32 / 46
32(グレッグ)
しおりを挟む
数年顔を出さないくらいで長年の伝統が変わるわけもなく、パーティーは夜の早い時間にお開きとなった。
後は家族の時間だ。
緊張していたレーラも可愛かったが、ミランダの支えになろうと奮起した姿に感動させられた。素晴らしい妻に愛されて、子供たちは可愛くて、私は幸せを噛み締めていた。
ベテランの乳母と合流すると、双子は乳母車ですやすやと寝息を立てていた。天使だ。
「デズモンド様がとても仲良くしてくださいましたよ」
その一言に、レーラも嬉しそうな笑みを見せた。
新しい絆が築かれて、全ては順風満帆かに思えた。
その、深夜。
私はミランダに呼び出された。
寛ぐための椅子が並ぶ広い廊下で落ち合った従姉妹は、思い詰めた口ぶりで信じられない言葉を口にする。
「グレッグ。レーラを信用していいの?」
「……何?」
聞き間違い、ではない。
それがわかっているからこそ、動揺が隠せない。
「なぜ、そんな事を?」
「ある方から聞いたのよ。レーラは愛を奪う天才だって」
は?
「どこの誰に?」
「言えないわ。その方の命が危ないから」
「何を……ミランダ、何を言っているんだ?」
私の戸惑いに更なる危機感を勝手に覚えたらしいミランダが、そこから早口で捲し立てる。
「レーラは悲劇の令嬢と呼ばれていたけれど、それも全て計算の内だったのよ。愛しあう二人の間に政略結婚という正論を武器に割り込んで、相手を悪者に仕立て上げて、何の罪もない人たちの人生を滅茶苦茶にしてしまったわ」
「……ミランダ……」
「あなたは利用されている。私も今日、騙されそうになった。レーラはとても可憐で、芯が強くて、それがとびきり美しく目に映るの。だけど本当は自分の利益のために身近な人を破滅させる恐ろしい人なのよ」
「……」
「考えてみて。幼馴染と婚約者と父親を闇に葬ったのよ?普通じゃないわ」
「ミランダ、あれは……」
「あなたは今レーラに夢中だから気づかないかもしれない。でも私、あなたに傷ついてほしくないの。だから」
「落ち着いてくれ、ミランダ。君は誤解している。私が妻を守るためにした事だ」
「ほら利用されているじゃない」
聞く耳を持たない。
赤の他人なら非礼を責めるところだが、相手はミランダ。実の妹のようにして育った大切な従姉妹だ。
一体どうしてこうなった?
今日確かに打ち解けていたはずなのに。
「……」
邪悪な影が這い寄る気配に、体がすっと冷えていく。
嫌な予感を確信に変えたのは、続くミランダの言葉。
「私の未来もレーラに奪われてしまったのよ、グレッグ。本当なら、あなたのあとをデズモンドが継ぐはずだったのに」
「!?」
らしくないどころではない。
耳を疑った。そして残酷な現実と対決する。
「パトリシアか?」
「……」
「パトリシアに会ったのか?」
「……」
沈黙は肯定だ。
思わず額に手を当てて悪態をついた。
「なんと言う事だ……!」
ミランダの弱った心に付け込んだのだ。しかし、いつ。どうやって?
「どこで会った?訪ねて来たのか?」
「……」
ミランダは答えない。
頑なに唇を結び、虚空を睨んでいる。
「ああ、ミランダ……君は騙されているんだ。あの女は──」
「グレッグ?どうしたの?」
廊下の暗闇から放たれたレーラの声に、私とミランダは息を止めた。
後は家族の時間だ。
緊張していたレーラも可愛かったが、ミランダの支えになろうと奮起した姿に感動させられた。素晴らしい妻に愛されて、子供たちは可愛くて、私は幸せを噛み締めていた。
ベテランの乳母と合流すると、双子は乳母車ですやすやと寝息を立てていた。天使だ。
「デズモンド様がとても仲良くしてくださいましたよ」
その一言に、レーラも嬉しそうな笑みを見せた。
新しい絆が築かれて、全ては順風満帆かに思えた。
その、深夜。
私はミランダに呼び出された。
寛ぐための椅子が並ぶ広い廊下で落ち合った従姉妹は、思い詰めた口ぶりで信じられない言葉を口にする。
「グレッグ。レーラを信用していいの?」
「……何?」
聞き間違い、ではない。
それがわかっているからこそ、動揺が隠せない。
「なぜ、そんな事を?」
「ある方から聞いたのよ。レーラは愛を奪う天才だって」
は?
「どこの誰に?」
「言えないわ。その方の命が危ないから」
「何を……ミランダ、何を言っているんだ?」
私の戸惑いに更なる危機感を勝手に覚えたらしいミランダが、そこから早口で捲し立てる。
「レーラは悲劇の令嬢と呼ばれていたけれど、それも全て計算の内だったのよ。愛しあう二人の間に政略結婚という正論を武器に割り込んで、相手を悪者に仕立て上げて、何の罪もない人たちの人生を滅茶苦茶にしてしまったわ」
「……ミランダ……」
「あなたは利用されている。私も今日、騙されそうになった。レーラはとても可憐で、芯が強くて、それがとびきり美しく目に映るの。だけど本当は自分の利益のために身近な人を破滅させる恐ろしい人なのよ」
「……」
「考えてみて。幼馴染と婚約者と父親を闇に葬ったのよ?普通じゃないわ」
「ミランダ、あれは……」
「あなたは今レーラに夢中だから気づかないかもしれない。でも私、あなたに傷ついてほしくないの。だから」
「落ち着いてくれ、ミランダ。君は誤解している。私が妻を守るためにした事だ」
「ほら利用されているじゃない」
聞く耳を持たない。
赤の他人なら非礼を責めるところだが、相手はミランダ。実の妹のようにして育った大切な従姉妹だ。
一体どうしてこうなった?
今日確かに打ち解けていたはずなのに。
「……」
邪悪な影が這い寄る気配に、体がすっと冷えていく。
嫌な予感を確信に変えたのは、続くミランダの言葉。
「私の未来もレーラに奪われてしまったのよ、グレッグ。本当なら、あなたのあとをデズモンドが継ぐはずだったのに」
「!?」
らしくないどころではない。
耳を疑った。そして残酷な現実と対決する。
「パトリシアか?」
「……」
「パトリシアに会ったのか?」
「……」
沈黙は肯定だ。
思わず額に手を当てて悪態をついた。
「なんと言う事だ……!」
ミランダの弱った心に付け込んだのだ。しかし、いつ。どうやって?
「どこで会った?訪ねて来たのか?」
「……」
ミランダは答えない。
頑なに唇を結び、虚空を睨んでいる。
「ああ、ミランダ……君は騙されているんだ。あの女は──」
「グレッグ?どうしたの?」
廊下の暗闇から放たれたレーラの声に、私とミランダは息を止めた。
1,556
あなたにおすすめの小説
【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。
彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。
目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
幼馴染が夫を奪った後に時間が戻ったので、婚約を破棄します
天宮有
恋愛
バハムス王子の婚約者になった私ルーミエは、様々な問題を魔法で解決していた。
結婚式で起きた問題を解決した際に、私は全ての魔力を失ってしまう。
中断していた結婚式が再開すると「魔力のない者とは関わりたくない」とバハムスが言い出す。
そしてバハムスは、幼馴染のメリタを妻にしていた。
これはメリタの計画で、私からバハムスを奪うことに成功する。
私は城から追い出されると、今まで力になってくれた魔法使いのジトアがやって来る。
ずっと好きだったと告白されて、私のために時間を戻す魔法を編み出したようだ。
ジトアの魔法により時間を戻すことに成功して、私がバハムスの妻になってない時だった。
幼馴染と婚約者の本心を知ったから、私は婚約を破棄します。
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう
天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。
侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。
その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。
ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。
王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。
ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる