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第二部第十三章スチムソンドクトリン

第十三章第二十六節(外交交渉)

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                二十六

 ところで肝心の日華交渉は、どのような経過をたどったのだろうか--。
 巷間言われるような、「要求」を突き付け武力で脅し、無理やり条件を呑ませたのだったなら、列強諸国なかんずく米英が黙って見過ごしたはずもない。
 実際のところは三カ月あまりをかけて計二十五回の協議を重ねた正規の外交交渉だったのである。

 交渉に臨んだ北京側全権は陸徴祥りくちょうしょう外交総長。それに曹汝霖そうじょりん次長と秘書一人が随行した。対する日本側は日置益ひおきえき公使を全権代表とし、小幡酉吉おばたうきち書記官と高尾通訳官が付き従った。

 先述の通り交渉における喫緊の課題は、占領した膠州湾こうしゅうわんと引き換えに旅順・大連の租借期限や満鉄、安奉線の経営権の期限を延長することだ。また時間軸で見ればやや中長期的な課題となるが、租借期限延長と同程度に重きを置いたのが満洲および東部内蒙古における日本の優越的地位を承認させること。
 これらだけで要求事項「第一号四箇条」と「第二号七箇条」の計十一箇条を占めた。

 交渉はしょぱなから暗礁に乗り上げた。
 二月二日の第一回目協議は会議の進め方で紛糾した。包括的協議を望む日本側に対し陸総長は逐条ごとの協議を主張。結局、この点は日本側が折れて条項ごとに進めるかたちとなった。
 その三日後に開かれた第二回会議は、先だって日本政府が提示した「二十一箇条」に対する北京政府側の意見陳述の場となった。
 有り体に言えば、北京政府は日本が提出した「二十一箇条」をことごとく拒絶してきたのだった。

 先ず日本側が要求や希望の引き換え条件に用意した膠州湾の還付に対して、北京側は「もともと同地方の領土権を有するのは我が国だから、還付を受けるのは当然のこと」と開き直った。あまつさえ、戦争に参加もしていないのに「戦後の講和会議に我が国代表を出席させるべき」と要求してきたのみならず、「日独戦闘に際して被った被害への損害賠償を請求する」とまで言い放った。
 冒頭からこの有り様なのだから、英米が神経を尖らせた「大陸南方での鉄道敷設権」や「福建省における優先権」、「一定量の武器購入」、「警察の合同」などを含む「第五号七箇条」の希望事項などご心配に及ばず、北京側にははなから取り合うつもりもなかった。

 日本側全権の日置公使は、難航しそうな問題は議事進行上あと回しとすることにして、対話できるところから話し合うというスタンスで取り敢えず協議を進めた。
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