そのテノヒラは命火を絶つ

有箱

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一日目

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 何らかの目的を持ち部屋を出た筈の泉深いずみだったが、待合室から聞こえてきた衝撃の真実に、思わず踵を返してしまっていた。
 脳内を言葉が巡る。母の啜り泣く声と、珍しく姿を見せた父の背中。二人の間に浮かぶ声。

「泉深が後1ヶ月も生きられないなんて嘘よね……」

 絶望に落とされた気分だった。



 本来の目的をすっかり忘れてしまった泉深は、部屋に戻ってからも悶々と考えていた。

 感情が複雑に絡み、心の中に蟠りを作る。先立った感情を残したまま、新たな感情もそこに加わり、色を濁してゆく。
 悲しいような、苦しいような、怒りたいような、それであって嬉しいような、満たされるような、まさに支離滅裂状態だ。

 死は何れ訪れると、自分自身なんとなく察知していた。自分の体の事だ、自分が一番理解しているつもりだ。
 それでも、両親や弟の為、彼らを悲しませない為、一生懸命治療に励んできてはいた。少しは希望があるかもしれないと、泉深自身も思っていた。

 しかし、希望は無かった。最期に待つのは死だった。小さな頃からの努力や我慢は、全て無意味だったのだ。

 考え始めると切りが無く、否定的な感情が次々と姿を見せる。
 馬鹿高い治療費も、生きている限り発生する日用品等の費用も、見舞いに来させる労力も申し訳なく感じる。

「……早く死にたい」

 泉深は一人ぼっちの部屋で、そう呟いた。



 死と向かい合ったからか、懐かしい面影が記憶に蘇った。とは言え小さな頃の記憶だ、曖昧な形でしか残ってはいない。

 昔、病名は違ったが、似た病で同じ病棟に入院していた友人が居た。
 その友人の名は夏束なつかと言い、とても活発な女の子だった。辛い治療に弱音一つ吐かず向き合い、常に笑顔で人と接していた。

 それなのに、突然彼女は死んだ。
 発作が原因ではあるが、投薬が間に合わないほど即死に近い状態で死んだという。

 その日から覚悟はしていた。ずっと、覚悟はしていた。
しかし、それでもやはり、どう向き合うべきかまだ分からなかった。

 一ヵ月後、自分はこの世にいない。

 奇跡を信じようと言う気にはもうなれなかった。
 最期はどんな死に方をするのか。夏束と同じように即死か、それとも苦しい死か。
 考えると、背筋が凍った。
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