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32(グレッグ)
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数年顔を出さないくらいで長年の伝統が変わるわけもなく、パーティーは夜の早い時間にお開きとなった。
後は家族の時間だ。
緊張していたレーラも可愛かったが、ミランダの支えになろうと奮起した姿に感動させられた。素晴らしい妻に愛されて、子供たちは可愛くて、私は幸せを噛み締めていた。
ベテランの乳母と合流すると、双子は乳母車ですやすやと寝息を立てていた。天使だ。
「デズモンド様がとても仲良くしてくださいましたよ」
その一言に、レーラも嬉しそうな笑みを見せた。
新しい絆が築かれて、全ては順風満帆かに思えた。
その、深夜。
私はミランダに呼び出された。
寛ぐための椅子が並ぶ広い廊下で落ち合った従姉妹は、思い詰めた口ぶりで信じられない言葉を口にする。
「グレッグ。レーラを信用していいの?」
「……何?」
聞き間違い、ではない。
それがわかっているからこそ、動揺が隠せない。
「なぜ、そんな事を?」
「ある方から聞いたのよ。レーラは愛を奪う天才だって」
は?
「どこの誰に?」
「言えないわ。その方の命が危ないから」
「何を……ミランダ、何を言っているんだ?」
私の戸惑いに更なる危機感を勝手に覚えたらしいミランダが、そこから早口で捲し立てる。
「レーラは悲劇の令嬢と呼ばれていたけれど、それも全て計算の内だったのよ。愛しあう二人の間に政略結婚という正論を武器に割り込んで、相手を悪者に仕立て上げて、何の罪もない人たちの人生を滅茶苦茶にしてしまったわ」
「……ミランダ……」
「あなたは利用されている。私も今日、騙されそうになった。レーラはとても可憐で、芯が強くて、それがとびきり美しく目に映るの。だけど本当は自分の利益のために身近な人を破滅させる恐ろしい人なのよ」
「……」
「考えてみて。幼馴染と婚約者と父親を闇に葬ったのよ?普通じゃないわ」
「ミランダ、あれは……」
「あなたは今レーラに夢中だから気づかないかもしれない。でも私、あなたに傷ついてほしくないの。だから」
「落ち着いてくれ、ミランダ。君は誤解している。私が妻を守るためにした事だ」
「ほら利用されているじゃない」
聞く耳を持たない。
赤の他人なら非礼を責めるところだが、相手はミランダ。実の妹のようにして育った大切な従姉妹だ。
一体どうしてこうなった?
今日確かに打ち解けていたはずなのに。
「……」
邪悪な影が這い寄る気配に、体がすっと冷えていく。
嫌な予感を確信に変えたのは、続くミランダの言葉。
「私の未来もレーラに奪われてしまったのよ、グレッグ。本当なら、あなたのあとをデズモンドが継ぐはずだったのに」
「!?」
らしくないどころではない。
耳を疑った。そして残酷な現実と対決する。
「パトリシアか?」
「……」
「パトリシアに会ったのか?」
「……」
沈黙は肯定だ。
思わず額に手を当てて悪態をついた。
「なんと言う事だ……!」
ミランダの弱った心に付け込んだのだ。しかし、いつ。どうやって?
「どこで会った?訪ねて来たのか?」
「……」
ミランダは答えない。
頑なに唇を結び、虚空を睨んでいる。
「ああ、ミランダ……君は騙されているんだ。あの女は──」
「グレッグ?どうしたの?」
廊下の暗闇から放たれたレーラの声に、私とミランダは息を止めた。
後は家族の時間だ。
緊張していたレーラも可愛かったが、ミランダの支えになろうと奮起した姿に感動させられた。素晴らしい妻に愛されて、子供たちは可愛くて、私は幸せを噛み締めていた。
ベテランの乳母と合流すると、双子は乳母車ですやすやと寝息を立てていた。天使だ。
「デズモンド様がとても仲良くしてくださいましたよ」
その一言に、レーラも嬉しそうな笑みを見せた。
新しい絆が築かれて、全ては順風満帆かに思えた。
その、深夜。
私はミランダに呼び出された。
寛ぐための椅子が並ぶ広い廊下で落ち合った従姉妹は、思い詰めた口ぶりで信じられない言葉を口にする。
「グレッグ。レーラを信用していいの?」
「……何?」
聞き間違い、ではない。
それがわかっているからこそ、動揺が隠せない。
「なぜ、そんな事を?」
「ある方から聞いたのよ。レーラは愛を奪う天才だって」
は?
「どこの誰に?」
「言えないわ。その方の命が危ないから」
「何を……ミランダ、何を言っているんだ?」
私の戸惑いに更なる危機感を勝手に覚えたらしいミランダが、そこから早口で捲し立てる。
「レーラは悲劇の令嬢と呼ばれていたけれど、それも全て計算の内だったのよ。愛しあう二人の間に政略結婚という正論を武器に割り込んで、相手を悪者に仕立て上げて、何の罪もない人たちの人生を滅茶苦茶にしてしまったわ」
「……ミランダ……」
「あなたは利用されている。私も今日、騙されそうになった。レーラはとても可憐で、芯が強くて、それがとびきり美しく目に映るの。だけど本当は自分の利益のために身近な人を破滅させる恐ろしい人なのよ」
「……」
「考えてみて。幼馴染と婚約者と父親を闇に葬ったのよ?普通じゃないわ」
「ミランダ、あれは……」
「あなたは今レーラに夢中だから気づかないかもしれない。でも私、あなたに傷ついてほしくないの。だから」
「落ち着いてくれ、ミランダ。君は誤解している。私が妻を守るためにした事だ」
「ほら利用されているじゃない」
聞く耳を持たない。
赤の他人なら非礼を責めるところだが、相手はミランダ。実の妹のようにして育った大切な従姉妹だ。
一体どうしてこうなった?
今日確かに打ち解けていたはずなのに。
「……」
邪悪な影が這い寄る気配に、体がすっと冷えていく。
嫌な予感を確信に変えたのは、続くミランダの言葉。
「私の未来もレーラに奪われてしまったのよ、グレッグ。本当なら、あなたのあとをデズモンドが継ぐはずだったのに」
「!?」
らしくないどころではない。
耳を疑った。そして残酷な現実と対決する。
「パトリシアか?」
「……」
「パトリシアに会ったのか?」
「……」
沈黙は肯定だ。
思わず額に手を当てて悪態をついた。
「なんと言う事だ……!」
ミランダの弱った心に付け込んだのだ。しかし、いつ。どうやって?
「どこで会った?訪ねて来たのか?」
「……」
ミランダは答えない。
頑なに唇を結び、虚空を睨んでいる。
「ああ、ミランダ……君は騙されているんだ。あの女は──」
「グレッグ?どうしたの?」
廊下の暗闇から放たれたレーラの声に、私とミランダは息を止めた。
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