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しおりを挟む彼は私の後ろにいるフィーリア令嬢に敵意を向けていた。これで、大体の相関図も読めたのだけど、それについて知ったところで、今更どうこうなる話でもない。
「貴方の忠義は素晴らしいと思いますけど、それは、本当にフィーリア令嬢が全て行いましたの? 真偽は? 証拠は? 裏は取れてますの? もしかして、本人の証言だけと言う事はございませんわよね? ああ、言っておきますけど、注意をされた事に傷付いたと仰るんでしたらお門違いも甚だしいですわよ」
小さな出来事を肥大化させて、罪を為すのは常套手段の一つだ。でも、それは彼女が何もしていないと言えるような立場であり、正真正銘の被害者だと言えるのであればの話だ。
追撃してくるかと思えば、騎士子息は思うところがあるのか、押し黙ってしまった。どうやらこれ以上は時間の無駄のようね。
「まあ、それに関しては……私、大変優秀な捜査官や監査官が知り合いにおりますの。それに、素晴らしく出来る従者もおりますわ。確り再調査をして、その書状の真偽を問いましょうか? そうでしょう? アロガン・デルニエール卿」
「ッ!?」
ニコリと微笑みながら従者エクラを見遣る。エクラはすんっと素知らぬ顔をしたまま、いつの間にかフィーリア令嬢に飲み物をこれ見よがしにと勧めていた。危うく舌打ちをしそうになった。
名を呼ばれたデルニエール第二公爵令息は恐ろしい者を見る目に変わっていた。恐らく、星の名のその意味も相手にしている国もわかっている。ただこれはたかだか同級生の諍い等とは訳が違う。示談でも済んだ話は公式の場で発表してしまった時点で意味が変わったのだ。
それにしても本当に心外だわ、さっきの威勢はどうしたと言うの。
これでは、私が彼等を虐げているみたいで、心が痛みますわ。……何て、もっともそういう風にしたのは彼ら自身なのだけれども。
私は少しだけ証言させただけに過ぎない。
「ときに国王陛下、私大変遺憾ですの。だって、そうでしょう? 国に精魂込めて尽くしていらした侯爵家及びフィーリア令嬢が、権力による弾圧をしかも王族に受けて、ヴァルル第一王子殿下には何のお咎めも無いなんて」
「それは……」
「わかっていますのよ、私も少々出過ぎた真似をしてしまったと思いますの。でも、私は今後、特に外交に携わる者として思いますのよ。今まで懇意にしていた王国の外交に関わる侯爵家を貶めた者が次期国王として、国の代表になるなんて、恐ろしくて関わりたくないですわ、それにあまり他言語にも精通されていないようですしね?」
ちらりと王子殿下を見れば、顔を真っ青にしているもハッとしたように隣の腕を組んでいる子爵令嬢に気付き、彼女を印象づけるように声を張り上げた。
「ローズマリー令嬢なら! か、彼女は帝国語を喋れる! いや、喋れます! 他に恐らく東の異国の珍しい言葉も話せます。新たな外交を結ぶ事が可能と存じます。まだそれくらいだが、今後学べば諸外国の言葉もきっと話せるようになるだろう。そうだろう? ローズマリー」
今までブツブツ何かを呟いていた子爵令嬢は急に名を呼ばれてビクッと驚くと取り繕うようにはにかんだ。
「は、はい、そうですわね。私に任せてくださいませ」
「あら、そうなんですの? まあ精々頑張って下さいましね。貴方が王妃になれるのならの話ですけれど」
「「はっ(えっ)!?」」
そこに驚愕するとは本当に学園で何を学んできたのだろうか。あまりにも興味も関心も沸かない、ましてや今までただ黙って男の背中に隠れていた何の面白みもない子爵令嬢に対して、どうして一々助言などしなければならないのだろう。
そもそも今や立場も地に落ちた王国が、その過ちを冒した王子を次期国王に押し上げたとして、諸外国が黙っていないだろう。何ならそうなってしまった要因の一旦であろう子爵令嬢何て以ての外で、それこそ王国内の貴族ですら認める事は無いでしょうに。例えそれを全て押し切って二人が、結ばれたとしても、帝国は、何より私が
「……外交を断ち切ってしまおうかしら」
「そ、それはしかし、貴方の一存では決められないでしょう」
「ええ、その通りですわ。でも、この事を報告したら皇帝陛下はどう思われるでしょうね。何せ、皇帝陛下は親愛深い方ですから私の大事な親友にこんな事したと聞いたら……」
その先は言わなくても、わかるのだろう。
顰めっ面ともとれる表情から険しい顔に変わる国王陛下は実子であるヴァルル王子殿下を突き放した。
「ヴァルル・ビジュー本日を持ってお前の王位継承権を剥奪。無論、そこの子爵家の娘との婚姻も認めるわけにはいかない」
「父上!」
「そんな……だってこんなのありえない」
キッと子爵令嬢は今までの怯え怖がっていた表情とは打って変わって、憎悪を露わにした般若のような形相に変わる。表情が完全に崩れてしまっていた。
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