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第五話

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あ、だめだ。学園にいる訳だから、ドレスではなく制服で身軽なのだけれど、思ったより強く突き飛ばされた。それほどお怒りになっていたということみたい。

足元は乱れ後ろへ倒れていく。


「ララ!!」


すんでのところで、ラディネリアン様が受け止めてくださった。


「ありがとうございます。」

「ララ、無事か!?」

「はい、ラディネリアン様が受け止めてくださったので、どこにも問題はありません。」

「良かった。本当に良かった。」


ラディネリアン様が安心したように呟いた。私のことをなんとも思っていないと思っていたのだけれど、婚約者として心配をしてくれているのだろうか?きっと律儀な方だからだ。リボンだって、私が肩身の狭い思いをしなくて良いように贈ってくださったし、決してお母様やお父様のような関係でなくとも、新たな関係でそれなりに結婚生活をやっていけるような気がした。


「お前が突き飛ばしたのか。」


そんな、未来に対しての不安を取り除いていると、ラディネリアン様が公爵令嬢に向かって、冷たい声でそう言った。後ろからちらっと見えるだけであるが、ラディネリアン様の瞳も凍てついているように思う。真正面がら睨みつかれたらとても立っていられないような雰囲気が漂っていた。

実際、公爵令嬢は動けない様子である。それでも、なんとか口を開いて、


「わ、わたくしは、ただコールズ様から離れなさいと、見苦しくいつまでも付きまとうものではありませんわ。と忠告したまでですわ!決して突き落とそうだなんて……」


と言った。

だいぶ力強く押されたけどね…


「そんな戯言は聞いていない。突き飛ばしたのか、突き飛ばしてないのかのみだ。」

「……………………」

「おい、答えろ…」

「ひぃっ、押すことはいたしましたわ…」


ここまで睨みつけられても、決して突き飛ばしたとは言わないのが凄い…寧ろ凄い…。きっと私だったら、突き飛ばしてなくとも突き飛ばしましたって言ってしまうわ。こうやって冤罪が生み出されていくのね。なんてどうでも良いことを考えていると、


「もういい。お前の態度はよく分かった。この後、両家正式に抗議させてもらう。」


なんて言い出した。

抗議って何!??


「何をおっしゃいますの?」


うんうん、私も公爵令嬢と一緒だよ。奇跡的に思っていることが一致したね。


「わたくしは、コールズ様のことを思って……」

「誰が、そんなことを頼んだ。」

「それは……」

「誰かに指図をされる程、我が家は落ちぶれていない。それについても追加でそちらの家に書類を送る。よく、自分の身の振り方を考えるんだな。」



同じ公爵家なのにそんな物言いができるということは、公爵家の中でも階級があるのだろうか。私が学園生活を過ごしている中で、そのような話は聞いたことがないけど、暗黙の了解でもあったのかな。私もラディネリアン様の家に入るのならば、しっかり分かっておかなければならないよね。


「じゃあ、ラーラザリー、今日はもう家に戻ろうか。」

「え、まだ、授業がありますが…」

「それよりラーラザリーの体調が心配だよ。階段から落とされたんだ。ラーラザリーの気づかない不調が起こっているかもしれないから、ちゃんと医者に見てもらおう。」


ラディネリアン様は、とても心配そうな顔で言ってくるものだから、


「はい、分かりました。」


と言うことしかできなかった。

それと、先程は愛称で呼んでくださっていたような気がしたけど気のせいだったかな。
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