２／２の音色

３

　体の怠さに参りながら、ベッドに横たわる。こうなっては読書もテレビも億劫になる為、考える以外何もできなかった。

　天上と点滴を交互に見る。輝かしい日々を思い出しては、あの悲劇が全てを打ち砕く。
　もう何もかも捨ててしまいたいーーそう願った時だった。懐かしい音が微かに耳を擽った。一つ一つの音を丁寧に響かせ、音は繋がっていく。

　それが知った曲であると気付いた時、心がざわめくのが分かった。苦しいような、それなのに心を慰めるような、そんな不思議な音色だった。
　音が鳴り止んだ時、枕に温かな涙が染みていた。
　
　その音は、その日から毎日のように鳴った。片手で紡いでいるらしき簡単な音。けれど純粋で混じりけのない澄んだ音色。そんな音で紡がれる曲は、奏者の人柄を示すように明るい曲ばかりだった。
　恐らく、奏者は両手で弾く技術を持たないのだろう。ただ、片手演奏でもかなり上手かった。

　患者か見舞い客か。誰が弾いているかは分からない。ただ、ポジティブな感情で奏でていることは間違いないだろう。誰かを思ったり、病に勝つ為の力にしたり。
　私にはその音が酷く輝いて聞こえた。輝きが胸を痛め付けることもあったが、純粋な音を単純に羨ましく思った。

　そしてその内、音の主が気になるようになった。