30 / 60
使用人達の遊戯場
29
しおりを挟む
視線が絡まって一瞬時が止まったような感覚で、息をするのも忘れるくらいに。
「カノン」
意外にもシオン様の睫毛って長いんだなってまじまじと見たシオン様の端正な顔を見ていたら根負けしたように笑うシオン様の声はとても優しくて、ノックの音と同時に現実に引き戻されてガバッと顔を上げた。
何かとんでもない事をしかけた気がして一気に顔が熱くなる。顔の熱が引く前にシオン様は扉を開く許可を出した。テオが入ってきて、素早くお茶を取替え、お茶菓子をセッティングすると特に何も言わずに出ていこうとする。
「……テ、テオ」
咄嗟に助けを求めるように名前を呼んだ。テオはにこやかに笑うと直ぐに扉を勢い良く開く。
「検討を祈ります」
「何を!?」
「私は砂糖菓子より甘い寵愛は耐えられません」
それ今まで聞いたことないよね!?
何の話かの説明も無く、扉を勢い良く閉められたが、至って静かに最後は閉まった為、そこはテオの為せる技法かもしれない。
「あの……シオン様?」
「カノンはやっぱりテオとは仲良いんだよな」
「はい、先輩として良くして貰ってますし、同室でとてもお世話になってます」
「そうだよな……」
シオン様は目を閉じてしまった。何処か沈んでしまったような落ち込んでしまったようなシオン様に動揺する。
「やっぱり、僕は……シオン様に不快な思いをさせてしまいましたか?」
シオン様が落ち込んでいるように見えてどうしようも無い。この人は恩人で、今の主人でだけど、時々何だかそうじゃない気がして戸惑ってしまう。
良くわからない感情を押し殺した方が良いのに、どうしようも無く揺れる。
「いや……違う。そんな顔するな。これは、ただ嫉妬しただけだから。俺が居ない間にそうなったのも気に食わない」
「すみません……僕があんな流されたばかりにシオン様とテオはそういう関係だったとは知らず」
シオン様とテオは主従関係ではあるが、かなり親しい友人のような間柄に見えた。それは親密な関係だったからこそなのかもしれない。あんなに垣根を越えた関係に見えるのだ。知らなかったからと言って僕はとんでもない失態をしてしまったのかも知れない。僕に注意が殆ど無かったのは、僕がまだここにきて日が浅く、ひ弱だからだろう。
「違う。そもそも彼奴は涼しい顔して見境が無いからもっと早く主張しとくべきだった。主張しても可能性は捨てられないが、いや、治療だとは、わかる。わかるんだけど、俺が嫌なだけで」
シオン様は頭を抱えて、直ぐに否定すると僕の頬を両手で覆うと僕の顔を近付ける。何か色々愚痴を零すように言いながらがっしりとホールドされて、至近距離の顔は吐息も掛かるくらい近い。
「とにかくテオとは主従であって、そう言った身体の関係にしろ情念はない。それにそういう関係だったらこんな状態を見て流石に放置はしないだろ」
言われて見れば……確かにと納得したのとあまりの至近距離に早く離して欲しくてこくこくと頷けばシオン様は直ぐに解放してくれて、上半身を起こした。
シオン様はテーブルに置かれた紅茶を一口飲むと続けた。
「そもそも俺がそうなりたいのはカノンであって、テオじゃない」
「はあ、……へっ?」
「だからテオに嫉妬したって言ってたんだが……伝わって無いな……」
間の抜けた声を出してしまった。シオン様の言葉にやっとこの状況である事が結び付き、理解出来て、やっと収まった熱がまた顔に集中して顔を手で覆った。
何で、どうして? いつ?
だって僕は元奴隷で、まだ会って間も無くて、でも、許されるはずなくて。何も持ってないし、なんの余裕も無い。ただ主人の言葉を拒否するのも許される訳もなくて、疑問を持つのも憚られる。
他の人の話も噂も結び付く。理由が何も浮かばない。寧ろその逆の事しか思えなかった。
「気持ち悪く無いんですか……?」
「いや、どちらかと言ったらどうしたら振り向いてくれるかのが重要だな」
先程から思っていた事を口にした。でも、シオン様の答えは想像とは違う。
何言ってるんだ、この方は。
まるで、対等に見てくれているとでも言っているようだった。
「寧ろ嫌なら拒否して構わない」
「そ、そんな事は絶対有り得ません!」
自分がこんなに大きな声を発したのはいつぶりだったのだろう。驚いた顔のシオン様はそうかと何度か頷いて何処か嬉しそうだった。
「……カノンはきっと今の立場と過去の事からあまり前向きでは無いのはわかってるんだ。だから答えが出るまで待ってるつもりだ。だから少しだけでも前向きに考えてほしい」
また見透かされたように戸惑っている僕に優しい声を掛けてくれた。僕は手を退けるとシオン様を見た。懐かしくて、もしかしたら昔会ったことがあるのかもしれないと、今は隣に立つ自信も度胸もあまりに拙すぎた。
「ありがとう、ございます……」
「ただ何だ、言った以上は積極的にいかないとな」
「あの、お手柔らかにお願い致しっ」
申し訳なさげな僕に満足気にそう言うシオン様は楽しそうに僕の空いた口にクッキーを入れた。吃驚したが、口の中にサクサクとした感触が甘味を広げ、正直なところとても美味しい。
上機嫌にもう一つと口元に持ってこられて、断る物でも、拒否するのも躊躇われ、何より食べ物を粗末には出来ず、口を開けて受け入れた。
暫くそれが気に入ったのか、食べ終わる頃にはまた口元にお菓子を持ってきては、食べるように促すのが繰り返された。
「それに、ここにカノンを置く為に恋人関係にあると皇城では説明したから呼ばれる可能性や使用人だけでは居られなくなるとは思うからそのつもりで」
「んむ!?」
「それに手を出したテオと一緒なのも納得出来ないからな。これからは俺とベッドを共有する事に決めたから」
有無も言わさず断言的に話すシオン様。そこは決定事項なのか、と思いながら置いてあったもう一つの紅茶カップを両手で持つと喉を潤した。少し冷めてしまった紅茶は僕にはちょうど良かった。
拒否すると言う選択は無い。当然従うのだけど、気持ちの整理が着かないのだ。本当に今日は何が何だか、目まぐるしく、表情筋がやけに忙しい。
これから何をしたら良いだろう。何となくもっと何かが変わっていく予感もして僕は今は戸惑うばかりだった。
「カノン」
意外にもシオン様の睫毛って長いんだなってまじまじと見たシオン様の端正な顔を見ていたら根負けしたように笑うシオン様の声はとても優しくて、ノックの音と同時に現実に引き戻されてガバッと顔を上げた。
何かとんでもない事をしかけた気がして一気に顔が熱くなる。顔の熱が引く前にシオン様は扉を開く許可を出した。テオが入ってきて、素早くお茶を取替え、お茶菓子をセッティングすると特に何も言わずに出ていこうとする。
「……テ、テオ」
咄嗟に助けを求めるように名前を呼んだ。テオはにこやかに笑うと直ぐに扉を勢い良く開く。
「検討を祈ります」
「何を!?」
「私は砂糖菓子より甘い寵愛は耐えられません」
それ今まで聞いたことないよね!?
何の話かの説明も無く、扉を勢い良く閉められたが、至って静かに最後は閉まった為、そこはテオの為せる技法かもしれない。
「あの……シオン様?」
「カノンはやっぱりテオとは仲良いんだよな」
「はい、先輩として良くして貰ってますし、同室でとてもお世話になってます」
「そうだよな……」
シオン様は目を閉じてしまった。何処か沈んでしまったような落ち込んでしまったようなシオン様に動揺する。
「やっぱり、僕は……シオン様に不快な思いをさせてしまいましたか?」
シオン様が落ち込んでいるように見えてどうしようも無い。この人は恩人で、今の主人でだけど、時々何だかそうじゃない気がして戸惑ってしまう。
良くわからない感情を押し殺した方が良いのに、どうしようも無く揺れる。
「いや……違う。そんな顔するな。これは、ただ嫉妬しただけだから。俺が居ない間にそうなったのも気に食わない」
「すみません……僕があんな流されたばかりにシオン様とテオはそういう関係だったとは知らず」
シオン様とテオは主従関係ではあるが、かなり親しい友人のような間柄に見えた。それは親密な関係だったからこそなのかもしれない。あんなに垣根を越えた関係に見えるのだ。知らなかったからと言って僕はとんでもない失態をしてしまったのかも知れない。僕に注意が殆ど無かったのは、僕がまだここにきて日が浅く、ひ弱だからだろう。
「違う。そもそも彼奴は涼しい顔して見境が無いからもっと早く主張しとくべきだった。主張しても可能性は捨てられないが、いや、治療だとは、わかる。わかるんだけど、俺が嫌なだけで」
シオン様は頭を抱えて、直ぐに否定すると僕の頬を両手で覆うと僕の顔を近付ける。何か色々愚痴を零すように言いながらがっしりとホールドされて、至近距離の顔は吐息も掛かるくらい近い。
「とにかくテオとは主従であって、そう言った身体の関係にしろ情念はない。それにそういう関係だったらこんな状態を見て流石に放置はしないだろ」
言われて見れば……確かにと納得したのとあまりの至近距離に早く離して欲しくてこくこくと頷けばシオン様は直ぐに解放してくれて、上半身を起こした。
シオン様はテーブルに置かれた紅茶を一口飲むと続けた。
「そもそも俺がそうなりたいのはカノンであって、テオじゃない」
「はあ、……へっ?」
「だからテオに嫉妬したって言ってたんだが……伝わって無いな……」
間の抜けた声を出してしまった。シオン様の言葉にやっとこの状況である事が結び付き、理解出来て、やっと収まった熱がまた顔に集中して顔を手で覆った。
何で、どうして? いつ?
だって僕は元奴隷で、まだ会って間も無くて、でも、許されるはずなくて。何も持ってないし、なんの余裕も無い。ただ主人の言葉を拒否するのも許される訳もなくて、疑問を持つのも憚られる。
他の人の話も噂も結び付く。理由が何も浮かばない。寧ろその逆の事しか思えなかった。
「気持ち悪く無いんですか……?」
「いや、どちらかと言ったらどうしたら振り向いてくれるかのが重要だな」
先程から思っていた事を口にした。でも、シオン様の答えは想像とは違う。
何言ってるんだ、この方は。
まるで、対等に見てくれているとでも言っているようだった。
「寧ろ嫌なら拒否して構わない」
「そ、そんな事は絶対有り得ません!」
自分がこんなに大きな声を発したのはいつぶりだったのだろう。驚いた顔のシオン様はそうかと何度か頷いて何処か嬉しそうだった。
「……カノンはきっと今の立場と過去の事からあまり前向きでは無いのはわかってるんだ。だから答えが出るまで待ってるつもりだ。だから少しだけでも前向きに考えてほしい」
また見透かされたように戸惑っている僕に優しい声を掛けてくれた。僕は手を退けるとシオン様を見た。懐かしくて、もしかしたら昔会ったことがあるのかもしれないと、今は隣に立つ自信も度胸もあまりに拙すぎた。
「ありがとう、ございます……」
「ただ何だ、言った以上は積極的にいかないとな」
「あの、お手柔らかにお願い致しっ」
申し訳なさげな僕に満足気にそう言うシオン様は楽しそうに僕の空いた口にクッキーを入れた。吃驚したが、口の中にサクサクとした感触が甘味を広げ、正直なところとても美味しい。
上機嫌にもう一つと口元に持ってこられて、断る物でも、拒否するのも躊躇われ、何より食べ物を粗末には出来ず、口を開けて受け入れた。
暫くそれが気に入ったのか、食べ終わる頃にはまた口元にお菓子を持ってきては、食べるように促すのが繰り返された。
「それに、ここにカノンを置く為に恋人関係にあると皇城では説明したから呼ばれる可能性や使用人だけでは居られなくなるとは思うからそのつもりで」
「んむ!?」
「それに手を出したテオと一緒なのも納得出来ないからな。これからは俺とベッドを共有する事に決めたから」
有無も言わさず断言的に話すシオン様。そこは決定事項なのか、と思いながら置いてあったもう一つの紅茶カップを両手で持つと喉を潤した。少し冷めてしまった紅茶は僕にはちょうど良かった。
拒否すると言う選択は無い。当然従うのだけど、気持ちの整理が着かないのだ。本当に今日は何が何だか、目まぐるしく、表情筋がやけに忙しい。
これから何をしたら良いだろう。何となくもっと何かが変わっていく予感もして僕は今は戸惑うばかりだった。
0
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説
悪行貴族のはずれ息子【第1部 魔法講師編】
白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン!
★第2部はこちら↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/450916603
「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」
幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。
東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。
本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。
容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。
悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。
さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。
自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。
やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。
アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。
そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…?
◇過去最高ランキング
・アルファポリス
男性HOTランキング:10位
・カクヨム
週間ランキング(総合):80位台
週間ランキング(異世界ファンタジー):43位
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる