言われた通りに頑張っているのに、どこまで服従しても認めてはもらえない。

私が健康だから?
私が姉だから?

だからなんだというの?

「そんなに私が疎ましいならご自分でお捨てになればいいではありませんか!殺せばいいのです!ほら!このフォークで殺してください!」

涙が止まらない。
叫びが止まらない。

「きゃっ!」

ビヨネッタが怯えた演技で私から離れる。
そんなビヨネッタに母が駆けつけ抱きしめた。

「見ちゃだめよビヨネッタ。あなたには関係ない」

は?

「マチルダ、お前、気でも狂ったか?」
「お父様……?」
「お前が何を言っているかわからない。次同じ事があれば、お前は精神病院に入れざるを得ない」

その瞬間、燃えるようだった頭が冷めた。
狂っているのは私ではなく、家族では?

「家から追い出して他人様に迷惑をかけるわけにはいかん」
「お父様……私……」

狂っていません。
傷ついています。悲しいです。寂しいです。

どうして私を娘として愛してくれないの?
ビヨネッタを可愛がって大切に愛せるのに、どうして?

「ビヨネッタの結婚に悪い影響を及ぼす危険がある」
「!」

世界はビヨネッタ中心に回っている。
そんな現実に圧し潰されそうだった。
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