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二人の来訪者と追憶
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しおりを挟む「僕も……友達に会いたかったから……それはシオン様だったんだ、と」
「カノン……」
少し驚いたと言うかのように目を見開いたシオン様は嬉しそうな表情をする。会いたかった、ずっと。でも、こんな形で会いたくなかった、こちらは全然嬉しくない。ただただ苦しい。
「だからずっと、今まで、からかっていたのですか?」
「えっ」
「昔会った知り合いだからあんな態度をすれば気が引けるとかそんな事でも思ったんですか?」
「そんな事は」
たじろいだように悲しげな顔をするシオン様。こんな表情をさせたいわけじゃない。でも、止まらない。
「ああ、じゃあちょっと物珍しい種族だから一時だけでも近くに置いていたかったからですかね。鑑賞用として、それなら手を出さないのも頷けます。使用人として置けば一応体裁も守れますしね」
「違う!」
皮肉を話し出したら止まらなくなる。こんなにどろどろした気持ち何か知りたくなかった。今はもう昔みたいに綺麗に笑える自信がない。
「じゃあどうしてあんな思わせぶりな見せつけるような事をするんですか? 期待させるような事ばかり言って、何も……! 肝心な事は何も言わないくせに」
俯いたシオン様の表情は伺えない。今までこんなに叫んだ事は無かったし、感情を曝け出した事も無かった。不意にシオン様は顔を上げると真っ直ぐこちらを見つめて時が一瞬止まったようなごく自然な動作で、図ったように顔を近付け、唇が触れた。
「──好きだ」
咄嗟に変な声を上げる前にまた口付けをされた。慌てて顔を背けると頬や瞼に口付けされ、抵抗しようにも両手を掴まれて、何度も何度も何かを言おとする度に名前を呼ばれてキスされる。
ずるい、ずるい何で……!
そう思うのに力で敵うはずもなく、やがて、力が抜けていき抵抗する気も無くなってしまった。意味がわからない。こんなに沢山キスされた事も無い。何なら殆どする事がなかったからどうやり過ごせば良いかもわからなかった。
「……あの話を訂正する。俺はカノンにここにいて欲しい」
「ッ~~!」
真剣な表情のシオン様に心が跳ね上がるのは、僕がそれ以上の感情を抱いている事を理解するには十分だった。
「友達にも使用人にも、ましてや奴隷に何て俺はこんな事は絶対しない。……嫌なんだよ。その意味を理解する気があるならここにいて欲しい。それ以外を望むなら一緒にいるのは辛いだけだ」
その意味がわからないほど、無知でも鈍感にもなれない。何度もシオン様は態度に出していて、ずっと僕を特別に見ていた事を自覚せずにはいられない。顔が熱くなる。暑さにやられた数日前との感じと別に心がざわつく。漣が繰り返し繰り返し流れるようで、どういう言葉を伝えれば良いのか上手く言葉が浮かばない。気持ちが追い付かない。信じていいのか、揺れる気持ちは恐怖が抜けない。
暫くの間の後、シオン様は大きく息を吐いて笑うと手を離して、頭を撫でられた。
「んー戻るな」
ただ言うわだけ言ってふらりと出ていこうとするシオン様の服の袖を慌てて掴んで引き留める。目を見開くシオン様に目を合わせるも何かがぶわっと競り上がるようで直ぐに視線を逸らした。耳まで熱い気がして、それでもこんなでも彼の側に居たいと思ってしまうこの感情が貴方と同じなら良いと思った。
「あの、僕もここにい」
最後まで言葉を話切る前に唇を塞がれ、何度も何度も啄まれるように唇を重ねられる。こんな風に何度も何度もキスされた事何て無い。
「シ……ォ、さ、……待ッ、んふ……」
繰り返し唇を重ねられ、何度も角度を変えられてから息の仕方がわからずに堪えられず、薄ら唇を開くとすかさず口内に舌が侵入してくる。目を開けて驚くもすぐに舌で歯を撫でられ、逃げようとすると舌を絡め取られる。暫くその行為が続き、また力が抜け始めてから腰を抱かれ、頭を固定されると更に深く舌が入ってきて口内を侵されているような錯覚に陥った。その頃には何も考えられなくて重なる口付けに応えるのに手一杯だった。ゆっくり唇を離され、唇から糸が引かれる。微かに荒い息遣いが静かな部屋に響いた。
「わかってない。これ以上の事もする」
「ッ……構い、ません」
「そう言う顔をされたら本当に止められなくなる」
艶のある表情をするシオン様は親指で自身の唇を拭うと鬱陶しそうにワイシャツのボタンを一つ外すベットの上に押し倒される。
また何度かの口付けをして、額、瞼、頬に唇を這わされ、首筋に微かな痛みのような今までとは違う吸われるようなちくっとした痛みを感じて吐息が漏れた。しかし、身体を預けるように重みを感じてから直ぐにシオン様から規則正しい吐息が聞こえてくると戸惑うように首を傾げた。
「え? えっ? シオン様?」
声を掛けても寝息が微かに聞こえるだけで、シオン様からの返事はない。完全に寝落ちてしまっている様子だ。ポカーンとするもこうなってしまったら起こすにもお酒も飲んでるだろうし、何よりよく寝ているようでシオン様の仕事熱心な様子やあまり寝れていない事を考えてしまい、気が引けてしまう。
抜け出そうにも体格の違いとがっちり抱き締められていて、少し横にズレて重さから逃れるのがやっとだった。シオン様の寝顔を見て何だかほっとしたような残念なような微妙な心境に駆られるが我に返ってしまうと、思わずうわあああと叫びだしそうになってここから抜け出したいが、が力強すぎて不可能だった。
「んー……ずるい本当」
暫く悶えながらもシオン様の健やかな寝顔を見てたらだんだん眠たくなってきた。何より暖かいのだ。僕は温もりを感じながらシオン様の胸元に顔を埋めてそのまま眠りに落ちてしまった。
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