6 / 7
4-2
しおりを挟む
だが、それは馬車によって引き起こされたものではなかった。
「ロン?」
打ち付けられた体を起こす。吸い寄せられた視線の先、いたのはロンだった。血だらけで倒れている。
周囲の人々が一斉に反応し、辺りはたちまち騒ぎになった。
「ロン!」
駆け寄る。呼び掛けに対し、ロンは力なく目を開けた。だが、傷の度合いから助からないことを悟る。現代の医療技術では、猶予はあれど確実に息耐えてしまうだろう。
一気に突きつけられた現実に、思考が絡まった。
「なんで助けたの。なんで言ってくれなかったの。お兄ちゃんなんでしょ。なんで探す手伝いなんかしたの。最初から言ってくれればこんなことにはならなかったのに……」
必要ない言葉ばかりが口頭に上る。ロンは全てを包み込むように、ただ柔らかく笑った。
「なってたよ。だから言わなかったんだ……言うつもりもなかった……でもとっさに名前を呼んでしまった……後ろ姿、似過ぎだよ……」
予め返事を用意していたのか、ロンは否定しなかった。切れ切れの息を繋ぎ、遺すように声を紡いで行く。
「覚えてないだろうけど、何百年も前から僕らは結ばれない呪いに掛かっているんだ。アロにはそんな恋知らないでいてほしかった……それに、告げなければ解けるかもしれないとも思ったんだ……ねぇ、もし来世も覚えていたら、今度は僕を探さないで」
相槌を挟む暇さえ与えず、ロンは言い切る。
最後の一言が、切実な願いであることは十分に伝わった。アロにはない長さの記憶を背負い、ロンが訴えていることも。
だが、それでも溢れる気持ちに嘘はつけなかった。
「……出来ないよ」
「君の為に言っているんだよ」
君との呼称が、過去や未来まで含めていることを教える。だが、その上で首を横に降った。
「私の為なら探させてよ」
「……報われないのに苦しいだけだよ」
この台詞も今までの忠告も、全てロン自身の心を映していたのかもしれない。それなら尚更だ。
「違う。報われる為に探すんだよ。大丈夫、私が呪いなんてもの吹き飛ばしてあげるから。だから、ね」
何度繰り返すとしても。心が穴だらけになろうとも。
微笑みかけると、ロンの頬に涙が伝った。隠していた愛が、全て詰まったような涙だ。
「……じゃあ、次会えたら、すぐに僕だって 言ってしまうよ?」
「うん、私も早く会えるよう探し続けるから……だからロンも会いに来てね」
「うん……」
それから数時間後、ロンは死んでしまった。直後、青年に会い詳しい話を聞いた。
どうやら青年は、リゼットが助けた子どもだったらしい。本当に感謝していると、青年は頭を下げた。
それからは何代にも渡り、二人は互いを探し続けた。何度引き裂かれようと、その度に再会を誓って。
「ロン?」
打ち付けられた体を起こす。吸い寄せられた視線の先、いたのはロンだった。血だらけで倒れている。
周囲の人々が一斉に反応し、辺りはたちまち騒ぎになった。
「ロン!」
駆け寄る。呼び掛けに対し、ロンは力なく目を開けた。だが、傷の度合いから助からないことを悟る。現代の医療技術では、猶予はあれど確実に息耐えてしまうだろう。
一気に突きつけられた現実に、思考が絡まった。
「なんで助けたの。なんで言ってくれなかったの。お兄ちゃんなんでしょ。なんで探す手伝いなんかしたの。最初から言ってくれればこんなことにはならなかったのに……」
必要ない言葉ばかりが口頭に上る。ロンは全てを包み込むように、ただ柔らかく笑った。
「なってたよ。だから言わなかったんだ……言うつもりもなかった……でもとっさに名前を呼んでしまった……後ろ姿、似過ぎだよ……」
予め返事を用意していたのか、ロンは否定しなかった。切れ切れの息を繋ぎ、遺すように声を紡いで行く。
「覚えてないだろうけど、何百年も前から僕らは結ばれない呪いに掛かっているんだ。アロにはそんな恋知らないでいてほしかった……それに、告げなければ解けるかもしれないとも思ったんだ……ねぇ、もし来世も覚えていたら、今度は僕を探さないで」
相槌を挟む暇さえ与えず、ロンは言い切る。
最後の一言が、切実な願いであることは十分に伝わった。アロにはない長さの記憶を背負い、ロンが訴えていることも。
だが、それでも溢れる気持ちに嘘はつけなかった。
「……出来ないよ」
「君の為に言っているんだよ」
君との呼称が、過去や未来まで含めていることを教える。だが、その上で首を横に降った。
「私の為なら探させてよ」
「……報われないのに苦しいだけだよ」
この台詞も今までの忠告も、全てロン自身の心を映していたのかもしれない。それなら尚更だ。
「違う。報われる為に探すんだよ。大丈夫、私が呪いなんてもの吹き飛ばしてあげるから。だから、ね」
何度繰り返すとしても。心が穴だらけになろうとも。
微笑みかけると、ロンの頬に涙が伝った。隠していた愛が、全て詰まったような涙だ。
「……じゃあ、次会えたら、すぐに僕だって 言ってしまうよ?」
「うん、私も早く会えるよう探し続けるから……だからロンも会いに来てね」
「うん……」
それから数時間後、ロンは死んでしまった。直後、青年に会い詳しい話を聞いた。
どうやら青年は、リゼットが助けた子どもだったらしい。本当に感謝していると、青年は頭を下げた。
それからは何代にも渡り、二人は互いを探し続けた。何度引き裂かれようと、その度に再会を誓って。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
さよならと、その先で【切ない恋の短編集】
天野蒼空
恋愛
ちょっと切ない短編集。色んな『切ない』『叶わない』恋のお話を詰め合わせました。お好きなところからどうぞ。
「雨上がりの忘却曲線」……会えない人を待ち続けていた女の子のお話。奇跡はどこかで起きるかも。
「白」……ずっとお付き合いしている彼氏は、難病持ち。今日も病室で眠っている彼のお見舞いにいく。切なくも愛を感じる短編。
「詰められない距離」……叶わない幼なじみモノ。どうしてその距離を詰められないのかは本編へ。
「最後の一時間」……最愛の彼氏、俊が乗る電車まで、あと一時間。あなたと一緒で本当に幸せだった。愛を噛み締める、切ない物語。
「もう花束も届けられないけれど」……高校時代に好きだった君。そんな君にひまわりの花束を届けにいく。届けに行く先は……。
地平線
幻中六花
恋愛
追いかけても追いかけても近づけない存在。
あるスポーツ選手に想いを馳せる女の子の恋物語。
一方的に気持ちを伝えるだけでいいというのも、遠い存在だからこそ。
この作品は、『カクヨム』『小説家になろう』にも掲載しています。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
魂レベルでビッチです~ヤンデレ彼氏に殺されて悪役令嬢に転生したらしいので、処刑上等で自由な異世界ライフを楽しみます!~
KUMANOMORI(くまのもり)
恋愛
舞日楽華(まいにち らっか)は恋愛経験に落差のあるヤンデレ彼氏に殺され、クソゲーと名高い乙女ゲーム【聖女のキスと祝福と耳飾りと約束の地と】の悪役令嬢・シュシュ・リーブルに転生した。
乙女ゲームを知らないシュシュは、「今世ではビッチと言わせない!」と処女を護るルールを設け、「断罪処刑大歓迎~」の軽いノリで悪役令嬢ライフを開始する。
乙女ゲーム内でシュシュは自分を殺した彼氏にそっくりな、ランス・リルージュ王子に出会う。
自由気ままなシュシュは、伯爵家の嫡男・クラド・ルイドランからの婚約破棄の提案はコイントスで賭けにして、公爵家の次期当主、兄ギリアン・リーブルからの禁断愛には、柔術で対応。さらにランス王子と遊びまわり、一目ぼれしたタフガイのジョーをナンパして、と乙女ゲームの世界を楽しんでいたけれど――――
乙女ゲームの主人公、リーミア・ミルクリンが悪役令嬢シュシュのルートに入ったことで、事態は急変する――――
現世と前世が交錯する悪ノリビッチファンタジー♡
※第一部を不定期更新します♡
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
【完結】【R18】オトメは温和に愛されたい
鷹槻れん
恋愛
鳥飼 音芽(とりかいおとめ)は隣に住む幼なじみの霧島 温和(きりしまはるまさ)が大好き。
でも温和は小さい頃からとても意地悪でつれなくて。
どんなに冷たくあしらっても懲りない音芽に温和は…?
表紙絵は雪様に依頼しました。(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
雪様;
(エブリスタ)https://estar.jp/users/117421755
(ポイピク)https://poipiku.com/202968/
※エブリスタでもお読みいただけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる