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A proposition of Cruel angel.
ロンギヌスの槍は狩りに適さない ゲットワイド市解放戦4
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2022年1月27日
サウスワイド市
統合連合軍仮設駐屯地
1155時
第1711連隊の後続として、第1712機甲連隊など第171戦闘団隷下部隊を送り出した駐屯地は、第17旅団隷下の他の戦闘団を出撃させるため準備を進めていた。
その一方で、カバーヒルタウン攻略を支援するための準備も進められていた。駐機場では、スペクター隊のAC-130に砲弾や誘導爆弾の搭載作業が行われ、第173戦闘団第1731空中機動連隊のブラックホークと大型ヘリMH-101Aに対して飛行前点検が行われていた。
第173戦闘団は、ヘリボーン作戦を得意とする第54普通科連隊を基幹戦力とし、第17ヘリコプター隊強襲ヘリ大隊と輸送ヘリ大隊と協力することにより、高い機動力を発揮する。長距離でも短時間で移動し、一気に制圧することが出来る。
ただし、ヘリは地上から対空砲火に弱いため、第1731連隊がカバーヒルタウンを強襲するのは、零次たちが対空火器を無力化したあとで、アルタイルとレンジャーの混成中隊に対する増強部隊だ。
出撃準備が進む中、旅団司令部では、幹部が集まり会議を行っていた。
「2時間前に撮影された衛星画像で、敵機甲部隊2個連隊が出撃した判明した。恐らく、カバーヒルタウンへの増強部隊と思われ、すでに後続部隊と思われる3個連隊規模の出撃準備も確認されている」
陣内総司陸将は、旅団幹部を前にモニターを使って状況を説明する。日本最大の機甲部隊を指揮する幹部自衛官は、官僚組織に馴染まないキャラクター故に、本省官僚たちから煙たがれているが、陸上自衛隊第7師団や富士教導団旧戦車教導隊、旧第1機甲教育隊で戦車部隊運用術を磨き、一方でレンジャー課程やアメリカ陸軍への派遣で特殊部隊運用も学び、統合運用にも精通している自衛隊屈指の逸材だ。
「カバーヒルタウン制圧に成功しても、敵部隊による再占領のリスクが高い。よって、第17旅団は、全ての部隊をコダ村とカバーヒルタウンに転進、敵部隊南下の意図を阻止する」
陣内の作戦は、敵部隊の推定目的地に1個師団規模の部隊を展開させ、敵の進撃自体を中止に追い込む。元々、第17旅団はコダ村とカバーヒルタウンを経由地として前進する予定なので、予定が早まったと思えばいい。
「カバーヒルタウンを超えれば平野部だ。ここを抑えて、こちらの進軍を阻止したいところだろう。俺達は、敵部隊のカバーヒルタウン到着予定時間である本日2100時までにカバーヒルタウンとコダ村へ前進、戦闘配置を整える」
「旅団長、敵部隊そのもの対してはどうしますか?」
第90普通科連隊長、飯島茜一等陸佐は、想定されるリスクに基づき質問した。第172戦闘団とその基幹部隊である装輪装甲車主体の普通科連隊を束ねる彼女は、女性自衛官の比率が全体の45%を占める統合派遣部隊においても、数少ない女性の高級指揮官であり、若手の女性幹部自衛官や女性曹士の憧れだ。
「再占領を諦めて撤退した場合でも、追撃、撃滅して、ゲットワイド市の防衛力となるのを阻止する。ゲットワイド市からカバーヒルタウンまでのルート上には、何箇所か河川渡河が必要な場所がある。追撃戦をしかけるなら、渡河のタイミングを狙うことになるだろう」
「再占領を諦めなかったら?」
「叩き潰す。だが、今重要なのはカバーヒルタウン制圧と旅団全体の前進だ。どの部隊も、到着してすぐに戦闘であると思って行動せよ!」
作戦会議が終わり、陣内は移動指揮所に入った。
移動指揮所は、スーパーアビュランスと呼ばれる特殊な救急車の車体を改造したもので、トラックで言う荷台部分を横に広げる構造を持つ。本来は災害時に野外病院とするための車両で、特殊構造とは言えすでに生産中の車体に指揮統制機材を入れただけなので、調達コストはかなり安い。
「旅団長」
「森久保、前方司令部から連絡は?」
「まだです」
森久保今名紋二等陸尉の返事に、陣内は少し不満そうな表情をした。
森久保は旅団司令部付隊の幹部で、陣内の職務補佐や、外出する用事がある際には護衛役を務める。組織運用においては必要不可欠な人材だ。自衛隊は、高度に組織化された行政機関であるため、英雄的な戦闘の達人だけでは成立しないのだ。
「はぁ~・・・市街地戦をやる前に、司令部からの許可を取れって決めたの、どこのどいつだよ」
「本当に、市街地戦の許可出るの遅いですよね。どうします?ロンデル方面前方司令部すっ飛ばして、統轄作戦司令部に連絡しますか?」
「30分待って連絡がなければそうしよう。だいたい、前方司令部の連中、判断が遅いんだよ。なんのために前方司令部を置いてるのかわかってないだろ?」
「その上、責任取りたくない連中ばっかりですからね」
「そりゃ、部下の問題で首切られるのは、俺だって嫌だよ。でもさ、上の人間である以上、責任を背負うのが務めだろ。なんで、上の奴らってそれが出来ないの?上の連中が責任取らないなら、もうこっちで決めさせてくれって話だよ」
「責任取れないって言うより、考えることを放棄した奴が多い時代ですからね」
「責任ある立場の奴は、そもそもそんなもん考えてないとうことか・・・まぁいい。どうせ俺は、責任を押し付けられる立場だしな。下の奴らが、訳のわからん責任を押し付けられて、将来絶たれるくらいなら、責任の押し付けくらい甘んじてやるさ」
陣内が言い切った直後、司令部との直通無線機が着信音を鳴らした。
「陸将、前方司令部よりカバーヒルタウンへの攻撃許可出ました。作戦承認番号デルタ23ウ12号」
「了解した。カバーヒルタウン攻略作戦を発動する。作戦開始時刻は1500時。各部隊は、所定待機ポイントへ前進急げ」
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同日
コダ村
1230時
各普通科連隊は、4個から6個の普通科中隊で編成され、各中隊には1個レンジャー小隊が編成されている。
統合派遣部隊のレンジャーは、陸上自衛隊のレンジャーを基本的には同じだが、女性自衛官でもレンジャー課程を受講できる。また陸自レンジャー課程の中でも基礎部分に当たる部分が、レベルに応じて新人基本教育、陸曹教育に組み込まれているため、陸自レンジャー課程と比べると統合派遣部隊レンジャー課程は期間が短い。
基本教育などと比べれば、過酷な訓練の一つではあるが、陸自レンジャー課程ほどではなく、陸自レンジャーたちは「温室育ちの促成栽培」と揶揄するが、統合派遣部隊のレンジャー訓練生たちがレンジャー課程の入る前までに経験した実戦の過酷さは、陸自レンジャー課程の比ではなく、統合派遣部隊レンジャーのレベルの高さは、準特殊部隊と言うべき存在であった。
カバーヒルタウン攻略作戦を控え第1711連隊の2個レンジャー小隊とアルタイル小隊の小隊長と小隊長副官、各分隊長は集められ、ブリーフィングを行っている。
「カバーヒルタウンの周辺は山岳地帯で、コダ村と繋がるものも含め山道が6つ、街に向かわない山道が3つ。街へ向かう山道は、山を降りた辺りで敵が封鎖を行っている。正確な場所と規模は、現在無人機にて確認中だが、深部情報心理戦部隊の情報では、規模は半個分隊程度と思われる」
第1レンジャー小隊長、宮木久人三等陸尉は、集まったメンバーに対して、戦域図に書き込みを入れながらブリーフィングを進めた。
零次より4つ年上の叩き上げ幹部自衛官で、彼の小隊はアルタイル小隊などの特殊部隊に対して増強部隊として活躍する。
「俺たち混成中隊は、街西側の山岳部山頂にヘリで移動し、第2レンジャー小隊は山道より下山、敵封鎖地点2箇所を制圧し、緊急離脱時の退路を確保する。アルタイルと第1レンジャー小隊は、街の西側外れにある水門近くの崖に移動。1個分隊を側面警戒と緊急離脱時用のランディングゾーン確保に残し、懸垂降下にて水門を制圧。その後地下水路より街へ移動し、各班に分散、街の各所に設置された対空火器とレーダーを破壊する。またレーダー破壊後、AC-130による敵野戦砲陣地への攻撃、及び上空支援を開始。敵防空網無力化後、1731連隊が空中強襲を行い、俺たちはコレと合流、南側砦を中心とした主要部を制圧する。詳しい戦術面は不知火一曹から」
零次は立ち上がって、説明を引き継いだ。
「作戦開始時刻は1400時。我々は、ブリーフィング終了後直ちに装備を整え出撃します。白昼の市街地に突入するため、民間人の活動等が活発と思われます。発砲は、BDU等で敵であることを確認してから。民間人の巻き込みを防止するため、手榴弾、砲撃魔術等の使用は極力控えてください。対空火器、レーダーの破壊に爆薬を使用する際は、HEPEの25グラムブロックを使用。個人装備は、市街地戦装備のオプションS+Hを使用。日没までに作戦完了を予定していますが、念の為暗視装置を携行してください。敵防空網を無力化後、2小隊は分隊毎に再集結、1731連隊第1中隊のラペリング降下を援護、合流して敵の掃討を行います」
零次は詳しい作戦の流れや注意事項、使用する機材や無線の周波数帯など、必要な事柄を説明していった。
「各分隊には、レジスタンス及び深部情報心理戦部隊の人員を2名随行、地理的支援を実施します。宮木三尉、お返します」
「1711連隊本部が作戦状況をモニター、必要な指示は連隊本部が出す。戦闘を長引かせれば、民間人の巻き込み被害の恐れや、現在南下中と思われる敵部隊に対する防衛戦構築が遅れる。迅速に作戦を完了させるように。各員、出撃準備にかかれ!」
「「「了解!」」」
号令と共に、各員は立ち上がって各自の部署に戻って行き、出撃準備作業を開始した。
アルタイル小隊も、レンジャー小隊を含む通常の小銃小隊も、基本装備は同じだ。
違うのは、アルタイル小隊がグロッグ拳銃のカスタムなのに対しては、久人たちはドイツH&K社製のSFP9を使用している点だ。SFP9は、令和2年度から9ミリ拳銃の後継として配備が始まり、ベルニア領内に新設された生産設備で製造されているため、配備開始2年でかなりの数が配備されている。
対してグロッグ拳銃は、統合派遣部隊発足時に輸入されたもので、一般部隊の装備リストから外されている。そして、一般部隊から引き上げられたグロッグは、各特殊部隊の後方支援部署に送られ、カスタマイズされて前線投入されていた。
この辺りは、特殊部隊であるアルタイル小隊と、あくまで一般部隊であるレンジャー小隊の扱いの差だ。
だがアルタイル小隊と他の2小隊が、ヘリへの搭乗のために準備する様子を見ても、一見して特殊部隊と一般部隊を区別することは出来ない。
「普通の迷彩服着ると、誰が誰だかわからないな」
出撃の最終確認をしていた零次に、シンクは苦笑しながら告げた。
「実際問題、階級や役職が外見でわかると、狙撃の的になるからな。後で奈々か翼に、対人狙撃で優先する標的について聞いてみ」
「いや、狙撃の仕組みより狙撃を回避する方法が知りたい」
「遮蔽物に隠れる、終わり」
「おい・・・」
シンクは大太刀を使う剣士であり、協力料として貸与された小銃を使うことはあるが、狙撃を行うことはない。彼の戦い方では、確かに狙撃の戦術より、狙撃対策を学ぶ方が有効だ。
なお、第二世界において個人用の兵器に、アサルトライフルサイズの小口径火器が普及したのはここ20年程度だ。機械魔術式の火器は数多いが、連射性と小型軽量性を両立するのが難しく、サイズに余裕のある重機関銃か、さほど連射性を気にしなくて良い狙撃銃がせいぜいだった。魔装銃と呼ばれる機械魔術式アサルトライフルは、AKライフルは元より89式の様な西側のアサルトライフルよりも構造が複雑で重く、それでいて連射性、有効射程が劣るため、これが原因でベルニアなどでは、89式などに置き換えられつつある。
「真面目な話、遮蔽物に隠れるのが、狙撃を避ける一番確実な方法。見えなければ、照準の合わせようがないからな」
「それ・・・壁の裏に隠れてるのがバレたら?」
「翼が使ってるような銃だと、壁共々ブチ抜かれる」
「・・・アルテリアが、そんな銃を持ってなくてよかった」
シンクがホッとため息をつくのを無視し、チェックリストの確認を終えた零次は、小隊員にブラックホークへの搭乗を指示した。
アルタイル小隊はノワール隊のブラックホーク3機の分乗し、レンジャー小隊は2機の大型輸送ヘリ、CH-47JA改チヌークに分乗する。
10名前後1個分隊を輸送するブラックホークと違い、チヌークは55名が搭乗でき、1機で1個小隊を輸送することが出来る上、高機動車なら車内に収納、軽装甲機動車も吊り下げて輸送できるため、災害派遣などでも活躍してきた。
「友樹、そっちの準備ができたら出発してくれ」
「了解・・・やっぱ、システム一度シャットダウンしたのが間違いか。再起動に時間がかかって・・・」
「でも、着陸してから2時間も待機してたし・・・いくら燃料補給車がもう来てると言っても、長時間地上待機なら仕方ないのでは?」
愚痴る友樹に、副操縦士の東山榛名三等陸曹は問いかけた。
彼女は友樹とは幼馴染の間柄で、いかにも大和撫子と言った雰囲気から、他の女性自衛官から人気がある。
「まぁ燃料が勿体ないしな・・・航法システム、起動終了。自己診断システム、結果良好。そっちは?」
「問題なし」
「了解。ノワール501は各機、準備状況知らせ。送れ」
〈ノワール502、準備よし〉
〈ノワール503、準備よし〉
〈ニトクリス101、問題なし〉
〈こちらニトクリス102、出撃準備完了〉
「了解。ノワール501から1711HQ、出撃準備完了。送れ」
〈1711HQ、了解。離陸を許可する。送れ〉
「了解。ノワール501、離陸する」
友樹はコレクティブレバーを引き、ブラックホークを離陸させた。
ノワール501が離陸すると他のヘリも続いて離陸し、緩やかに旋回上昇してから、西に向けて飛行を始めた。
5機のヘリは、敵襲を想定して一定間隔をとりつつ編隊を組み、前衛と側面警戒をブラックホークが、後衛にチヌークが入る。
5機の航跡と周辺の状況は、無人機によって監視され、1711連隊本部と統轄幕僚監部の司令部でモニターされ、司令部の助言を受けつつ連隊本部が必要な指示を出す。
編隊は、事前情報と無人機による周辺開始により、敵の目から逃れるルートを飛行し、極力高度も低くとり、地形に沿って飛ぶ匍匐飛行を行う。
降下地点までは10キロもなく数分間の移動だが、その間、ドアガンナーやスナイパーが地上を警戒している。
幸い降下地点まで敵襲はなく、降下地点周辺にも敵影はなかったが、友樹はヘリが無防備になるホバリング時の攻撃を警戒する。
「ノワール502、ニトクリス102、旋回をして周辺警戒。ノワール503、降下開始。送れ」
「アルタイルリーダーからアルタイル3、降下後周辺を確保せよ。送れ」
事前に決めた手順通り、友樹と零次はそれぞれ指示を送り、指示を受けた者はそれぞれ「了解」と返し、ノワール502とニトクリス102は旋回機動に入ると同時に、ノワール503は降下地点で地面から50センチという超低空ホバリングを行う。ブラックホークのドアから分隊が飛び降り、小銃を構えて周辺を警戒する。
〈アルタイル3、LZクリア。送れ〉
アルタイル3がLZを確保すると、ノワール501とニトクリス101がノワール503と交代し、人員を下ろして警戒態勢をとる。
3機が高度を上げて旋回すると、残りの2機も降下して人員を下ろす。
「各小隊長、人員掌握」
「アルタイル、欠員なし」
「第2レンジャー小隊、欠員なし」
「了解、移動開始」
久人は素早く指示を出し、レインジャー2はレジスタンスのメンバーと共に山道を下る。
アルタイルと第1レンジャー小隊は斜面を下り、件の崖の上に出る。
腹ばいになって零次は崖下を覗き込み、水門施設の屋上に敵兵が2名いるのを確認する。
「・・・アルリア」
腹ばいのまま、零次はレジスタンスの随行員1人を手招きした。
「何?」
銀髪のエルフの少女、アルリア・カムイは、零次の横で立て膝をついた。
エルフと言えば、ファンタジー小説でよく登場する民族だが、零次は直接エルフの人々と関わる内に、耳が尖っていて、平均寿命が日本人のそれの3倍という事以外は、特に人間や獣人と大して変わらない存在だと気づいていた。
実際、生物学的に人間と獣人とエルフに差はほとんど無く、生殖や輸血、臓器移植に問題ないし、多くのエルフの人々は、最近の文明的な生活をしている。
その点において、アルリアの戦い方は、フィクションのイメージに近い。
彼女の武器は、魔術強化用のディバイスを組み込んだ弓で、銃より命中精度は劣るが一撃で敵兵を殺す威力を持つ。何より、銃に勝る長所があった。
「音を立てなくない。弓で、あの2人を殺れるか?」
「いいわよ・・・カバーだけしてよね」
「OK・・・詩織、春、見張りを始末したら、一気に降下して屋上を確保」
「「了解」」
零次は指示を出して、アルリアが弓と矢を準備する間に、ホルスターからシグザウエルP227を抜き取る。シグザウエル社製P226の45口径モデルで、サプレッサーとの相性が良いため、発砲時の消音性を求めるなら、89式やグロッグよりこちらだ。
腹ばいのままP227を構えた零次は、アルリアが弓の準備を終えたのを見て、ハンドサインで合図を出す。
アルリアが放った矢は、加速術式と重力制御術式で運動エネルギーを増して、横風の影響を受けることなく、敵兵のヘルメットを貫通し、彼を即死させた。
その隣りにいた敵兵が、同僚の異変に気づく前にアルリアは次を放ち、死体をもう1体増やす。
「・・・はい、終わり」
「よし、ありがとう。詩織、春」
詩織と白石春三等陸曹は、ロープを崖下に降ろし、一気にラペリング降下を行うと、屋上を確保する。
「予定通り、アルタイル1と2で水門施設を抑える。3はこことLZを確保。アルタイル2は降下したら、施設内を制圧」
零次が指示を出すと、アルタイル小隊員たちは手順通りの行動を取り、第1分隊と第2分隊員はロープを追加で降ろして、次々ラペリング降下を行っていく。
降下時に魔術を併用して、重力制御と上方への加速術式による減速を行うことで、通常のラペリング降下よりも静かに降下できる。
足音を立てずに降下した零次は、第2分隊長の神谷涼二等陸曹に合図を送り、彼らは施設内に突入した。
サプレッサー装着の曇った銃声が微かに聞こえ、それが鳴り止んだ直後、第2分隊の1人が手を丸を作って合図を送った。制圧完了だ。
「よし、行こう」
零次は頭上に合図を出すと、レンジャーが降下を始め、第1分隊は地面に飛び降りる。
施設内に入り、第2分隊が作り出した死体を跨いで、水門横の階段から地下水路に入った。
地下水路は、緩やかな傾斜が続き、横には点検用らしい通路が設けられている。
第2分隊が先んじて、敵兵による妨害やブービートラップを警戒しながら前進し、地上に向かう梯子を見つけると、1人がそれを登って安全を確認する。
後続の分隊員が登り切ると、零次たちもそれに続き、レンジャーも続く。
上に上がると、そこは地下水路の点検用に設置された小屋の様で、窓の外には欧州の田舎町を思わせる町並みが広がる。
ドアに鍵はかかっておらず、第2分隊の花沢紫音三等陸曹は、ドアを少しだけ開けて様子を窺い、グッドサインを出して周囲に敵がいないことを知らせる。
「そんじゃ涼、予定通り各班に分散、担当エリア内の対空兵器、レーダーとその人員を優先して始末。各班の動きは、分隊長が統制」
「了解。対戦車砲手や狙撃手も優先的に始末したほうがいいか?」
「判断は任せる。ただ、エリア防空システムが稼働したままだと、AC-130が攻撃できない。レーダーと連動する防空火器の無力化を優先しろ」
「了解」
「よし・・・行け」
「2分隊前進、班ごとに分散」
第2分隊は小屋から飛び出し、担当エリアの街南西地区に向けて走り出した。
「1分隊、行くぞ」
零次は号令をかけて入り口から出ると、砦のある街の南東地区に向けて走り出す。
分隊は走りながら陣形を整え、詩織と春が前衛を務める。
2人は、出合い頭に現れた敵兵に躊躇なくグロッグを撃ち、こめかみを撃ち抜いて一撃で無力化する。
砦に近づくと、零次はハンドサインで班ごとに分散と、奈々と翼に狙撃ポイントを確保するように指示を出し、アルファ班を率いる。
砦中央の城門付近には、TM-99ストライダー戦車が2両とAGF-13クライドイーター自走高射砲が2両停車し、周辺の敵兵は建物の陰に潜む零次たちには気づいていない。
零次はハンドサインを使い、班員と随伴しているシンクに魔術を用いた近接戦の準備を指示し、ポーチから閃光発音筒を取り出す。
アイコンタクトで準備完了の合図を確認すると、彼は安全ピンを抜き、アンダースローで発音筒を投擲した。
強烈な閃光と大音響が収まると同時に、零次、詩織、シンクが陰から飛び出し、大地と通信士の細谷浩一郎陸士長が援護位置についた。
零次と詩織は巨大な太刀の様な術式武装を展開し、シンクは愛用の太刀に高速振動術式を付与すると、それぞれ車両のカタピラや砲身、機銃に斬りかかった。
魔術で戦車の装甲を破壊することは不可能だが、カタピラや砲身を切断する破壊力を発揮できる。
カタピラを片側断ち切られただけで、装軌車両は自走能力を失い、途中から真っ二つに切断された砲身など、単なる鉄パイプだ。
零次たちに応射を行おうとした敵兵は、大地と浩一郎に頭部を撃ち抜かれ、狙撃を行おうとした兵士は、民家の屋根を陣取った奈々に射殺された。
敵が魔物を放とうとすれば、あるいは無線で連絡を取ろうとすれば、魔物や無線アンテナは、翼のバレットで破壊される。
一切会話や連絡を行うことなく、彼らは高度な連携プレーで敵を制圧していく。
それでも敵兵たちは果敢に抵抗し、ショートブレードを装備した1人の兵士は、零次の不意をついて襲いかかる。
「・・・!」
零次はとっさに術式武装を盾にして防ぎ、鍔迫り合いになる。
彼は術式武装を解除して、敵兵が勢い余って前のめりなると同時に、その背後に体をずらして回し蹴りを入れた。
「うぐっ!」
蹴りが敵兵の背中を捉えるまでの数秒の間に、左脛に術式武装を展開し、さらに重力制御術式による見かけ上の質量増大、加速術式の使用し、零次の回し蹴りは、プロ格闘家のそれを遥かに上回る威力となった。
そんなものをモロに喰らえば、兵士の背骨は簡単に砕け、内臓は破裂し、血管は引き千切られる。
彼が幸いだったのは、地面に打ち付けられた瞬間、零次の89式から放たれた弾丸が、脳幹を破壊して即死させ、痛みを感じる時間が極僅かだったということだ。
周囲の敵兵を片付けると、零次と詩織はポーチからパック25を取り出す。25グラムのHEPEに、可変式時限信管がセットになった爆弾から、安全ピンを抜いて戦車や自走高射砲のハッチから車内に投げ込むと、数秒後爆発が車内の機材を破壊し、1台何億とする車両を鉄くずに変えた。
「砦上部の対空砲とレーダーを潰す。行くぞ!」
「「「了解!」」」
アルファ班は、戦闘に気づいて駆けつけてきた敵増援を制圧しながら、外階段を屋上まで駆け上がる。
屋上には対空機関砲の砲座と低高度用のレーダーが配備され、その周囲には小銃で武装した兵士たちと、その倍の数の魔物が展開していたが、零次たちは怖気づくこと無く、即座に攻撃対象の優先順位をつけ、敵が攻撃を開始するまでに制圧し、零次は再度太刀の様な術式武装を展開し、屋上を蹴って飛び上がると、レーダーアレイを切り裂き、対空砲座の1つに太刀を投げつける。
零次が89式を構えるまでの僅かな隙きを、術式武装を展開した詩織がカバーして、タイラントの動を叩き切り、零次はタイラントのハンドラーを射殺する。
屋上の敵を減らすと、零次と詩織が周囲を警戒し、大地と浩一郎が他の砲座やレーダーの破壊作業に取り掛かる。作業と言っても、小型爆弾を機関砲の機関部とレーダーアレイに取り付けるだけだ。
近接戦専門のシンクは、零次たちの後ろで援護できる体勢をとり、奈々が狙撃支援を行う一方、翼は、バレットで他の場所に設置されたレーダーを破壊していく。
バレットM107A1は、『対物狙撃銃』の名称で調達されており、レーダーや非装甲車両なら破壊する威力がある。
「爆弾設置!」
「点火用意・・・点火!」
「点火!」
零次の指示で、大地は信管を遠隔モードで起爆させる。
威力を絞った爆弾は、砦そのものを破壊すること無く、砲座やレーダーを破壊した。
「コマンド、こちらアルタイルアルファ。予定規模の敵防空設備破壊、送れ」
〈こちらコマンド、了解。他の班も、大方破壊を完了。制空権を確保できたと判断する。まもなくスペクター04が敵野戦砲陣地への攻撃と近接航空支援を開始。ヘリボーン部隊は、3分後に到着する。ヘリボーン部隊のLZ確保に移れ。送れ〉
「アルタイルアルファ、了解。アルタイルブラボー、ポイントレッド1に集結せよ。送れ」
〈ブラボー、了解〉
「移動する。アルファ4、5は、ポイントレッド1付近の建物屋上を確保」
ポイントレッド1は、街中に設けられた防火帯を兼ねる広場の1つに設定され、障害物が多く着陸は不可能だが、2、3機のブラックホークがホバリングを行う分には十分なスペースがある。
アルファ班がポイントレッド1に到着すると、既に宮野タクト二等陸曹以下ブラボー班のメンバーとアルリアが待機していた。
「状況報告」
「ブラボー班、総員6名、現在員6名。異常なし」
「了解。第54普通科連隊第1中隊第3小銃小隊の降下を支援する。その後、敵残存勢力を掃討する。分隊は、広場の各コーナーを確保。民間人を誤射しないよう、厳重に警戒」
「了解」
タクトに指示し、零次は情報端末でブラックホーク部隊の状況を確認する。画面上では、地図に重なるブラックホークの位置とGPS座標は、まもなく到着することを示していた。直後、ブラックホークから無線が入る。
〈地上先行部隊、こちら強襲ヘリ大隊第1強襲ヘリ中隊。現在到着中。街上空を高度500フィートでフライパスし、小隊ごとにブレイク、積荷を降下させる。スモークでポイントの指示と風向指示を〉
ブラックホークからの無線が切れると、零次は作戦計画通りに指示を出す。
「スモーク赤、用意」
「スモーク赤、用意よし」
水島リクト陸士長は、ポーチから発煙筒を取り出して広場の中央で待機する。アルタイル小隊の隊員は特殊機材の扱いに精通しているが、リクトの様な特殊工作員は、より特殊な機材の扱いに長けており、ヘリなどの誘導は彼が行う。
「アルタイル1からアストルフォ13。ポイントレッド1にスモーク赤で誘導する。30フィート程度までは降下可能。送れ」
〈アストルフォ13了解。132、134が先に高度50でホバリングを行う。送れ〉
「了解。リクト、ブラックホークがフライパスしたらスモーク点火」
「了解」
リクトは、発煙筒に巻かれたフィルムを剥がしてキャップを外す。キャップの上部は、マッチ箱にヤスリ部分と同じ様になっており、マッチの要領で発煙筒を点火できる。これは、自動車の発炎筒と同じだ。
しばらくして、ブラックホーク16機が零次たちの頭上を通過して、4機ごとの小隊に散会した。
「スモーク、点火用意・・・点火」
リクトが、キャップで点火薬を擦ると、発煙筒は赤い煙を吐き出し始めた。
〈アストルフォ13、スモーク視認。進入開始〉
アストルフォ13は2機ずつに分散し、2機が旋回して警戒を行い、もう2機が15メートルの高さでホバリングを始める。地上ではダウンウォッシュが吹き荒れ、零次たちは姿勢を低くして風圧に耐えた。
ドアからロープが降ろされると、セイバー13のメンバーは慣れた動作でファストロープ降下を行い、ラペリング降下によりも迅速に降下を完了させる。
〈アストルフォ132、134、人員降下完了。離脱する。送れ〉
〈アストルフォ131、了解。131、133、ホバリングに入る。送れ〉
ホバリングしていた2機が離脱し、代わりに旋回していた2機がホバリングを始め、先程と同様に人員の降下を開始し、素早く降下を完了させた。
〈こちらコマンド。アルタイル1、そこから東に2ブロック先の建物で、敵車両が移動準備をしている。敵指揮所と推測される建物だ。恐らく指揮要員、将校を離脱させる意図らしい。直ちに急襲し、制圧せよ。送れ〉
「アルタイル1、了解」
零次はその場をセイバー13に任せ、指示された目標に向け分隊を移動させた。
細い道を駆け抜けて目標地点にたどり着くと、トラック3両がエンジンを始動させ、今にも走り出しそうであった。
零次はハンドサインを出し、詩織が閃光音響筒を投擲し、閃光と大音響で敵が怯んだ隙に分隊はトラックの周囲の敵に銃弾を浴びせ、文字通り瞬殺。
さらに近くの建物屋上に移動した翼が、トラックのボンネットに徹甲弾を撃ち込んでエンジンを破壊する。
「指揮所内部を叩く。トラップに警戒しろ。手りゅう弾の使用を許可する。アルファ4、5は退路を確保」
〈了解〉
「ブラボーは2階を抑えろ」
「了解」
「行くぞ」
零次の号令で分隊は指揮所のある建物に銃口を向け、木製のドアに銃弾を撃ち込む。
玄関横で突入体勢を整えると、春が手りゅう弾をドアの隙間から投げ込み、爆風がドアを吹き飛ばすと同時に建物内に突入する。
ブラボー班は階段を登って2階に上がり、アルファ班はそのまま1階の制圧を始める。
敵兵を見つけ次第射殺し、部屋へ入る前に毎回手りゅう弾を投げ込んで、中の人間を爆殺する。
1階の制圧には5分もかからず完了した。
零次が、トラップ等の危険物を捜索する指示を出そうとした時、2階から誰から雄叫びと敵兵らしき悲鳴と騒音が響いてきた。
「・・・あ~バカがまた派手に暴れてるな」
「術式武装で、またハルバード作ってぶん回してるんでしょ・・・」
大地が呆れながら言うと、詩織も微妙そうな表情で雑な解説をした。
「昔、死んだ世界で高校生活送りながらドンパチ賑やかなアニメで、そんなキャラいたな」
「・・・零次、流石にあのキャラよりは、タクトのほうがまともでは?タクトは、浩一郎が円周率100桁言っても悶絶しないし」
「いや、僕は円周率100桁流石に暗唱できませんよ。50桁まではいけるけど」
「電卓いらないね」
「いや、計算ミス1つで誤爆の原因になるから、計算は計算機使うか複数人で検算して」
零次がぼやいている間に、2階からの騒音は収まった。
〈ブラボー1、2階制圧。トラップの捜索を開始する。送れ〉
「了解・・・こっちもトラップを捜索、解除する」
「「「了解」」」
零次の指示で、班員はテキパキとトラックの捜索を始めた。
その後、安全装置がかかったままの爆発物が見つかったが、幸いトラップやそれ以外の危険物は発見されなかった。
零次たちが建物の安全を確認する頃には、街中のアルテリア軍部隊は制圧されるか、降伏し、1630時をもって、カバーヒルタウンの制圧が宣言された。
サウスワイド市
統合連合軍仮設駐屯地
1155時
第1711連隊の後続として、第1712機甲連隊など第171戦闘団隷下部隊を送り出した駐屯地は、第17旅団隷下の他の戦闘団を出撃させるため準備を進めていた。
その一方で、カバーヒルタウン攻略を支援するための準備も進められていた。駐機場では、スペクター隊のAC-130に砲弾や誘導爆弾の搭載作業が行われ、第173戦闘団第1731空中機動連隊のブラックホークと大型ヘリMH-101Aに対して飛行前点検が行われていた。
第173戦闘団は、ヘリボーン作戦を得意とする第54普通科連隊を基幹戦力とし、第17ヘリコプター隊強襲ヘリ大隊と輸送ヘリ大隊と協力することにより、高い機動力を発揮する。長距離でも短時間で移動し、一気に制圧することが出来る。
ただし、ヘリは地上から対空砲火に弱いため、第1731連隊がカバーヒルタウンを強襲するのは、零次たちが対空火器を無力化したあとで、アルタイルとレンジャーの混成中隊に対する増強部隊だ。
出撃準備が進む中、旅団司令部では、幹部が集まり会議を行っていた。
「2時間前に撮影された衛星画像で、敵機甲部隊2個連隊が出撃した判明した。恐らく、カバーヒルタウンへの増強部隊と思われ、すでに後続部隊と思われる3個連隊規模の出撃準備も確認されている」
陣内総司陸将は、旅団幹部を前にモニターを使って状況を説明する。日本最大の機甲部隊を指揮する幹部自衛官は、官僚組織に馴染まないキャラクター故に、本省官僚たちから煙たがれているが、陸上自衛隊第7師団や富士教導団旧戦車教導隊、旧第1機甲教育隊で戦車部隊運用術を磨き、一方でレンジャー課程やアメリカ陸軍への派遣で特殊部隊運用も学び、統合運用にも精通している自衛隊屈指の逸材だ。
「カバーヒルタウン制圧に成功しても、敵部隊による再占領のリスクが高い。よって、第17旅団は、全ての部隊をコダ村とカバーヒルタウンに転進、敵部隊南下の意図を阻止する」
陣内の作戦は、敵部隊の推定目的地に1個師団規模の部隊を展開させ、敵の進撃自体を中止に追い込む。元々、第17旅団はコダ村とカバーヒルタウンを経由地として前進する予定なので、予定が早まったと思えばいい。
「カバーヒルタウンを超えれば平野部だ。ここを抑えて、こちらの進軍を阻止したいところだろう。俺達は、敵部隊のカバーヒルタウン到着予定時間である本日2100時までにカバーヒルタウンとコダ村へ前進、戦闘配置を整える」
「旅団長、敵部隊そのもの対してはどうしますか?」
第90普通科連隊長、飯島茜一等陸佐は、想定されるリスクに基づき質問した。第172戦闘団とその基幹部隊である装輪装甲車主体の普通科連隊を束ねる彼女は、女性自衛官の比率が全体の45%を占める統合派遣部隊においても、数少ない女性の高級指揮官であり、若手の女性幹部自衛官や女性曹士の憧れだ。
「再占領を諦めて撤退した場合でも、追撃、撃滅して、ゲットワイド市の防衛力となるのを阻止する。ゲットワイド市からカバーヒルタウンまでのルート上には、何箇所か河川渡河が必要な場所がある。追撃戦をしかけるなら、渡河のタイミングを狙うことになるだろう」
「再占領を諦めなかったら?」
「叩き潰す。だが、今重要なのはカバーヒルタウン制圧と旅団全体の前進だ。どの部隊も、到着してすぐに戦闘であると思って行動せよ!」
作戦会議が終わり、陣内は移動指揮所に入った。
移動指揮所は、スーパーアビュランスと呼ばれる特殊な救急車の車体を改造したもので、トラックで言う荷台部分を横に広げる構造を持つ。本来は災害時に野外病院とするための車両で、特殊構造とは言えすでに生産中の車体に指揮統制機材を入れただけなので、調達コストはかなり安い。
「旅団長」
「森久保、前方司令部から連絡は?」
「まだです」
森久保今名紋二等陸尉の返事に、陣内は少し不満そうな表情をした。
森久保は旅団司令部付隊の幹部で、陣内の職務補佐や、外出する用事がある際には護衛役を務める。組織運用においては必要不可欠な人材だ。自衛隊は、高度に組織化された行政機関であるため、英雄的な戦闘の達人だけでは成立しないのだ。
「はぁ~・・・市街地戦をやる前に、司令部からの許可を取れって決めたの、どこのどいつだよ」
「本当に、市街地戦の許可出るの遅いですよね。どうします?ロンデル方面前方司令部すっ飛ばして、統轄作戦司令部に連絡しますか?」
「30分待って連絡がなければそうしよう。だいたい、前方司令部の連中、判断が遅いんだよ。なんのために前方司令部を置いてるのかわかってないだろ?」
「その上、責任取りたくない連中ばっかりですからね」
「そりゃ、部下の問題で首切られるのは、俺だって嫌だよ。でもさ、上の人間である以上、責任を背負うのが務めだろ。なんで、上の奴らってそれが出来ないの?上の連中が責任取らないなら、もうこっちで決めさせてくれって話だよ」
「責任取れないって言うより、考えることを放棄した奴が多い時代ですからね」
「責任ある立場の奴は、そもそもそんなもん考えてないとうことか・・・まぁいい。どうせ俺は、責任を押し付けられる立場だしな。下の奴らが、訳のわからん責任を押し付けられて、将来絶たれるくらいなら、責任の押し付けくらい甘んじてやるさ」
陣内が言い切った直後、司令部との直通無線機が着信音を鳴らした。
「陸将、前方司令部よりカバーヒルタウンへの攻撃許可出ました。作戦承認番号デルタ23ウ12号」
「了解した。カバーヒルタウン攻略作戦を発動する。作戦開始時刻は1500時。各部隊は、所定待機ポイントへ前進急げ」
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同日
コダ村
1230時
各普通科連隊は、4個から6個の普通科中隊で編成され、各中隊には1個レンジャー小隊が編成されている。
統合派遣部隊のレンジャーは、陸上自衛隊のレンジャーを基本的には同じだが、女性自衛官でもレンジャー課程を受講できる。また陸自レンジャー課程の中でも基礎部分に当たる部分が、レベルに応じて新人基本教育、陸曹教育に組み込まれているため、陸自レンジャー課程と比べると統合派遣部隊レンジャー課程は期間が短い。
基本教育などと比べれば、過酷な訓練の一つではあるが、陸自レンジャー課程ほどではなく、陸自レンジャーたちは「温室育ちの促成栽培」と揶揄するが、統合派遣部隊のレンジャー訓練生たちがレンジャー課程の入る前までに経験した実戦の過酷さは、陸自レンジャー課程の比ではなく、統合派遣部隊レンジャーのレベルの高さは、準特殊部隊と言うべき存在であった。
カバーヒルタウン攻略作戦を控え第1711連隊の2個レンジャー小隊とアルタイル小隊の小隊長と小隊長副官、各分隊長は集められ、ブリーフィングを行っている。
「カバーヒルタウンの周辺は山岳地帯で、コダ村と繋がるものも含め山道が6つ、街に向かわない山道が3つ。街へ向かう山道は、山を降りた辺りで敵が封鎖を行っている。正確な場所と規模は、現在無人機にて確認中だが、深部情報心理戦部隊の情報では、規模は半個分隊程度と思われる」
第1レンジャー小隊長、宮木久人三等陸尉は、集まったメンバーに対して、戦域図に書き込みを入れながらブリーフィングを進めた。
零次より4つ年上の叩き上げ幹部自衛官で、彼の小隊はアルタイル小隊などの特殊部隊に対して増強部隊として活躍する。
「俺たち混成中隊は、街西側の山岳部山頂にヘリで移動し、第2レンジャー小隊は山道より下山、敵封鎖地点2箇所を制圧し、緊急離脱時の退路を確保する。アルタイルと第1レンジャー小隊は、街の西側外れにある水門近くの崖に移動。1個分隊を側面警戒と緊急離脱時用のランディングゾーン確保に残し、懸垂降下にて水門を制圧。その後地下水路より街へ移動し、各班に分散、街の各所に設置された対空火器とレーダーを破壊する。またレーダー破壊後、AC-130による敵野戦砲陣地への攻撃、及び上空支援を開始。敵防空網無力化後、1731連隊が空中強襲を行い、俺たちはコレと合流、南側砦を中心とした主要部を制圧する。詳しい戦術面は不知火一曹から」
零次は立ち上がって、説明を引き継いだ。
「作戦開始時刻は1400時。我々は、ブリーフィング終了後直ちに装備を整え出撃します。白昼の市街地に突入するため、民間人の活動等が活発と思われます。発砲は、BDU等で敵であることを確認してから。民間人の巻き込みを防止するため、手榴弾、砲撃魔術等の使用は極力控えてください。対空火器、レーダーの破壊に爆薬を使用する際は、HEPEの25グラムブロックを使用。個人装備は、市街地戦装備のオプションS+Hを使用。日没までに作戦完了を予定していますが、念の為暗視装置を携行してください。敵防空網を無力化後、2小隊は分隊毎に再集結、1731連隊第1中隊のラペリング降下を援護、合流して敵の掃討を行います」
零次は詳しい作戦の流れや注意事項、使用する機材や無線の周波数帯など、必要な事柄を説明していった。
「各分隊には、レジスタンス及び深部情報心理戦部隊の人員を2名随行、地理的支援を実施します。宮木三尉、お返します」
「1711連隊本部が作戦状況をモニター、必要な指示は連隊本部が出す。戦闘を長引かせれば、民間人の巻き込み被害の恐れや、現在南下中と思われる敵部隊に対する防衛戦構築が遅れる。迅速に作戦を完了させるように。各員、出撃準備にかかれ!」
「「「了解!」」」
号令と共に、各員は立ち上がって各自の部署に戻って行き、出撃準備作業を開始した。
アルタイル小隊も、レンジャー小隊を含む通常の小銃小隊も、基本装備は同じだ。
違うのは、アルタイル小隊がグロッグ拳銃のカスタムなのに対しては、久人たちはドイツH&K社製のSFP9を使用している点だ。SFP9は、令和2年度から9ミリ拳銃の後継として配備が始まり、ベルニア領内に新設された生産設備で製造されているため、配備開始2年でかなりの数が配備されている。
対してグロッグ拳銃は、統合派遣部隊発足時に輸入されたもので、一般部隊の装備リストから外されている。そして、一般部隊から引き上げられたグロッグは、各特殊部隊の後方支援部署に送られ、カスタマイズされて前線投入されていた。
この辺りは、特殊部隊であるアルタイル小隊と、あくまで一般部隊であるレンジャー小隊の扱いの差だ。
だがアルタイル小隊と他の2小隊が、ヘリへの搭乗のために準備する様子を見ても、一見して特殊部隊と一般部隊を区別することは出来ない。
「普通の迷彩服着ると、誰が誰だかわからないな」
出撃の最終確認をしていた零次に、シンクは苦笑しながら告げた。
「実際問題、階級や役職が外見でわかると、狙撃の的になるからな。後で奈々か翼に、対人狙撃で優先する標的について聞いてみ」
「いや、狙撃の仕組みより狙撃を回避する方法が知りたい」
「遮蔽物に隠れる、終わり」
「おい・・・」
シンクは大太刀を使う剣士であり、協力料として貸与された小銃を使うことはあるが、狙撃を行うことはない。彼の戦い方では、確かに狙撃の戦術より、狙撃対策を学ぶ方が有効だ。
なお、第二世界において個人用の兵器に、アサルトライフルサイズの小口径火器が普及したのはここ20年程度だ。機械魔術式の火器は数多いが、連射性と小型軽量性を両立するのが難しく、サイズに余裕のある重機関銃か、さほど連射性を気にしなくて良い狙撃銃がせいぜいだった。魔装銃と呼ばれる機械魔術式アサルトライフルは、AKライフルは元より89式の様な西側のアサルトライフルよりも構造が複雑で重く、それでいて連射性、有効射程が劣るため、これが原因でベルニアなどでは、89式などに置き換えられつつある。
「真面目な話、遮蔽物に隠れるのが、狙撃を避ける一番確実な方法。見えなければ、照準の合わせようがないからな」
「それ・・・壁の裏に隠れてるのがバレたら?」
「翼が使ってるような銃だと、壁共々ブチ抜かれる」
「・・・アルテリアが、そんな銃を持ってなくてよかった」
シンクがホッとため息をつくのを無視し、チェックリストの確認を終えた零次は、小隊員にブラックホークへの搭乗を指示した。
アルタイル小隊はノワール隊のブラックホーク3機の分乗し、レンジャー小隊は2機の大型輸送ヘリ、CH-47JA改チヌークに分乗する。
10名前後1個分隊を輸送するブラックホークと違い、チヌークは55名が搭乗でき、1機で1個小隊を輸送することが出来る上、高機動車なら車内に収納、軽装甲機動車も吊り下げて輸送できるため、災害派遣などでも活躍してきた。
「友樹、そっちの準備ができたら出発してくれ」
「了解・・・やっぱ、システム一度シャットダウンしたのが間違いか。再起動に時間がかかって・・・」
「でも、着陸してから2時間も待機してたし・・・いくら燃料補給車がもう来てると言っても、長時間地上待機なら仕方ないのでは?」
愚痴る友樹に、副操縦士の東山榛名三等陸曹は問いかけた。
彼女は友樹とは幼馴染の間柄で、いかにも大和撫子と言った雰囲気から、他の女性自衛官から人気がある。
「まぁ燃料が勿体ないしな・・・航法システム、起動終了。自己診断システム、結果良好。そっちは?」
「問題なし」
「了解。ノワール501は各機、準備状況知らせ。送れ」
〈ノワール502、準備よし〉
〈ノワール503、準備よし〉
〈ニトクリス101、問題なし〉
〈こちらニトクリス102、出撃準備完了〉
「了解。ノワール501から1711HQ、出撃準備完了。送れ」
〈1711HQ、了解。離陸を許可する。送れ〉
「了解。ノワール501、離陸する」
友樹はコレクティブレバーを引き、ブラックホークを離陸させた。
ノワール501が離陸すると他のヘリも続いて離陸し、緩やかに旋回上昇してから、西に向けて飛行を始めた。
5機のヘリは、敵襲を想定して一定間隔をとりつつ編隊を組み、前衛と側面警戒をブラックホークが、後衛にチヌークが入る。
5機の航跡と周辺の状況は、無人機によって監視され、1711連隊本部と統轄幕僚監部の司令部でモニターされ、司令部の助言を受けつつ連隊本部が必要な指示を出す。
編隊は、事前情報と無人機による周辺開始により、敵の目から逃れるルートを飛行し、極力高度も低くとり、地形に沿って飛ぶ匍匐飛行を行う。
降下地点までは10キロもなく数分間の移動だが、その間、ドアガンナーやスナイパーが地上を警戒している。
幸い降下地点まで敵襲はなく、降下地点周辺にも敵影はなかったが、友樹はヘリが無防備になるホバリング時の攻撃を警戒する。
「ノワール502、ニトクリス102、旋回をして周辺警戒。ノワール503、降下開始。送れ」
「アルタイルリーダーからアルタイル3、降下後周辺を確保せよ。送れ」
事前に決めた手順通り、友樹と零次はそれぞれ指示を送り、指示を受けた者はそれぞれ「了解」と返し、ノワール502とニトクリス102は旋回機動に入ると同時に、ノワール503は降下地点で地面から50センチという超低空ホバリングを行う。ブラックホークのドアから分隊が飛び降り、小銃を構えて周辺を警戒する。
〈アルタイル3、LZクリア。送れ〉
アルタイル3がLZを確保すると、ノワール501とニトクリス101がノワール503と交代し、人員を下ろして警戒態勢をとる。
3機が高度を上げて旋回すると、残りの2機も降下して人員を下ろす。
「各小隊長、人員掌握」
「アルタイル、欠員なし」
「第2レンジャー小隊、欠員なし」
「了解、移動開始」
久人は素早く指示を出し、レインジャー2はレジスタンスのメンバーと共に山道を下る。
アルタイルと第1レンジャー小隊は斜面を下り、件の崖の上に出る。
腹ばいになって零次は崖下を覗き込み、水門施設の屋上に敵兵が2名いるのを確認する。
「・・・アルリア」
腹ばいのまま、零次はレジスタンスの随行員1人を手招きした。
「何?」
銀髪のエルフの少女、アルリア・カムイは、零次の横で立て膝をついた。
エルフと言えば、ファンタジー小説でよく登場する民族だが、零次は直接エルフの人々と関わる内に、耳が尖っていて、平均寿命が日本人のそれの3倍という事以外は、特に人間や獣人と大して変わらない存在だと気づいていた。
実際、生物学的に人間と獣人とエルフに差はほとんど無く、生殖や輸血、臓器移植に問題ないし、多くのエルフの人々は、最近の文明的な生活をしている。
その点において、アルリアの戦い方は、フィクションのイメージに近い。
彼女の武器は、魔術強化用のディバイスを組み込んだ弓で、銃より命中精度は劣るが一撃で敵兵を殺す威力を持つ。何より、銃に勝る長所があった。
「音を立てなくない。弓で、あの2人を殺れるか?」
「いいわよ・・・カバーだけしてよね」
「OK・・・詩織、春、見張りを始末したら、一気に降下して屋上を確保」
「「了解」」
零次は指示を出して、アルリアが弓と矢を準備する間に、ホルスターからシグザウエルP227を抜き取る。シグザウエル社製P226の45口径モデルで、サプレッサーとの相性が良いため、発砲時の消音性を求めるなら、89式やグロッグよりこちらだ。
腹ばいのままP227を構えた零次は、アルリアが弓の準備を終えたのを見て、ハンドサインで合図を出す。
アルリアが放った矢は、加速術式と重力制御術式で運動エネルギーを増して、横風の影響を受けることなく、敵兵のヘルメットを貫通し、彼を即死させた。
その隣りにいた敵兵が、同僚の異変に気づく前にアルリアは次を放ち、死体をもう1体増やす。
「・・・はい、終わり」
「よし、ありがとう。詩織、春」
詩織と白石春三等陸曹は、ロープを崖下に降ろし、一気にラペリング降下を行うと、屋上を確保する。
「予定通り、アルタイル1と2で水門施設を抑える。3はこことLZを確保。アルタイル2は降下したら、施設内を制圧」
零次が指示を出すと、アルタイル小隊員たちは手順通りの行動を取り、第1分隊と第2分隊員はロープを追加で降ろして、次々ラペリング降下を行っていく。
降下時に魔術を併用して、重力制御と上方への加速術式による減速を行うことで、通常のラペリング降下よりも静かに降下できる。
足音を立てずに降下した零次は、第2分隊長の神谷涼二等陸曹に合図を送り、彼らは施設内に突入した。
サプレッサー装着の曇った銃声が微かに聞こえ、それが鳴り止んだ直後、第2分隊の1人が手を丸を作って合図を送った。制圧完了だ。
「よし、行こう」
零次は頭上に合図を出すと、レンジャーが降下を始め、第1分隊は地面に飛び降りる。
施設内に入り、第2分隊が作り出した死体を跨いで、水門横の階段から地下水路に入った。
地下水路は、緩やかな傾斜が続き、横には点検用らしい通路が設けられている。
第2分隊が先んじて、敵兵による妨害やブービートラップを警戒しながら前進し、地上に向かう梯子を見つけると、1人がそれを登って安全を確認する。
後続の分隊員が登り切ると、零次たちもそれに続き、レンジャーも続く。
上に上がると、そこは地下水路の点検用に設置された小屋の様で、窓の外には欧州の田舎町を思わせる町並みが広がる。
ドアに鍵はかかっておらず、第2分隊の花沢紫音三等陸曹は、ドアを少しだけ開けて様子を窺い、グッドサインを出して周囲に敵がいないことを知らせる。
「そんじゃ涼、予定通り各班に分散、担当エリア内の対空兵器、レーダーとその人員を優先して始末。各班の動きは、分隊長が統制」
「了解。対戦車砲手や狙撃手も優先的に始末したほうがいいか?」
「判断は任せる。ただ、エリア防空システムが稼働したままだと、AC-130が攻撃できない。レーダーと連動する防空火器の無力化を優先しろ」
「了解」
「よし・・・行け」
「2分隊前進、班ごとに分散」
第2分隊は小屋から飛び出し、担当エリアの街南西地区に向けて走り出した。
「1分隊、行くぞ」
零次は号令をかけて入り口から出ると、砦のある街の南東地区に向けて走り出す。
分隊は走りながら陣形を整え、詩織と春が前衛を務める。
2人は、出合い頭に現れた敵兵に躊躇なくグロッグを撃ち、こめかみを撃ち抜いて一撃で無力化する。
砦に近づくと、零次はハンドサインで班ごとに分散と、奈々と翼に狙撃ポイントを確保するように指示を出し、アルファ班を率いる。
砦中央の城門付近には、TM-99ストライダー戦車が2両とAGF-13クライドイーター自走高射砲が2両停車し、周辺の敵兵は建物の陰に潜む零次たちには気づいていない。
零次はハンドサインを使い、班員と随伴しているシンクに魔術を用いた近接戦の準備を指示し、ポーチから閃光発音筒を取り出す。
アイコンタクトで準備完了の合図を確認すると、彼は安全ピンを抜き、アンダースローで発音筒を投擲した。
強烈な閃光と大音響が収まると同時に、零次、詩織、シンクが陰から飛び出し、大地と通信士の細谷浩一郎陸士長が援護位置についた。
零次と詩織は巨大な太刀の様な術式武装を展開し、シンクは愛用の太刀に高速振動術式を付与すると、それぞれ車両のカタピラや砲身、機銃に斬りかかった。
魔術で戦車の装甲を破壊することは不可能だが、カタピラや砲身を切断する破壊力を発揮できる。
カタピラを片側断ち切られただけで、装軌車両は自走能力を失い、途中から真っ二つに切断された砲身など、単なる鉄パイプだ。
零次たちに応射を行おうとした敵兵は、大地と浩一郎に頭部を撃ち抜かれ、狙撃を行おうとした兵士は、民家の屋根を陣取った奈々に射殺された。
敵が魔物を放とうとすれば、あるいは無線で連絡を取ろうとすれば、魔物や無線アンテナは、翼のバレットで破壊される。
一切会話や連絡を行うことなく、彼らは高度な連携プレーで敵を制圧していく。
それでも敵兵たちは果敢に抵抗し、ショートブレードを装備した1人の兵士は、零次の不意をついて襲いかかる。
「・・・!」
零次はとっさに術式武装を盾にして防ぎ、鍔迫り合いになる。
彼は術式武装を解除して、敵兵が勢い余って前のめりなると同時に、その背後に体をずらして回し蹴りを入れた。
「うぐっ!」
蹴りが敵兵の背中を捉えるまでの数秒の間に、左脛に術式武装を展開し、さらに重力制御術式による見かけ上の質量増大、加速術式の使用し、零次の回し蹴りは、プロ格闘家のそれを遥かに上回る威力となった。
そんなものをモロに喰らえば、兵士の背骨は簡単に砕け、内臓は破裂し、血管は引き千切られる。
彼が幸いだったのは、地面に打ち付けられた瞬間、零次の89式から放たれた弾丸が、脳幹を破壊して即死させ、痛みを感じる時間が極僅かだったということだ。
周囲の敵兵を片付けると、零次と詩織はポーチからパック25を取り出す。25グラムのHEPEに、可変式時限信管がセットになった爆弾から、安全ピンを抜いて戦車や自走高射砲のハッチから車内に投げ込むと、数秒後爆発が車内の機材を破壊し、1台何億とする車両を鉄くずに変えた。
「砦上部の対空砲とレーダーを潰す。行くぞ!」
「「「了解!」」」
アルファ班は、戦闘に気づいて駆けつけてきた敵増援を制圧しながら、外階段を屋上まで駆け上がる。
屋上には対空機関砲の砲座と低高度用のレーダーが配備され、その周囲には小銃で武装した兵士たちと、その倍の数の魔物が展開していたが、零次たちは怖気づくこと無く、即座に攻撃対象の優先順位をつけ、敵が攻撃を開始するまでに制圧し、零次は再度太刀の様な術式武装を展開し、屋上を蹴って飛び上がると、レーダーアレイを切り裂き、対空砲座の1つに太刀を投げつける。
零次が89式を構えるまでの僅かな隙きを、術式武装を展開した詩織がカバーして、タイラントの動を叩き切り、零次はタイラントのハンドラーを射殺する。
屋上の敵を減らすと、零次と詩織が周囲を警戒し、大地と浩一郎が他の砲座やレーダーの破壊作業に取り掛かる。作業と言っても、小型爆弾を機関砲の機関部とレーダーアレイに取り付けるだけだ。
近接戦専門のシンクは、零次たちの後ろで援護できる体勢をとり、奈々が狙撃支援を行う一方、翼は、バレットで他の場所に設置されたレーダーを破壊していく。
バレットM107A1は、『対物狙撃銃』の名称で調達されており、レーダーや非装甲車両なら破壊する威力がある。
「爆弾設置!」
「点火用意・・・点火!」
「点火!」
零次の指示で、大地は信管を遠隔モードで起爆させる。
威力を絞った爆弾は、砦そのものを破壊すること無く、砲座やレーダーを破壊した。
「コマンド、こちらアルタイルアルファ。予定規模の敵防空設備破壊、送れ」
〈こちらコマンド、了解。他の班も、大方破壊を完了。制空権を確保できたと判断する。まもなくスペクター04が敵野戦砲陣地への攻撃と近接航空支援を開始。ヘリボーン部隊は、3分後に到着する。ヘリボーン部隊のLZ確保に移れ。送れ〉
「アルタイルアルファ、了解。アルタイルブラボー、ポイントレッド1に集結せよ。送れ」
〈ブラボー、了解〉
「移動する。アルファ4、5は、ポイントレッド1付近の建物屋上を確保」
ポイントレッド1は、街中に設けられた防火帯を兼ねる広場の1つに設定され、障害物が多く着陸は不可能だが、2、3機のブラックホークがホバリングを行う分には十分なスペースがある。
アルファ班がポイントレッド1に到着すると、既に宮野タクト二等陸曹以下ブラボー班のメンバーとアルリアが待機していた。
「状況報告」
「ブラボー班、総員6名、現在員6名。異常なし」
「了解。第54普通科連隊第1中隊第3小銃小隊の降下を支援する。その後、敵残存勢力を掃討する。分隊は、広場の各コーナーを確保。民間人を誤射しないよう、厳重に警戒」
「了解」
タクトに指示し、零次は情報端末でブラックホーク部隊の状況を確認する。画面上では、地図に重なるブラックホークの位置とGPS座標は、まもなく到着することを示していた。直後、ブラックホークから無線が入る。
〈地上先行部隊、こちら強襲ヘリ大隊第1強襲ヘリ中隊。現在到着中。街上空を高度500フィートでフライパスし、小隊ごとにブレイク、積荷を降下させる。スモークでポイントの指示と風向指示を〉
ブラックホークからの無線が切れると、零次は作戦計画通りに指示を出す。
「スモーク赤、用意」
「スモーク赤、用意よし」
水島リクト陸士長は、ポーチから発煙筒を取り出して広場の中央で待機する。アルタイル小隊の隊員は特殊機材の扱いに精通しているが、リクトの様な特殊工作員は、より特殊な機材の扱いに長けており、ヘリなどの誘導は彼が行う。
「アルタイル1からアストルフォ13。ポイントレッド1にスモーク赤で誘導する。30フィート程度までは降下可能。送れ」
〈アストルフォ13了解。132、134が先に高度50でホバリングを行う。送れ〉
「了解。リクト、ブラックホークがフライパスしたらスモーク点火」
「了解」
リクトは、発煙筒に巻かれたフィルムを剥がしてキャップを外す。キャップの上部は、マッチ箱にヤスリ部分と同じ様になっており、マッチの要領で発煙筒を点火できる。これは、自動車の発炎筒と同じだ。
しばらくして、ブラックホーク16機が零次たちの頭上を通過して、4機ごとの小隊に散会した。
「スモーク、点火用意・・・点火」
リクトが、キャップで点火薬を擦ると、発煙筒は赤い煙を吐き出し始めた。
〈アストルフォ13、スモーク視認。進入開始〉
アストルフォ13は2機ずつに分散し、2機が旋回して警戒を行い、もう2機が15メートルの高さでホバリングを始める。地上ではダウンウォッシュが吹き荒れ、零次たちは姿勢を低くして風圧に耐えた。
ドアからロープが降ろされると、セイバー13のメンバーは慣れた動作でファストロープ降下を行い、ラペリング降下によりも迅速に降下を完了させる。
〈アストルフォ132、134、人員降下完了。離脱する。送れ〉
〈アストルフォ131、了解。131、133、ホバリングに入る。送れ〉
ホバリングしていた2機が離脱し、代わりに旋回していた2機がホバリングを始め、先程と同様に人員の降下を開始し、素早く降下を完了させた。
〈こちらコマンド。アルタイル1、そこから東に2ブロック先の建物で、敵車両が移動準備をしている。敵指揮所と推測される建物だ。恐らく指揮要員、将校を離脱させる意図らしい。直ちに急襲し、制圧せよ。送れ〉
「アルタイル1、了解」
零次はその場をセイバー13に任せ、指示された目標に向け分隊を移動させた。
細い道を駆け抜けて目標地点にたどり着くと、トラック3両がエンジンを始動させ、今にも走り出しそうであった。
零次はハンドサインを出し、詩織が閃光音響筒を投擲し、閃光と大音響で敵が怯んだ隙に分隊はトラックの周囲の敵に銃弾を浴びせ、文字通り瞬殺。
さらに近くの建物屋上に移動した翼が、トラックのボンネットに徹甲弾を撃ち込んでエンジンを破壊する。
「指揮所内部を叩く。トラップに警戒しろ。手りゅう弾の使用を許可する。アルファ4、5は退路を確保」
〈了解〉
「ブラボーは2階を抑えろ」
「了解」
「行くぞ」
零次の号令で分隊は指揮所のある建物に銃口を向け、木製のドアに銃弾を撃ち込む。
玄関横で突入体勢を整えると、春が手りゅう弾をドアの隙間から投げ込み、爆風がドアを吹き飛ばすと同時に建物内に突入する。
ブラボー班は階段を登って2階に上がり、アルファ班はそのまま1階の制圧を始める。
敵兵を見つけ次第射殺し、部屋へ入る前に毎回手りゅう弾を投げ込んで、中の人間を爆殺する。
1階の制圧には5分もかからず完了した。
零次が、トラップ等の危険物を捜索する指示を出そうとした時、2階から誰から雄叫びと敵兵らしき悲鳴と騒音が響いてきた。
「・・・あ~バカがまた派手に暴れてるな」
「術式武装で、またハルバード作ってぶん回してるんでしょ・・・」
大地が呆れながら言うと、詩織も微妙そうな表情で雑な解説をした。
「昔、死んだ世界で高校生活送りながらドンパチ賑やかなアニメで、そんなキャラいたな」
「・・・零次、流石にあのキャラよりは、タクトのほうがまともでは?タクトは、浩一郎が円周率100桁言っても悶絶しないし」
「いや、僕は円周率100桁流石に暗唱できませんよ。50桁まではいけるけど」
「電卓いらないね」
「いや、計算ミス1つで誤爆の原因になるから、計算は計算機使うか複数人で検算して」
零次がぼやいている間に、2階からの騒音は収まった。
〈ブラボー1、2階制圧。トラップの捜索を開始する。送れ〉
「了解・・・こっちもトラップを捜索、解除する」
「「「了解」」」
零次の指示で、班員はテキパキとトラックの捜索を始めた。
その後、安全装置がかかったままの爆発物が見つかったが、幸いトラップやそれ以外の危険物は発見されなかった。
零次たちが建物の安全を確認する頃には、街中のアルテリア軍部隊は制圧されるか、降伏し、1630時をもって、カバーヒルタウンの制圧が宣言された。
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