竜の優しい契約

最悪爽快マン

文字の大きさ
上 下
6 / 7

6

しおりを挟む
村人たちと共に村の広場に向かうと、白銀の鎧の壁ができていた。
同じ鎧に身を固め、立派な馬を引き連れた騎士たちは整然と佇んでいる。しかし違うものもいた。粗末な革鎧を着た、武器も粗末なもので、鍬やら農具を改造しただけのガラクタを持ってるやつもいる。おそらく俺のような傭兵か、農民に毛の生えたような者だろう。

中央にいる、おそらく指揮官であろう大柄の男が数歩前に出た。そして低く重い声でこちらに呼びかける。

「我々はヴォラグ討伐のために作られた中規模軍である。ルミナエ王国騎士団第一部隊を主体にはしているが、ヴォラグ討伐の志を共にする者も多い」
「私たちには戦力が足りない、そのため国中を周りヴォラグ討伐のための兵を募っているのだ。どうか私たちと共に戦ってくれ!」

指揮官の横にいる、小柄な騎士が言う。少し舌っ足らずの高い声。あれが副官だろうか。
村人たちは騎士の言葉を聞くとざわつき始めた。

「俺たちの中から兵士を?そりゃ光栄なことだ!」
「きっと武功を立てればデカい報酬がもらえるぞ」
「でも相手はヴォラグよ?死ぬかもしれないわ」
「そうだ、今行けば再来月の収穫に間に合わないかもしれない」

ああだこうだと話し合っている。若者の何人かは息巻いている者もいたが、親から止められたりして志願する者はいない。
騎士たちは乗り気ではない村人たちを見ても嘆くことはなく、それも当然だとばかりに居住いを正す。

「俺は行くぞ」

剣を持ち騎士団の前に進む。皆の視線が自分に集まっているのが分かる、俺は背を伸ばすと、緊張を和らげるために少し笑った。
白銀の鎧をみにまとう騎士は、フルフェイスのせいで表情は見えなかった。しかし、こちらを品定めするような視線は感じられる。

「貴方は傭兵か?」

副官であろう人物に問われる。

「ああ、村の住人じゃない。依頼されて滞在してる傭兵のアッシュだ」
「アッシュ?ふむ、もしかして貴方は“竜殺しの傭兵”アッシュ・エンバート殿か?」
「……俺ってそんなに名が知れてるのか?」

そんなかっこいい二つ名記憶に無いんだが。

「ああ、ドラゴン殺しの依頼ばかり請け負っている変わった傭兵だともっぱらの噂だぞ。良かったな隊長!なかなかの人材だ!」

朗らかに話しかけられた“隊長”は、重い雰囲気を纏わせたままわずかにうなづく。

「ドラゴン殺し、か」

後ろからの声に振り向く。スレヴィオンが変わらぬ無表情でこちらを見つめていた。

「なんだよ、言ったろ?俺は結構有名な傭兵だって」
「貴様ごときの力で殺されるドラゴンがいるのか?蛇の間違いじゃないのか。いや、蛇にも負けていたのに」
「だー!うるせえなあ!あれは人質がいたからで……」
「そこの御仁はどなたかな?」

副官が明るい声でこちらに問いかける。俺はスレヴィオンの腕をとると、無理やり騎士たちの前に連れてくる。スレヴィオンは力はあまり強くないようで、少し引っ張れば容易く動かせる。唯一勝てるところだ。

「こいつは俺の傭兵仲間だ。魔術師のスレヴィオン」
「おい、勝手に紹介するな」
「スレヴィオン殿か、軍には魔術師が圧倒的に足りていないのだ、是非とも協力して欲しい!」
「……いや、私は別に」

「入るといい、スレヴィオン殿」

突然“隊長”が大きな声を上げる。威圧感のある佇まいと、有無を言わせない低い声に周囲が押し黙る。

「大きな活躍をした者には相応の恩賞を、参加しただけでもそれなりの報酬が与えられる。危険だろうが、国のために戦えるのなら名誉なことだろう」

まるで大波が全てを押し流すような、大きく威厳のある声。なるほど彼が軍をまとめてるのも頷ける。
しかしスレヴィオンは、なんとも不機嫌そうな表情で隊長を睨んでいた。杖を持った手は白ばみ、相応の怒りを抱いていることが察せられる。

「……貴様、誰にものを言っている」

その細い体のどこから出ているのか、地に響くような声を広場中に響かせる。相手は国の騎士なのにその言い方は不味いんじゃないかと思いつつ、スレヴィオンの肩を掴む。

「こいつ人見知りなんだよ。でも本当に腕が立つんだ、なあ」
「私は入らない。そも、ヴォラグを倒そうなどという世迷言を並べるようなやつらは信用ならない」

スレヴィオンは背を向けて歩き出す。きっと村の入り口に向かっているのだろう。

「なんでそんなこと言うんだよ。この人数がいるんだ、協力すれば勝てる」
「お前たちはヴォラグの脅威を知らないから言えるのだ」

こちらを振り返らずに話を続ける。

「吐き出す息は全てを燃やし、大きな口は文明すら飲み込む。存在するだけで瘴気を撒き散らし生命全てを刈り取ってゆく。これらの話は決しておとぎ話ではない。近づくだけで死ぬ化け物にどうやって勝つと言うのだ」

スレヴィオンの話はもっともだ。ヴォラグはドラゴンというよりも災害に近い。どうかこちらに来ませんようにと祈るしかない非情の化け物。

「……確かに、ヴォラグは恐ろしいドラゴンだ」

見るも無惨な故郷の惨状、焼けた人間の臭いがいまだ頭にこびりついて離れない。これも全てヴォラグのせいだ。俺だってヴォラグの被害者で、今でも怯えて眠れない夜を過ごすこともある。

「でも、怯えたままで何もできないことの方が嫌だ」

そう言うと、スレヴィオンの耳がかすかに動くのが見えた。

「ぼ、僕だって志願するぞ!ここで何もせず一生を終わらせるなんて嫌だ!」
「私も何かできないかしら」

村人から次々に声が上がる。みなヴォラグに思うところがあるのだろう。

「スレヴィオン殿の言う通り、ヴォラグは恐ろしいドラゴンだ。しかし私たちも無策で来ているわけじゃない、勝算があってきたんだ」

副官がこほん、とわざとらしい演技をする。

「なんと、ルミナエ王国は新たなドラゴンと契約した。瘴気を払い浄化する力を持つドラゴンだ、そやつの力を借りてヴォラグを討つ」
「新しいドラゴン?」

ルミナエ王国は長らくドラゴンが不在だった。普通はどの国家もドラゴンと契約している。国の代表者ーー例えば国王や王族、ドラゴンを祀る巫女や神官、または英雄や軍の司令官。とにかく国の上位層はこぞってドラゴンと契約し、多大な恩恵を受けている。

「その名は浄化の竜エリシエラ。それがルミナエ王国と契約した新たなドラゴンであり、この軍を勝利に導く女神となる」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

神官、触手育成の神託を受ける

彩月野生
BL
神官ルネリクスはある時、神託を受け、密かに触手と交わり快楽を貪るようになるが、傭兵上がりの屈強な将軍アロルフに見つかり、弱味を握られてしまい、彼と肉体関係を持つようになり、苦悩と悦楽の日々を過ごすようになる。 (誤字脱字報告不要)

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...