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第六章(十月理事会)

第六章第三十三節(一喝)

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                三十三

 芳澤に呼応して、ベルリンの小幡大使も助け舟を出す。

 「これまで政府は聯盟の干与をはなはだしく嫌忌けんきしてきたが、本職の見るところではすでに問題が聯盟へ提起された以上、聯盟として何らかの処置を取らねばならないのは火を見るよりも明らかである。ならば、むしろこれを利用するのが至当しとうと思われる」

 二年前の十二月、芳澤の後任として駐支公使に任命された佐分利貞男さぶりさだおが急死したため、在トルコ大使からその後継こうけいを託された小幡酉吉おばたうきちは、南京政府から「アグレマン(大使の承認)」を拒絶されるという、外交史上まれに見る侮辱ぶじょくを受けてベルリン大使へ転任した経歴を持つ。
 その小幡が初めて中華大陸の問題に関りを持ったのが、大正七(一九一八)年に起こった山東さんとん出兵後の撤兵問題であった。小幡は「国民党政府は交渉の意思を示したものの、排日の国論に押され、その後二年あまり交渉は一歩も進まなかった」と、当時を振り返った。

 芳澤と同じく華人相手の交渉で何度も煮え湯を飲まされたことのある身から言わせれば、東京のやり方はあまりに杓子定規しゃくしじょうぎ教条的きょうじょうてきである。だいたい聯盟理事たちを「遠隔の地にる政治家」などとなじる外相だが、ワシントン会議に全権委員として随行し「遠隔の地から極東の大陸を巡る問題を差配さはいした」のは誰あろう、幣原外相自身だったではないか。
 その意味を込めて「大陸から遠く離れたワシントンで山東問題の交渉を進められたのは閣下ご自身、よくご承知のことと存じます」と皮肉った。
 
 ベルギー大使の佐藤尚武さとうなおたけなどはついに、「もし聯盟の介入に絶対反対ならば、ただちに聯盟を脱退するほかない」と、これら現場の大使たちの胸中を代弁してのけた。いかに日本側の主張に道理があろうとも、聯盟と対立したままいたずらに時を過ごしたのでは、「非はすべて我が方がこうむることになり、満洲に対する我が国の正当な要求も国際輿論に受け入れられることにはならない」。
 
 東京もいい加減、“大人の対応”を取れと一喝いっかつしたかたちである。 
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