白い死神と300秒の人生

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epsode0:足掻いた出来損ない

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「僕の話を聞いて下さいませんか?」
 
 死神が降り立った時、第一に青年は言った。その表情は必死だ。瞳には鎌の刃が揺らいでいる。

「五分だけで良いんです。その後は素直に応じますので。不都合とかあったら無理は言えませんけど」
 
 死神は何を思ったのか、数秒絶句し頷いた。
 青年は、頬に小さなえくぼを作り出す。ありがとうございます、と深いお辞儀をされ、死神は驚いている様子を見せた。
 
「僕は、はっきりいって無能な人間でした。出来損ないってやつです。時には犬以下だと言われることもありました。けど、出来損ないなりに努力しました。役に立とうと思って、自分を犠牲に頑張ってきたんです。例えば――」
 
 青年の人生は、泥沼を進むようなものだった。才能がなければ努力でカバーすれば良い。そんな偉人の言葉は、青年にとって悩みの種としかならなかった。
 それほどまでに、青年には生きる才能がなかったのだ。
 
「――でも、報われませんでした。実を結ばすに終わっちゃいました」
「不幸な人生でしたね。お疲れさまです」
 
 死神は淡々と感想を述べつつも、軽く頭を下げる。その仕草に、青年は面映ゆそうに苦笑した。
 
「……うーん、幸福と言えば嘘になるかもしれません。でも、不幸とも違う気がします。報われなかったけれど、僕なりに一生懸命を貫いて生きたので……そうだな」
 
 己に問ったことすらなかったのか、青年は首を捻りだす。だが、考える時間が短くとも、ハッキリした答えは出たらしい。
 
「やっぱり幸せかもしれません。何だかスッキリした気持ちなんです」
 
 その顔には、満たされた笑顔があった。
 
「良い人生だったんですね」
「死神さんもそう思うんですね」
「はい、だって私は……」
 
 青年が不意に何かに反応した。半透明の足に気付いたようだ。
 同時に、死神も時間を再認識する。どうやら双方、話題にのめり込んでいたらしい。
 
「時間、そろそろですか?」
「ああ、はい。とても有意義な話でした。こういうのもなんだか良いですね」
「そんな風に言って貰えるなんて……嬉しくて照れます。話、聞いて下さりありがとうございました。短い時間でしたけど、全人生が報われた気がします。もう悔いはありません。どこへでも連れていって下さい」
 
 青年は大きく両腕を広げた。死神は数秒青年と向かい合い、頷く。そうして、大きく鎌を振り上げた。
 
 ――振り下ろすと、小さな魂が取り出される。この小さな器に収まらないほどの物を、青年は抱いていた。
 死神は、魂だけになった青年を、そっと両手で抱き締める。
 
「もし生まれ変わったら、その時は頑張りが報われますように」
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