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二人の来訪者と追憶

46(side シオン)

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 * *


 一頻り笑っていたカノンとテオが落ち着いてから準備を整え、水源地である川辺に涼みに行き、午前中を過ごした。カノンも久々に人魚の姿になって泳いでいて、ディペルティ卿と競争したりと楽しそうにしていた。俺もハメを外しすぎるところだった。

 そこは割愛するが、やはり海に帰る方が、カノンにとったら安息で楽なのかも知れないと思うのと同時に手離したくないと思う矛盾を抱えてはどちらにしても立場関係無く、強制する事は出来ない。そういう規定を設けてでこの場は成り立っている。

 午後になり、昼食後正門に集結していた。ディペルティ卿とスルース子爵の見送りをする為だ。ディペルティ卿は何ら変わらない様子だったが、スルースに関しては、あまり顔色は優れない。
 昨日の宴会を思えば、二日酔いで現に午前中は落ちていて川辺散策は不参加だった。ルシェルが薬を渡していたから効いてくれば、落ち着くだろうけど。


「──まあ、知ってたが。お前は覚えて無いだろうがここに居る事は熱の時に宣言してたぞ」

「……そ、そうなんですか?」


 カノンは覚えていないようで小さく息を吐くも責めたり、それなら何故急かすように答えを求めていたのか等とは追及したりする事は無かった。俺なら少なからず抗議するところだが、然れどカノンは何とも言えない顔をする。


「どっちみち、帝都には来る事になるだろう。どうせもう招待は受けてるだろ。その時までに考えりゃいいって事だ」


 きょとんとするカノンを見て、こちらを訝しげに見遣るディペルティ卿の言いたい事は察している。
 皇城で大々的に宣言した言葉は対面と願望が含まれていた。親しい関係である事を宣言して、皇城で孤高に晒される事を断固拒否した。もう一点、その件の公爵、貴族に会う事になった場合、当初の状態で出くわせば遠からず、壊されるのにも、それ故に考慮した。ここに留まらせる為の偽りならいくらでも吐いた。
 そこに本人の意思は無かった。決定打を討てたのは良いが、それがまた逆に注目の的になる可能性になるところまでを見誤っただけだ。

 やれやれと溜め息を一つ吐くディペルティ卿は俺を見てからカノンに説明する。


「有名で引く手数多な元騎士団長が今まで決まった相手を作っていなかったにも関わらず、突然此処に来て恋人が出来た、しかも元奴隷であり庇護しており、それが異種族の人魚だって言われたら……招集も掛かるだろう」

「あっ……恋人」


 何かを思い出したように声を出したカノンは途端に顔を真っ赤にして視線を明後日に逸らした。

 何だ、その反応……。
 色々思うところはあるが、恋人関係であると周知していた話はふわっと伝えていた。ただここずっと色々と過去の記憶の関係もあり、失念していたのだろう。そこは仕方無いが、やはり根が素直で、心に余裕が出てきたのか表情に出るようになっているのは見て取れてわかる。嬉しい反面、好奇の目に晒すだろう社交の場には行かせたくないのが本音だ。


「その事ならご安心下さい。手筈は確り整えます。それに、勿論ディペルティ卿も協力して下さるでしょう?」


 カノンを包み込むように背中から抱き締めると手を絡ませる。驚き口を開けるカノンは動揺を隠し切れない様子。
 それを後目に、他の使用人も努めて冷静に素知らぬ振りを貫く。テオは何かしら考えてそうだが、表情は変わらずに黙ったまま。内心は呆れているかもしれない。スルース子爵は今一理解していない様子だったが、テオが何かを耳打ちして納得したように手を叩いた。


「はっ……そう言うところが気に入ってるよ、シオン卿。まあ無事に済めば良いな」

「お褒めの言葉感謝します。利害の一致ですね」


 豪快に笑い出すディペルティ卿は満更でも無さそうだ。「次は帝都でな」と言葉を残すと馬車に乗って出発した。スルース子爵からも協力は惜しまないと言葉を交わしてからカノンにも何かを話していたが、嬉しそうなカノンにそれ以上は触れないでおきたい。スルース子爵家とは今後もカノンは将来関わる可能性があるのだから。
 二人の来訪者を見送った。カノンには、これから頑張って貰わなければならないのもある。全てが終わったらしっかり伝えなきゃならない事も。
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