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第2章 異世界

少女と魔物

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「うっううう」

砂埃が舞い上がり、周囲が見えなくなる。
小鳥が飛び立つ音と、ねちょねちょと鳴る
奇妙な音が聞こえる。 

いや、そんな事より、痛くない。
アルプス程あろうかと思う程の高さから落下したのに、全く痛くないし、出血も見られない。やっぱり、夢かも。

「なぁーに?まだ夢だと思ってんの?」

不意に先の少女の声が聞こえた。
それと同時に砂埃が消えて、周囲が見えるようになってくる。

取り敢えず、見渡す。

そして、その光景に唖然とした。まさに夢の様な場所だと思った。

青い空に点々と浮かぶ島々に、
後ろには地球では見られないような海、
左側には大きな山が連なっており、その山からは滝が流れ、虹がかかっている。
山は何処までも連なっているように見える。
少なくとも、富士山くらいはある。それが連なって、視界からはみ出す程だ。

「これが夢じゃなかったら……最高だ」

「だ~か~ら~! 夢じゃ無いっての!!」

ん、さっきよりはっきり聞こえる。
やっぱり風のせいだったのかな。

何者かに、つんっと頬をひとつきされた。
驚いて横を見てみると、そこには少女が立っていた。

「うぉあっ!!」

立っていたというより、前屈みになって耳元で囁いていたのだ。
だからはっきりと聞こえた。

しかし、誰もいなかったところからいきなり出て来られるとビビる。
それに、結構な美少女だったし、女性と接したのは小3以来だったっていうのもあった。

それにしても……美人だ。
淡いブルーの髪が型の良い顔を包み込み、
天辺からは見事なアホ毛が右に傾いている。
ぱっちりした目はブルーに輝き、唇は真紅に光っていた。
かといって、化粧をしている風には見えない。

ほぼ完璧な頭部の下には
まぁまぁ育っている胸、服の上からでも分かる括れが揃っている。
因みに、結構大胆な格好をしている。それも、青と黒が混じったやつ。
青が好きなのか?

頭部、上半身共に自分的には高得点だ。
そして、視線を下の向ける。

まぁ勿論、綺麗だ。
スラリと伸びたその脚は、食べたくなる程綺麗だった。
いや、決して脚フェチと言う訳ではない。それ程だという事だ。

きっと、今まで見てきた女性の中では最高に美人だろう。
関わったことさえ無いが、興味はあった。だからそう思った。
興味を持つのが少し早い気もするが、人それぞれだと思う。

「ちょっと、聞いてる?」

おっと、見惚れている場合じゃ無かった。

「えっと、ゆ、ゆ夢でも名前聞きたいから、おおお、教えて下さい」

うっわー、テンパり過ぎだ。でもうん、まぁ良い良い。

「はぁーー。まぁいいや、そのうち分かるさ。
じゃ、自己紹介するね! 私」

ギュラァァァァーーー!!!

不気味な鳴き声の所為で、彼女の自己紹介が終わった。

「なっ、なんだ!?」

「モンスターだよっ!」

「モンスター!?」

何なんだこれ。朝起きたらきっと疲れ果ててるだろう。

「来るよっ!!」

その声と共に、空から三体のどでかい鳥が降ってきた。
気味が悪い。嘴が異様にでかく、白眼を向いている。
頭部が黒で、胴が紫色。
んで、翼がレインボーなのは置いておきたい。

「きもっ!何だこいつ!!」

言葉に出てしまった。あの鳥が日本語を理解できないと助かる。

「こいつはビッグカラードよ!!そこそこ強いから気を付けて!」

気を付けてって、まさか戦う気か!?
冗談じゃ無い。こういう時は、に~げるんだよー!!

と良く有り勝ちなネタを心で呟く。
そして、後ろを振り向くが……逃げ場が無い。
海だよ、畜生。

「戦うしかないね」

「分かったよ」

逃げる事を諦めた。

少女は、左腰に巻き付いている刀を右手で抜き、シュッと右腰に構える。

刀の抜き方で伝わる強さ。

刀の柄は、女性でも持ちやすい様にという配慮かごつく無い。
柄だけでなく、刀全体の幅がそれ程広く無く、かと言ってレイピア程細くない。
あれだけ読み漁った本ですら見たことが無い武器だった。

ファンタジー系の小説は結構読んだんだけどな。
未知な事は沢山あるもんだ。

なんて感心する。

任せていれば何とかなりそうなので、
剣の腕前がどれ程なのか見てみることにする。

しばらくの間睨み合っていたが、
先に動いたのは、色の着いた大きな鳥

通称「ビッグカラード」

だった。

三体の内一体が猛突進し始める。
どでかい図体の割に速い。しかし、少女は冷静だ。

一人と一匹が衝突する寸前、刀を左に一閃させた。

ズパァァン!!

気持ちの良い(と言って良いのだろうか)音と共に、
ビッグカラードの身体が、嘴から尻尾に掛けて半分に切断された。
切れ目からは、血が大量に噴き出している。

不味い吐きそうだ。

残りの二体はというと……ん?いない。

二体が居た場所には、大きな黒い影が映っている。
これはまさか……。

「ボスのお出ましだよ」

少女の声からは、緊張が伺える。
そんなにやばい奴なのかと思い、上を見る。

「お、おい……嘘だろ……」

僕の目に映ったのは、巨大なコウモリだった。
いや、巨大とか言うレベルでは無い。
五十メートル級はあるんじゃなかろうか。

流石に少しは怖い。でも、まだ安心があった。
痛みは無いし、死にもしないだろうと考えていた。

しかしその次の瞬間、巨大コウモリが急降下し、僕の腹を抉った。
完全に油断してた。大したこと無いだろうと思ったのが間違いだった。

「いってぇぇぇぇ!!!!!!」

「だ、大丈夫!?」

痛い痛い痛い痛いお腹痛い。

これが大丈夫でいられるか。

おい嘘だろ。呼吸がし難い。痛い。

どこまで持って行かれたんだ。小腸か、大腸か、或いはそれ以上か。
とにかく痛い。岡田の比じゃない。

畜生……こんな所で終わりたくない。

掠れ行く視界の中、歯を食い縛り、立ち上がる。
背後にいるコウモリを音で確認する。

「武器を……かせ……」

少女に向かって、必死に声を掛ける。
彼女は戸惑う事なく、分かったと返事をしてくれた。

「これは、自分の想像した形に変形するレアアイテムだ。
でも、技量に見合った武器しか出ないから、あまり期待しないで」

手渡してくれたのは小さな円形のアイテムだった。
僕の手を、ギュッと握りしめて。

じゃぁその刀を貸してくれよ。とも思う。
まぁいいや。

「うげっ……げはっ…」

血が逆流して、口から出て来た。
腹から出て来る血の量も尋常じゃ無い。
これは死ぬかも。

ふらつく足を、懸命に動かし、何とかコウモリの方を向く。
後ろの彼女からの援護は無い。

「はぁ……はぁ……いくぞ…コウモリ……!!」

さっきので彼女に駄目人間と思われたかも知れない。
虐められていた僕を助けてくれたのに、
必死に夢じゃ無いと言い続けてくれたのに、
ビッグカラードから僕を守ってくれたのに、
僕は……俺は……何も…信じる事すらも、出来なかった。
これで人生が終わっても、悔いの残らない様にしよう。
自分を捨てて、僕を捨てて、彼女を守って死のう。

母以外で、初めて助けてくれたのに人の為に……。

「んぐっ……んんんぉおおお!!」

力一杯、円形のアイテムを天にかざす。

「彼女を……守れるだけの……
俺が…こいつに勝つための……力を、武器を……くれ!!」

腹の傷がずきりと痛む。
立っているのが不思議なくらいに。

円形のアイテムが光り輝き出し、武器の形へと姿を変えた。

俺が彼奴を殺す……。
そのための武器……それは…杖だ……!!

今まで培ってきた知恵を絞り、
魔術の源を想像する。

爆発はあれとあれを合わせて、
衝撃を強くするにはあれも加えなくてはならない。
数打つには相応のエネルギーが必要だ。
火力を底上げするには……。

よし。

俺は無意識に魔法詠唱を開始していた。
それは自分でも聴き取れない程早く、
目に見えない程の速さで、杖に指で謎の文字を書く。

次第に周囲が輝き始め、小さな爆弾の塊が出来て来る。
その塊は、詠唱が長くなればなるほど大きくなっていった。
そして、詠唱を止めると同時に、手の動きも自然に停止する。

「さぁ……喰らえよ…俺の渾身の魔術を……!!」

腹は痛い。でも、言いたい。

「うぉぉぉお!!」

短い雄叫びと共に、杖を突き出す。

「イ◯ナズ◯ン!!」

一言叫ぶと、大きな弾が一斉にコウモリ目掛けて飛んで行く。

バガァァァァン!!!!

轟音が辺り一帯に響き渡る。
その連続で、身体が震える。
三尺玉が何十発も打ち上げられる感じだ。

そして、コウモリは力尽き、地上に堕ちた。

対して俺は、ドヤ顔で決めようとして後ろを向こうとする。
が、その前に彼女からの一言が胸に刺さる。

「守ってくれなんて、言ってない…よね。でも、ありがとう」

あーー。そうだった。彼女は守っても助けても言ってなかったか。

俺はその場に倒れ込んでしまう。
視界も薄暗くなって来る。

でもまぁ、

初めてのありがとうに、ありがとう。

こうして、初めての戦闘が終わった。
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