216 / 466
第十章昴々渓・チチハル
第十章第二十一節(踏切横断)
しおりを挟む
二十一
左翼追撃隊の行軍は比較的順調だったが、右翼追撃隊の命令系統は依然乱れたままだった。
追撃の開始を知らせる師団命令は、あらかじめ「書面」で受け取る手筈になっていたにもかかわらず、時間になっても第十五旅団の命令受領者は師団司令部へ姿を見せなかった。そこで師団側から司令部付の吉田大尉を伝令に派遣した。ところがその吉田大尉も、ついに右翼隊の居場所を見つけられなかった。
こうして結局、右翼隊へは命令が伝達されないままとなった。それでも左翼隊が動き出したのを知った天野旅団長が機転を利かせ、独断で進軍を開始したため大きな混乱は起こさなかった。
頭站から東支線までは直線距離で約五キロ。通常の歩度で一時間程度の距離だ。追撃隊は縦隊となり五十分歩いて十分休憩を繰り返しながら行軍を続けた。
北満への侵攻にあたって日本軍が最も警戒したのは、ソ連側を刺激することだった。馬占山もそうした事情を良く心得ているはずで、予め線路を破壊しておいてからそれを日本軍のせいにすることも考えられた。
このため部隊は、ソ連の資産が点在する昴々渓の市街地へは決して立ち入らないよう“お触れ”を出した。また東支鉄道の線路を越える際にも細心の注意を払い、「踏切以外の場所は絶対に渡ってはならない」と、まるで内地での演習のような行儀良さで臨んだ。
左翼追撃隊の行軍は比較的順調だったが、右翼追撃隊の命令系統は依然乱れたままだった。
追撃の開始を知らせる師団命令は、あらかじめ「書面」で受け取る手筈になっていたにもかかわらず、時間になっても第十五旅団の命令受領者は師団司令部へ姿を見せなかった。そこで師団側から司令部付の吉田大尉を伝令に派遣した。ところがその吉田大尉も、ついに右翼隊の居場所を見つけられなかった。
こうして結局、右翼隊へは命令が伝達されないままとなった。それでも左翼隊が動き出したのを知った天野旅団長が機転を利かせ、独断で進軍を開始したため大きな混乱は起こさなかった。
頭站から東支線までは直線距離で約五キロ。通常の歩度で一時間程度の距離だ。追撃隊は縦隊となり五十分歩いて十分休憩を繰り返しながら行軍を続けた。
北満への侵攻にあたって日本軍が最も警戒したのは、ソ連側を刺激することだった。馬占山もそうした事情を良く心得ているはずで、予め線路を破壊しておいてからそれを日本軍のせいにすることも考えられた。
このため部隊は、ソ連の資産が点在する昴々渓の市街地へは決して立ち入らないよう“お触れ”を出した。また東支鉄道の線路を越える際にも細心の注意を払い、「踏切以外の場所は絶対に渡ってはならない」と、まるで内地での演習のような行儀良さで臨んだ。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる