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「思い出した!」
「えっ? 思……?」
「多分、恵の言ってた未練ってやつ! 思い出した!」
「えっ、急すぎでしょ! 話ズレてない!?」
「死ぬ前の事も全部思い出した!」
「えっ、なんで今!? どういうタイミングなの!?」
本心を求めていたはずが、唐突に話が切り替わり困惑してしまう。和臣は和臣で何やらスッキリしている様子で、これでは完全に置いてけぼりだ。
「恵、ちゃんと聞いて」
「……う、うん」
しかし、置いていく積もりはなかったらしい。和臣の目は真剣に変わり、私の視線を捉えてきた。
「俺ね、恵が好きじゃない」
だが。
「……………………うん?」
予想斜め上の台詞に、困惑を超え唖然としてしまった。そんな私を前に、和臣は構わず続ける。
「俺、告白された時、本当は何か違うって思った。けど、恵が本気で俺を想ってるって知って応えたくなった」
そこでやっと、言葉の真意が分かった。
この発言こそが、彼の本心だったのだ。
「だから、付き合ってたらその内、恵のこと女の子として好きになれるんじゃないかって思って承諾した」
気付かなかった。優しい部分を知っている積もりで、全然理解出来ていなかった。
「けど、数日付き合ってみて、色々考えたんだ」
照れ臭くなったのか、和臣は苦笑った。そうして、いつもの軽快な口調で続行する。
「やっぱり彼女として好きにはなれないなーって。俺の好きは幼馴染みとしての好きで、恋人としての好きじゃないなーって」
何も言えなかった。言うべき言葉があるはずなのに、何一つ見出せなかった。
「恵はもちろん可愛いし、意地っ張りな所もあるけど良い子ってことも知ってる。だけど、どうしても違う気がして。このままじゃ恵に失礼だと思ったから言いに行こうとしたんだ。そしたら事故っちゃった」
あまりの軽々しさに、絶句は続く。
しかし、全てが繋がったことに気付いた瞬間、心の声が零れ落ちた。
「………………え?」
破顔一笑。和臣は満足気だ。
「……そういう?」
「あー! 言えて良かった! これで成仏出来そうだ!」
ついには、遊び中と同じテンションに戻ってしまった。正直、全然付いていけない。
「……って、え? そんなんで死んだの? そんな理由で? 伝えるなんて翌日でも出来たでしょ?」
「まぁ、あれだ。勢い的な。今思えば後でも良かった気はするけど」
当人は死んだことを悔いていないのか、妙に平然としていた。その様子を眺めていると、段々気が抜けてくる。
「……何それ、馬鹿すぎでしょ……」
「だからごめん。俺と付き合ったこと無しにして!」
「は!?」
「あっ、何かスッキリしたから消えれそう」
「え、ちょ、え!?」
これでは、まるでコントだ。大真面目な場面のはずなのに、落胆を生む余裕もない。
感情が反映されてか、和臣の透明度が一気に上がった。
唐突な別れに、また何も言えない。
「恵。俺、幼馴染みとして恵が好き。だから、これから先、誰と付き合うことになっても祝福するし見守ってる。あ、もちろん独身でも」
目まぐるしすぎる。勢いが良すぎて、上手く切り替えも出来やしない。
「だから頑張って生きてって! 三日間楽しかったよ! ばいばい!」
さよならも、ありがとうも、ごめんも何も出てこない。それなのに彼は消えていく。
ああ、もう。結局は、私に未練を残させる積もりだね。
でも、そういう所も好きだったよ──。
*
彼は消えた。あっさり消え去った。味気なさすぎて、夢だったのかもと疑ってしまいそうだ。
けれど、閉館の放送が、精一杯のお洒落が、胸の中に残る感情が、そうではなかったと教える。
多分、私は失恋した。両思いでない上に、相手がいなくなるというダブルパンチだ。
でも、不思議なことに酷い傷心は無かった。寧ろ、どこか晴れ晴れとまでしている。
本当に、可笑しな気分だった。
この先も永遠に、今までの彼との日々を忘れたりしない。一日たりとも消したりしない。
でも、ここで想い続けるのもやめるよ。
私は、生きているのだから。頑張って生きていってとお願いされたのだから。
だから、彼の優しさを抱いたまま、彼の分まで生きていこうと思うよ。
彼が、笑っていられるように。
私は、真っ直ぐ生きていく。
「えっ? 思……?」
「多分、恵の言ってた未練ってやつ! 思い出した!」
「えっ、急すぎでしょ! 話ズレてない!?」
「死ぬ前の事も全部思い出した!」
「えっ、なんで今!? どういうタイミングなの!?」
本心を求めていたはずが、唐突に話が切り替わり困惑してしまう。和臣は和臣で何やらスッキリしている様子で、これでは完全に置いてけぼりだ。
「恵、ちゃんと聞いて」
「……う、うん」
しかし、置いていく積もりはなかったらしい。和臣の目は真剣に変わり、私の視線を捉えてきた。
「俺ね、恵が好きじゃない」
だが。
「……………………うん?」
予想斜め上の台詞に、困惑を超え唖然としてしまった。そんな私を前に、和臣は構わず続ける。
「俺、告白された時、本当は何か違うって思った。けど、恵が本気で俺を想ってるって知って応えたくなった」
そこでやっと、言葉の真意が分かった。
この発言こそが、彼の本心だったのだ。
「だから、付き合ってたらその内、恵のこと女の子として好きになれるんじゃないかって思って承諾した」
気付かなかった。優しい部分を知っている積もりで、全然理解出来ていなかった。
「けど、数日付き合ってみて、色々考えたんだ」
照れ臭くなったのか、和臣は苦笑った。そうして、いつもの軽快な口調で続行する。
「やっぱり彼女として好きにはなれないなーって。俺の好きは幼馴染みとしての好きで、恋人としての好きじゃないなーって」
何も言えなかった。言うべき言葉があるはずなのに、何一つ見出せなかった。
「恵はもちろん可愛いし、意地っ張りな所もあるけど良い子ってことも知ってる。だけど、どうしても違う気がして。このままじゃ恵に失礼だと思ったから言いに行こうとしたんだ。そしたら事故っちゃった」
あまりの軽々しさに、絶句は続く。
しかし、全てが繋がったことに気付いた瞬間、心の声が零れ落ちた。
「………………え?」
破顔一笑。和臣は満足気だ。
「……そういう?」
「あー! 言えて良かった! これで成仏出来そうだ!」
ついには、遊び中と同じテンションに戻ってしまった。正直、全然付いていけない。
「……って、え? そんなんで死んだの? そんな理由で? 伝えるなんて翌日でも出来たでしょ?」
「まぁ、あれだ。勢い的な。今思えば後でも良かった気はするけど」
当人は死んだことを悔いていないのか、妙に平然としていた。その様子を眺めていると、段々気が抜けてくる。
「……何それ、馬鹿すぎでしょ……」
「だからごめん。俺と付き合ったこと無しにして!」
「は!?」
「あっ、何かスッキリしたから消えれそう」
「え、ちょ、え!?」
これでは、まるでコントだ。大真面目な場面のはずなのに、落胆を生む余裕もない。
感情が反映されてか、和臣の透明度が一気に上がった。
唐突な別れに、また何も言えない。
「恵。俺、幼馴染みとして恵が好き。だから、これから先、誰と付き合うことになっても祝福するし見守ってる。あ、もちろん独身でも」
目まぐるしすぎる。勢いが良すぎて、上手く切り替えも出来やしない。
「だから頑張って生きてって! 三日間楽しかったよ! ばいばい!」
さよならも、ありがとうも、ごめんも何も出てこない。それなのに彼は消えていく。
ああ、もう。結局は、私に未練を残させる積もりだね。
でも、そういう所も好きだったよ──。
*
彼は消えた。あっさり消え去った。味気なさすぎて、夢だったのかもと疑ってしまいそうだ。
けれど、閉館の放送が、精一杯のお洒落が、胸の中に残る感情が、そうではなかったと教える。
多分、私は失恋した。両思いでない上に、相手がいなくなるというダブルパンチだ。
でも、不思議なことに酷い傷心は無かった。寧ろ、どこか晴れ晴れとまでしている。
本当に、可笑しな気分だった。
この先も永遠に、今までの彼との日々を忘れたりしない。一日たりとも消したりしない。
でも、ここで想い続けるのもやめるよ。
私は、生きているのだから。頑張って生きていってとお願いされたのだから。
だから、彼の優しさを抱いたまま、彼の分まで生きていこうと思うよ。
彼が、笑っていられるように。
私は、真っ直ぐ生きていく。
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意外なラスト展開で驚きを隠せませんでしたぁ!でも、恵は落ち込まず、しっかりと前を見ていてよかったなあああァァァァ!!!と思いました!!!!
孕蒼汰さん、素敵で楽しい感想をありがとうございます✨!
実はアルファポリスさんで感想を頂くのは初めてのことでして!大大大っ歓喜しております✧*。ヾ( ´ /// ` )ノ゙✧*。
ラストの展開、驚いて下さり本当に嬉しかったです!意外性を持たせられたら良いな、と思っておりましたので……!
頂いた感想、大切にさせて頂きます♡(●´ω`●)