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 しかし、終着点にあったのは落胆だけだった。茶色の庭――どころではない、荒れ果てた土地が出来ていたのだ。
 雑草が檻のように視界を阻み、威圧している。玄関口に続くタイルだけが、地割れのごとく足場を作っていた。お化け屋敷かよ。

 長い溜め息が落ちる。少しは記憶に花を持たせられるかも、なんて考えが間違いだった。

「マイ……?」

 声に視線が操られる。振り向いた先、驚愕を滲ませる父がいた。人影が私であると認識してか、駆けてくる。前より父が小さくなった気がした。

「家に寄ってたのか。寄るなら鍵を渡せば良かったな」
「あ、いや。そういうつもりじゃなくて、ただ……」

 結果から、目的の口外を躊躇う。適切な嘘も見当たらず、無意味に地面を眺める人と化してしまった。最後に話した際の距離感が、どうにも思い出せない。

「あーっと、あ、元気だったか?」

 気まずい空気を察したのだろう。演じ気味の台詞が読まれた。不器用ではあるがナイスフォローだ。

「あー、うん。元気だった。お父さんは?」

 父に続いて、ぎこちなく返す。もちろん不格好な笑顔つきだ。だが、思っていたよりも自然なアドリブは出来た。しかも大正解だったらしく、切り返しが間を持つことはなかった。

「変わらずかな。マイ、ずっと忙しそうって聞いてたから、元気そうで安心した」

 台詞ではなく言葉が聞こえ、被った仮面を落とす。視線が結び付き――父から逸らした。父の視線は、荒れ地へと注がれていた。

「…………えと、ごめんな。庭、こんなんにして」

 先を越され、戸惑う。だが、裏腹に声は出た。自分でも驚くほど滑らかに流れて行く。

「あー、いいよ。お父さんが不器用なのは知ってるから。そうだ、それよりさ。ずっと気になってたことがあるんだけど」
「気になってたこと?」
「小さい頃さ、私が一生懸命育ててた種あるじゃん。ほら、芽まで生えたやつ。あれってなんて植物だったのかなって。お父さん知ってる?」

 勢いで放った問いに、次は父が戸惑いを見せた。当然の反応に遭遇し、再びぎこちなさに襲われる。父が花の知識を持つ訳がないのに、私は何を聞いているんだか。

 知ってるわけないよねーと軽く括ろうとして、止められる。父の口から出たのは、意外な答えだった。
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