短編小説集

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物語の中盤で、少女は

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※ロボットものです。


 鋭い音を響かせ、刃と刃が火花を散らす。その度に起こる轟きが、機体のバランスを揺らした。その後も弾かれては振り直し、敵の攻撃を躱し続ける。
 
「くっ……重いっ……!」
 
 逆転の一撃を繰り出したいと、狙いを定めてはいるが一向に隙が見えない。それどころか、現状だけ見れば圧倒的にこちらが不利だ。 

 これが力の差か──と悲観が過ぎったが直ぐに振り切る。今は、物思いに耽る暇などないのだ。
 ただ一つ、この状況を打開する方法だけ考えろ。絶対に、ここを通してはならないのだから。

 私の背後──とは言え、数十メートルは離れている──には、仲間の乗った戦艦がある。そこには、数日前の大規模な戦闘で出てしまった、多くの負傷者が乗っている。故に今は、突然の大戦に対応出来ない状態にある。

 対処の一つとして、いち早い察知のためにと実施していたパトロールをしていたところ、一機の機体を見つけてしまった。正直、なんてタイミングだ……と意気消沈した。

 なぜなら私は、まだ未熟なパイロットだからだ。

 発見と同時に一報を出しており、仲間が駆け付けるのは時間の問題だ。
 だから、それまでは頑張らなくてはならない。絶対にここを通さないように。私一人で。
 
『お嬢さん、仲間はどうしたのかな?』
 
 敵機から、通信機器を通して男の声が聞こえてきた。戦闘狂を彷彿とさせる、楽しげな声だ。
 こうしている間にも、鋭い音はひっきりなしに轟いている。機体のバランスを崩しながらも、何とか逃れ続ける。
 
「……貴方こそ、たった一機で何をしに来たんですか!」
『僕は君の船を壊しに来たんだよ! この背中の荷物でね!』
 
 誇らしげに暴露した男の機体は、四角形をした大きな物体を背負っていた。
 それが何か、正直分からなかった。しかし、堂々と破壊を宣言してしまえるほど、威力のある何かだということは分かる。
 やはり、力尽くでも止めなければならないらしい。
 
 敵機は右手に剣を構え、左手に大盾を構えている。対して私は、両手で大剣を構えている状態にある。しかも、使い方もまだ完璧ではなかったりする。
 
 大剣を捨てて、別の武器に切り換える?
 でも、別の武器って何? 何に切り替えたら形勢逆転が出来るの?

 ──なんて、考えていては駄目だ!
 仲間が駆け付けるのを待っていては、先に行かれてしまうかもしれない。
 
 私が、ここで蹴りを付けるしかない!

 背部分に内蔵した、小型ロケットの発射ボタンを勢いよく押した。目の前の敵機目掛け、ロケットが次々発射される。

 しかし、敵機の反応は早く、即座に避けられてしまった。向かった先の対象物が消えたせいで、ロケットはぶつかり合い、濃い霧を撒き散らす。

 距離は出来た。けれど、相手の場所も見失ってしまった。同じように、相手も出方を伺っているだろう。
 大剣を一旦片付け、右手に大型銃、左手に盾を構えた。見つけ次第、狙撃するつもりだ。

 目を光らせて、相手の居場所を探す。先に見つけることが出来れば勝てる。しかし、逆に見つかればそれはない。
 
 突然、警戒音が機内に鳴り響いた。気配にハッとなり振り向くと、すぐそこに敵機が迫っていた。

 ヤバい──!

 瞬時に左手を上げようとしたが、回避は出来なかった。大きな衝撃が走り、視界がぶれる。

 だが、ここで引き下がれはしない!

 咄嗟の判断で銃を乱射し、取れるだけの距離を取る。敵機は相当強いのか、弾が当たった音は聞こえなかった。
 
「……嘘でしょ……?」
 
 やっと停止出来るようになって、左腕が丸ごと落とされていることに気が付いた。

 これでは力も半減だ。元々強い力などないのに、勝率はどんどん下げられてゆく。
 仲間はまだ来ない。もしかして、通信が上手く行かなかったのだろうか。それとも離れすぎた?

 不安が加速する中で、再び敵機の動く気配を感じた。
 すかさず前を見る。その時には既に、敵機は目の前まで来ていた。

 こんな近距離では、銃なんて使えない。けれど、武器を持ち変える余裕もない。
 嗚呼、もう駄目か。
 
『ごめんね、お嬢さん。僕も命令なんだよね』

 男の声が入ってきた瞬間、思い出した。
 彼の機体には、戦艦を破壊する何かがあるのだ。彼は、仲間たちを危険な目に合わせようとしている。
 私の、大切な仲間たちを。
 
 そうだった。私は皆が来るまで、頑張らなくちゃいけないんだった。
 
 右手の武器を捨てた。大きな銃は手元を離れ、どこか見えない場所に消える。その代わり、右手を腕ごと大きく広げた。

『捨て身だなんて、お嬢さんは馬鹿なんだね』
 
 次の瞬間、腹部に衝撃が走った。これは機体への衝撃ではない──私自身への衝撃だ。

 血を吐いた。何度も吐いた。腹部を見ると、信じられないくらいの真っ赤な血で染まっていた。
 死を悟った。けれど、不思議と怖くは無かった。

 密着している機体同士が離れる前にと、広げた手を敵機の後部に回す。そうして、がっしりと掴んだ。
 
『……どういう積もり?』
「…………絶対に逃がさない」
 
 相手も気付いたのだろう。だが、もう遅い。
 私は、目の前にある赤いボタン──自爆ボタンを殴り付けた。
 
 白い光に包まれる。もう、何も見えない。

 ──よく、がんばったね。
 そう、どこからか聴こえた気がした。
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