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24(レジナルド)

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久しぶりに対峙した妻フェルネの思いがけない人間味に少なからず感心しながら厩舎に向かう。

時を越えた真実の愛だのなんだとの揶揄されがちだが関係ない。
今、初めて私たちの人生は交わり、私たちだけの物語が紡がれている。

母が生きていたなら同じような夢物語に心を踊らせるだろうか。

「……」

母を想うと幼き日に置き去りにしたはずの悲愴が滓のように鈍く緩慢ながら私を捕える。
しかしその瞬間に妻フェルネの盛大なくしゃみが脳裏に蘇った。

「……跡継ぎか」

弟がくしゃみの拍子で出て来ていたら、今頃……

「ふっ」

私としたことが。
過去を嘆きもしもと空想を繰り広げても虚しいだけだというのに。

「……」

忘れたはずの痛みよりも、寧ろ楽しいような錯覚を覚える。それもこれもフェルネの思いがけない人間味に触発されてのことだろう。

終わりなき艱難のようで対処次第ながら破壊的なくしゃみ。
私の亡き母と弟を偲ぶ静謐さを湛えた穏やかな眼差し。

妻が私の心に火を灯す。
心に実体があればの話だが、深く考えるには及ばない。比喩。或いは慣用句。

妻フェルネには私の心を惹き付ける真理のような何かが備わっているが、人々はそれを先祖の悲恋と絡めてしか語ろうとしない。

だが私は違う。
そんなものは唾棄すべき絵空事だと以前は考えていた。

しかし妻フェルネと再会して理解した。
祖父には及ばないにしろ、祖父がシャーリン王女に抱いた想いと同じ素質が私の中にもあるようだ。

義務でも正義感でもなく、夫という立場さえ霞むほどに尽くしてみたくなる。
私に気の無い素振りでそれはそれで風通しがよく好ましいのだが、ふとした瞬間に思いがけない心の交流が生まれる。それが楽しい。

そう、フェルネと過ごす一瞬は須らく楽しい。

恋だの愛だのと言葉にしなければならないなら、いっそ、時を越えた真実の愛と吹聴される通りその言葉を用いても構わない。

夫婦の相互理解に他人の踏み込む余地はないのだ。

人は常に好き勝手な思考をさも事実のように吹聴し、それが事実だと思い込む。貴族社会に於いては噂話を忌避するのがせいぜいで、噂話そのものを消し去るのは不可能に近い。口を塞ぐわけにもいかない。極めて些末な事情でありながら手を汚すなど言語道断。

私は今後、尋ねられれば妻フェルネ以外にも断言しよう。
先祖の悲恋は関係ないと。

「何故だろう。そうしたい」

愛馬の首を撫で自分が微笑んでいる事実に気づいたが、それさえ心地よく思える。

相互作用で変化していく。
私とフェルネは私たちでしか辿り着けない未来へと向かい、やがて完成するのだろう。

これは先祖たちではなく、私とフェルネ、二人の運命だ。
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