上 下
24 / 46

24

しおりを挟む
ワージントン伯爵が息子のロバートを勘当したというニュースは、ありふれたつまらない話題として緩やかに広まった。
神経質な人が今更感に辟易したくらいで、すぐ忘れ去られた。

私も、今やどうでもよくなっていた。

気にしないように努めている例の件、実の父親が私の幼馴染の養父になった事の方が、余程頭を悩ませる。

幸い、良識ある貴族社会において、私は好奇の目に晒されるどころか励ましを得ている。夫のグレッグは優秀な子爵で将来も約束され、私もその善き妻であるようにと努力している姿勢が認められている。

唯一、深刻であるとすれば、懐妊の兆しがない事くらいだ。

結婚一年目はさほど問題にならなかった。
けれどそのまま三年目に入り、ついに無視できなくなった。その分、父やその再婚相手と娘の事は無視できるようになっていた。

「グレッグ、ごめんなさい……っ」

医師の診断は残酷だった。
かつて私が昏睡状態に陥った事が、妊娠しにくい体質になってしまった原因ではないかと、そう結論付けられた。

「あなたがいる、それが私の幸せだ。まだできないと決まったわけじゃないよ」
「だけど……もし、できなかったら?あなたには跡継ぎが必要なのに……!」

ワイズ子爵としての務めが果たせない。
それがどれだけグレッグの立場を不利にしてしまうか、私は酷い罪悪感に苛まれた。

ところがグレッグはわけもなく言った。

「なに、元より甥の私が継ぐ爵位だ。また親族に委ねればいい」
「でも……」
「親族みんな関係は良好だ。大丈夫、将来は安泰だよ。あなたが笑顔でいてくれたら、それでいいんだ」

上辺だけの慰めではないと、じわじわと実感させられ、その愛情が深い分、私は辛くなった。申し訳なくて、情けなくて。

「あなたの母性が子供を欲するなら、医者を雇って、無理ない範囲で体調を整えるのもいいだろう。だけど、私や家の体面のために思い詰めないでほしい。あなたがいてくれる事、それが何より大切な事だから。わかるね?レーラ」
「グレッグ……」

私は医者を雇った。
病気というわけではないので何ら厳しい制約は課せられなかったけれど、気を遣った分、ただ健康度が増した。

「あなたは一人娘だし、元から多産ではない家系だから……」

遊びに来た母からズレた慰め方をされて、若干の諦めも過った。
そんな時、事件は起きた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください。 そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。 政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。 しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。 それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。 よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。 泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。 もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。 全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。 そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。

あなたの姿をもう追う事はありません

彩華(あやはな)
恋愛
幼馴染で二つ年上のカイルと婚約していたわたしは、彼のために頑張っていた。 王立学園に先に入ってカイルは最初は手紙をくれていたのに、次第に少なくなっていった。二年になってからはまったくこなくなる。でも、信じていた。だから、わたしはわたしなりに頑張っていた。  なのに、彼は恋人を作っていた。わたしは婚約を解消したがらない悪役令嬢?どう言うこと?  わたしはカイルの姿を見て追っていく。  ずっと、ずっと・・・。  でも、もういいのかもしれない。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

【完結】わたしの欲しい言葉

彩華(あやはな)
恋愛
わたしはいらない子。 双子の妹は聖女。生まれた時から、両親は妹を可愛がった。 はじめての旅行でわたしは置いて行かれた。 わたしは・・・。 数年後、王太子と結婚した聖女たちの前に現れた帝国の使者。彼女は一足の靴を彼らの前にさしだしたー。 *ドロッとしています。 念のためティッシュをご用意ください。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

処理中です...