12 / 13
私はアリス【2】
しおりを挟む
目を開くと、今日も真夜中だった。一階にいた頃より、強い月光がカーテンを突き刺している。外に出てこいよ。そう言わんばかりに時計を照らす。
お父さまはいない。少し迷いながら、今日もひっそりベッドを出た。
窓を明け、ベランダに出る。一瞬だけ下を覗いたが、白うさぎの姿はなかった。ひとまず気持ちを抑えたところで、すぐ室内に翻る。
このままずっと悲しいままで過ごすのかな。ここから身を乗り出して、逃げることさえせず――。
彼の残した台詞が、鮮やかに咲き乱れる。
私が悲しいと、僕も悲しいと言ってくれた。逃げてもいいと言ってくれた。君には権利があるのだと。私に会えただけなのに、嫌いな体が好きになったとも言ってくれた。
僕と一緒に――言葉の続きは聞かなくとも分かった。
ぎゅっと力を込め、ブレスレットと繋がる。
私は何も出来ないんじゃない。まだ、何もしていない。私は“アリス”になりたい。楽しい世界を駆け巡りたい。本の中じゃなく、この足で!
ベランダの手すりを力強く掴む。勇気を求めて顔をあげると、目映い月が私を見ていた。柔らかな光を送り出しながら。
「アリス……?」
下からの声に引き寄せられる。もう一つ見つけた、白い月に目が潤んだ。
「わ、私よ! 今から行くわ! だから一緒に逃げてほしいの!」
今日は一段と景色がよく見える。だからきっと大丈夫。道に迷ったりしない。
「分かったよアリス、おいで!」
白うさぎが両手を広げた。視野を意識的に狭め、的を定める。だが、本能的な恐怖が、私の体に呪いをかけてきた。ベッドに押し付けられた時よりも重い。けれど。
「アリス、何をしてるんだ!」
突然、背後に生じた気配が、更なる重みを加えてくる。声に気付かれたらしい。急に消失した猶予が、私の心身を圧迫した。
頭が真っ白になってしまう。体が他人《だれか》に奪われて行く。お父さまが近づいてきて、私に手を伸ばす――。
「おいでアリス! 僕と世界を見に行こう!」
声に誘われ、足が動きを取り戻した。手すりに引っ掻け体を持ち上げる。
「ごめんなさいお父さま! 私は自由になりたい!」
一瞬触れてきた手が、自ら離れた気がした。
お父さまはいない。少し迷いながら、今日もひっそりベッドを出た。
窓を明け、ベランダに出る。一瞬だけ下を覗いたが、白うさぎの姿はなかった。ひとまず気持ちを抑えたところで、すぐ室内に翻る。
このままずっと悲しいままで過ごすのかな。ここから身を乗り出して、逃げることさえせず――。
彼の残した台詞が、鮮やかに咲き乱れる。
私が悲しいと、僕も悲しいと言ってくれた。逃げてもいいと言ってくれた。君には権利があるのだと。私に会えただけなのに、嫌いな体が好きになったとも言ってくれた。
僕と一緒に――言葉の続きは聞かなくとも分かった。
ぎゅっと力を込め、ブレスレットと繋がる。
私は何も出来ないんじゃない。まだ、何もしていない。私は“アリス”になりたい。楽しい世界を駆け巡りたい。本の中じゃなく、この足で!
ベランダの手すりを力強く掴む。勇気を求めて顔をあげると、目映い月が私を見ていた。柔らかな光を送り出しながら。
「アリス……?」
下からの声に引き寄せられる。もう一つ見つけた、白い月に目が潤んだ。
「わ、私よ! 今から行くわ! だから一緒に逃げてほしいの!」
今日は一段と景色がよく見える。だからきっと大丈夫。道に迷ったりしない。
「分かったよアリス、おいで!」
白うさぎが両手を広げた。視野を意識的に狭め、的を定める。だが、本能的な恐怖が、私の体に呪いをかけてきた。ベッドに押し付けられた時よりも重い。けれど。
「アリス、何をしてるんだ!」
突然、背後に生じた気配が、更なる重みを加えてくる。声に気付かれたらしい。急に消失した猶予が、私の心身を圧迫した。
頭が真っ白になってしまう。体が他人《だれか》に奪われて行く。お父さまが近づいてきて、私に手を伸ばす――。
「おいでアリス! 僕と世界を見に行こう!」
声に誘われ、足が動きを取り戻した。手すりに引っ掻け体を持ち上げる。
「ごめんなさいお父さま! 私は自由になりたい!」
一瞬触れてきた手が、自ら離れた気がした。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
殺戮兵器と白の死にたがり
有箱
現代文学
小さな島の制圧のため、投下された人間兵器のアルファ。死に抗う姿を快感とし、焦らしながらの殺しを日々続けていた。
その日も普段通り、敵を見つけて飛び掛かったアルファ。だが、捉えたのは死を怖がらない青年、リンジーで。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
神さまどうか、恵みの雨を
有箱
現代文学
赤い目に、白い髪と肌。一人異質な僕は、村の中で呪い子と呼ばれていた。
理由は色だけではない。僕が生まれた直後、雨が降らなくなったからだ。
村人は、僕を攻撃しながら神さまに祈る。雨を降らせて下さい、と。
命さえ枯らされかけていた、ある日のことだった。裏の畑にいた僕は、神さまから声をかけられた。
「仕返しでもするか?」と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる