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有箱

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零日目(最終話)

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 そんな日々を幾重にも重ね、ついにその日はやってきた。
 飛んでいると錯覚しそうなほど足が軽い。遠ざけていたはずの道なのに、あまり時間を要しなかった。

 最後に訪れた時と、外観がかなり変化している。店自体が敷地を二倍にしており、看板も外装も自信に溢れていた。痩せ気味の男が一人で入るには、少し威圧的な程かもしれない。
 両手で軽く頬を挟んだ。それから大きく踏み込んだ。

「AIロボットレンタルサービスにご来店ありがとうございます。こちらでは、最初に資産情報の確認をさせて頂いております。確認中ですので少々お待ち下さい」

 恐らくロボットであろう、受け付けの少女が微笑む。器用すぎる笑みは、美しかったが物足りなかった。

 少女は僕の生体情報を読み、管理会社にアクセスする。アンメルとの出会いを思いだし、完璧な演技だったなと微笑した。

 数秒後、オーケーの合図が出される。最低ラインの支払いも出来ない人間は、ここで排除されると言う訳だ。

「店内を見て回られますか?」
「いえ、決めたロボットがいまして。すぐレンタル出来ますか?」
「在庫状況を確認致しますので、型番、または名前をお願い致します」
「家政婦ロボットのアンメルです」

 長年、無言で唱えていた名を口にする。足元が浮きそうになり、心が何だか擽ったくなった。
 しかし、冷静を装い、七変化しそうな顔を押さえる。少女が瞬きし、静かに頷いた。

「すぐご用意出来ます。契約期間はどうされますか?」

 食いぎみに答えかけたが、どうにか律する。自然体を装いつつ、肺に敢えて酸素を入れた。
 何度も先読みした未来を、そっと手繰り寄せる。

 お待たせ、アンメル。長いこと時間かかっちゃってごめんね。でも、やっと来れたよ。
 君の姿を見て、嬉しくて抱きついてしまわないよう我慢しなきゃね。もう少しで、演技は終わりだから。

「……永久契約でお願い致します」
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