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婚約発表の日。
それはグレッグの叔父であるウィンスレイド伯爵家主催の晩餐会での事。
案の定、どこで聞きつけるのかロバートが現れた。
「待ってくれ。考え直してくれ。僕たちはあんなに幸せだったじゃないか。今ならまだ間に合う。もう一度やり直そう」
「帰ってください。あなたは招かれていないでしょう?迷惑よ」
「おっと、これはこれは。少し目を離した隙に、元婚約者殿の登場か。もしやとは思ったが本当に来るとは。初めまして」
理解あるグレッグは、内心面白くないはずなのに、事を荒立てないようにと努めてくれる。
「ごめんなさい、グレッグ。今日は大切な日なのに」
「いいさ。これくらい覚悟の上だ。さて、未練がましいワージントン伯爵家の問題児には退散願おう」
使用人たちを促して、グレッグがロバートを追い出しにかかる。
私は恥ずかしさと申し訳なさで、悲鳴を上げそうだったけれど、なんとか堪えていた。
ロバートを前にすると、離婚間近の両親も急に息が合って、追い出す人たちに加わり見事な連係プレイを見せた。そういう意味で、私たちは一つだった。
「なに、笑い話になるさ」
グレッグはそう言って笑い飛ばした。
「これは結婚式にも押し掛けてくる可能性があるぞ。いっそ席を用意しようか」
冗談まで言ってくれたけれど、さすがに笑えない。
「レーラ。睨んでも可愛いって知っててやっているのかい?」
「もう。そう言えばいいと思って」
「気を取り直して、私に幸せを自慢させてくれ。婚約を発表しよう」
微笑んで、キスをして。
私たちは晴れて、公に婚約を発表した。そして未練がましいロバートもいる事だし……と、結婚も急ぐ事に。なんと半年後だ。
大忙しの準備期間、嬉しい事が続いた。
母の長兄で私の伯父であるウェズレイ伯爵がお祝いを持って訪ねてくれた。
「厳しい事を言ってすまなかった。計画があったのだ」
私は、伯父が父より老けていたので、驚いて言葉を失っていた。
「親子ほど年の離れた末の妹が可愛くないはずがない。レーラ、お前だってそうだ。これからは私を父親と思って頼って欲しい」
「え……?」
なんと、私が結婚し母が離婚したら、父にかなりきつい制裁を加えるのだという。
「お前が受け取るべき分まで搾り取るわけにはいかないだろう。だから、回りくどいが順を追って泳がせようと思ったのだよ」
「……そう、ですか」
なんとも言えない。
御礼を言うのも変な気がするし、かと言って、父を庇う気は微塵もない。
嘘を吐くな。
そこまで落ちぶれたのか。
殺してやるからな。
そう暴言を吐いた時の、父が私を見る、あの、汚物を見るような目を、生涯忘れる事はできない。
「わかりました。よろしくお願い致します」
「うむ。お前は母親よりずっと大人だな。偉い偉い」
初めて大きな掌で頭を撫でられる。
胸の奥が、ぼっと、あたたかく緩むのを感じた。私は安心したのだと、あとから気づいた。
グレッグが言ってくれたように、私の周りには、私を支えようという意志を持って寄ってきてくれる人が確かにいるのだ。
気が緩むと、涙が出そうで、私は必死にそれを堪えた。今更、泣き顔なんて誰にも見られたくはない。
また裏切られるかもしれない。
また、何か事件が起きた時に信じてもらえないかもしれない。
それでも、今は、今私に愛情をもって微笑んでくれる人の気持ちを疑わずに受け止めたい。そう思えた事は、私にとって、少なくとも小さいとは言えない幸せだった。
それはグレッグの叔父であるウィンスレイド伯爵家主催の晩餐会での事。
案の定、どこで聞きつけるのかロバートが現れた。
「待ってくれ。考え直してくれ。僕たちはあんなに幸せだったじゃないか。今ならまだ間に合う。もう一度やり直そう」
「帰ってください。あなたは招かれていないでしょう?迷惑よ」
「おっと、これはこれは。少し目を離した隙に、元婚約者殿の登場か。もしやとは思ったが本当に来るとは。初めまして」
理解あるグレッグは、内心面白くないはずなのに、事を荒立てないようにと努めてくれる。
「ごめんなさい、グレッグ。今日は大切な日なのに」
「いいさ。これくらい覚悟の上だ。さて、未練がましいワージントン伯爵家の問題児には退散願おう」
使用人たちを促して、グレッグがロバートを追い出しにかかる。
私は恥ずかしさと申し訳なさで、悲鳴を上げそうだったけれど、なんとか堪えていた。
ロバートを前にすると、離婚間近の両親も急に息が合って、追い出す人たちに加わり見事な連係プレイを見せた。そういう意味で、私たちは一つだった。
「なに、笑い話になるさ」
グレッグはそう言って笑い飛ばした。
「これは結婚式にも押し掛けてくる可能性があるぞ。いっそ席を用意しようか」
冗談まで言ってくれたけれど、さすがに笑えない。
「レーラ。睨んでも可愛いって知っててやっているのかい?」
「もう。そう言えばいいと思って」
「気を取り直して、私に幸せを自慢させてくれ。婚約を発表しよう」
微笑んで、キスをして。
私たちは晴れて、公に婚約を発表した。そして未練がましいロバートもいる事だし……と、結婚も急ぐ事に。なんと半年後だ。
大忙しの準備期間、嬉しい事が続いた。
母の長兄で私の伯父であるウェズレイ伯爵がお祝いを持って訪ねてくれた。
「厳しい事を言ってすまなかった。計画があったのだ」
私は、伯父が父より老けていたので、驚いて言葉を失っていた。
「親子ほど年の離れた末の妹が可愛くないはずがない。レーラ、お前だってそうだ。これからは私を父親と思って頼って欲しい」
「え……?」
なんと、私が結婚し母が離婚したら、父にかなりきつい制裁を加えるのだという。
「お前が受け取るべき分まで搾り取るわけにはいかないだろう。だから、回りくどいが順を追って泳がせようと思ったのだよ」
「……そう、ですか」
なんとも言えない。
御礼を言うのも変な気がするし、かと言って、父を庇う気は微塵もない。
嘘を吐くな。
そこまで落ちぶれたのか。
殺してやるからな。
そう暴言を吐いた時の、父が私を見る、あの、汚物を見るような目を、生涯忘れる事はできない。
「わかりました。よろしくお願い致します」
「うむ。お前は母親よりずっと大人だな。偉い偉い」
初めて大きな掌で頭を撫でられる。
胸の奥が、ぼっと、あたたかく緩むのを感じた。私は安心したのだと、あとから気づいた。
グレッグが言ってくれたように、私の周りには、私を支えようという意志を持って寄ってきてくれる人が確かにいるのだ。
気が緩むと、涙が出そうで、私は必死にそれを堪えた。今更、泣き顔なんて誰にも見られたくはない。
また裏切られるかもしれない。
また、何か事件が起きた時に信じてもらえないかもしれない。
それでも、今は、今私に愛情をもって微笑んでくれる人の気持ちを疑わずに受け止めたい。そう思えた事は、私にとって、少なくとも小さいとは言えない幸せだった。
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