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パトリックからの慰謝料がまた届いた。

私との婚約破棄から暫くは身勝手な行いに対しての非難が集中したようだった。併しあまりにも早く二人が結婚した為に非難は大きく膨れ上がった。
私は悲しみながら驚き、驚きながら呆れ、これでよかったのだと思うようになるまでそう時間はかからなかった。

パトリック……ラムリー伯爵のような人と結婚しなくてよかったのだ、と。

併しどうも私がラムリー伯爵夫妻への集中砲火を先導していると勘違いされたようで、短い抗議文と共に届けられたのが二度目の慰謝料だったのだ。

クレイン伯爵家としてもうラムリー伯爵とヒューソン伯爵家の結婚話について関与したくない旨を伝えると、意外にも素直に誤解して申し訳なかったという旨の慰謝料が届いた。それが今回だ。

「……〝たった一人の祝福でも感謝する〟と書いてありました」
「愚かね」

母は無表情で冷たく吐き捨て、その背後で第一王女イヴォーン殿下が喉を震わせて笑った。

「ああ。面白い土産話をありがとう、シンシア」

イヴォーン王女はお気に入りの椅子に寛いで座っている。

宮廷に上がった私はまず母の下で見習い期間を過ごすことになっていたのだけれど、まさかイヴォーン王女の私室に招かれるとは思っていなかった。

イヴォーン王女は母より少し年上である。
婚期を逃したと揶揄されはするものの、気品に溢れながら揚々としていて非常に親しまれている王族の一人でもある。

レロヴァス王国の宮殿は賑やかだ。

国王陛下夫妻の威光の下に、王太子ウィンフレッド夫妻が公務に勤しんでいる。

第二王子タンクレッド殿下は17才から修道士となり現在は王都の大聖堂で司教の席に着いていた。王族から籍を抜く抜かないの問題は既に30年以上議論されていてどう決着がつくのかが民の関心を集めている次第だ。

イヴォーン王女は陛下夫妻のもうけた三姉妹の長女であり、唯一独身を貫いている。

第二王女クラリス殿下はリダウト伯爵を婿に迎えた後、延々と国外旅行を繰り返し自国には滅多に寄り付かない。
外交と諜報を兼ねた旅行の一師団は王国にあらゆるニュースや娯楽を齎してくれる。

第三王女ゾーイ殿下はミルネール公爵家に嫁いだ。
この夫妻は幼馴染でもあり、その純愛は民の憧れの象徴でもあるのでイヴォーン王女とはまた違った意味で人気だ。
優しいゾーイ王女は各地の孤児院や診療所への慰問を熱心に行う傍ら、様々な理由で住む家を失くした女性の支援も続けている。

ここまでが国王夫妻の王子、王女たち。

王太子夫妻には三人の王子がいる。

第三王子ヒース殿下、第四王子ジュリアン殿下、そして第五王子ファロン殿下。

私はファロン王子が来年迎える妃、イゥツェル神教国のレミア姫に仕える侍女として召喚されたのだった。
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