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変わり者の貴族の屋敷

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「凄く綺麗な瞳と顔をされていますね。好み何じゃないですか」

「は? 何で、知って……いつも顔逸らされてるから俺まだまともに顔見れてないんだけど。ああ、そうか解禁日か」

「リリーや皆が凄く盛り上がってましたよ」

「だから今日は少し騒がしいのか」


 執務室から浴場は廊下を真っ直ぐ行って突き当たり直ぐにあった。それは、ここを建てた前当主が広いお風呂に浸かりたかったからと言う安直な理由らしいが、シオンが現当主になってからはそこは泊まり込みの侍従や使用人達にも開放され、浴室場になっていた。尚、シオンも良く使っていたりする。


「「「きゃー(嘘ぉー)!!!」」」


 そんな時だったが、盛り上がっているのはわかるが、ここまで悲鳴が聞こえる程に彼は魅力的らしい。


「し、失礼致します。シオン様、とテオさんもいましたか。お見苦しい姿で申し訳ございません、至急浴場まで来て貰えませんか!」


 ノックも忙しく、侍女は扉を開けるとそう声を掛ける。執務室内には入らないのは、侍女がずぶ濡れで水を滴らせてるからだった。不思議そうに見るが、シオンとテオは顔を見合わせ、何事かと侍女に着いて浴場に向かう。


「おおお落ち着いて下さい! カノンさん」

「…………」


 脱衣場から浴場まで来ると熱気と共に数人の侍女がずぶ濡れの状態で、浴室に浸かっているカノンとは距離を取っていた。湯気も立っていたが、据わった目をしているカノンは近づいてくる人に鉄砲のように水を掛けて威嚇していた。


「……水遊びですか?」

「違います違います! そうじゃありませんよ。カノンさんの姿が」


 着いて早々にテオは思わずそう呟くが直ぐに否定される。カノンの姿は下半身が透き通るような白と金色の色彩に艶のある鱗を纏い、足先は尾びれになっているようだった。上半身は人の姿で、耳元にも鰭が出来ているように見える。浴槽に浸かっている姿は異種族のそれだ。


「人魚……か?」


 そう呟いたと同時にシオンの顔面にお湯が勢い良く掛かった。ポタリポタリと滴る水に、服の袖でそれを拭うシオン。一同どうやらカノンの姿に驚くのと同時にそれから水を激しく掛けられ近付く事が出来なくなってしまったらしい。


「……そもそも真水だったなら人魚に戻らないのでは」

「え、そうなの? てか、何でお前水掛かってな、……って、お前魔法で結界貼ってんのか!?」

「当たり前でしょう。濡れる方が面倒くさいんですよ、俺は自分で掛かるなら兎も角、誰かに掛けられるなんて耐えられません」

「どういう意味で? せめて、主人にも結界貼ってくれても良くない?」


 何て言う押し問答の後にテオはスルーして、リリーと散らばってる侍女を助けに行き、こちらに戻ってきた。シオンは納得いかないと言いたげな表情をするが無視するテオ。
 他の侍女は脱衣所に避難した。


「最初はただのお湯でしたけど、反応が一々可愛らしくて、もっと気合い入れたくなってしまったのと久々の新しい子だったから盛り上がりに盛り上がって入浴剤を入れたんです」

「入浴剤?」

「ここでは珍しい海洋岸産の物です~! 海の色みたいで綺麗な目をしてたのでこれだって思って、まさか、ここまで怒るとは思ってなくて……」


 控えめだったカノンがこうなったのも何となく理解出来るが、泣きそうな表情のリリーの頭をポンポンするテオ。
 カノンは誰も近づいて来ない事から水を掛けてくるのは止めているものの未だに、興奮しているのか涙目で睨みながらその妖艶な姿により不思議な魅力も重なり、恐ろしさは無いもののどちらかと言うならば、熱さからか頬も紅潮し、嗜虐心が唆られ、思わず首を左右に思いっきり振るシオン。何を考えているんだと、自身を叱咤する。


「でも、ちょっと熱すぎるんじゃ……」

「カノン君いつも手が冷たくて……温めた方が良いと思って熱めにしたんです」


 不意に思い立ってテオが言うと恐る恐る話すリリーは何か更にやらかしたのかと心配する表情に変わる。相手は人魚であり、種族が違うため何かと扱い方が違う。


「いや、うん。俺も詳しくないが文献でしか読んだ事ないしな……住む場所を考えてもこれは流石に熱すぎるな」


 暫し少し考えながらも海からもかなりの距離のある森にそもそも人魚が居るのが異常だった。
 シオンは一歩、浴槽に近付く。


「来ないで」

「俺は何もしない。ただ、……」


 カノンは怒っていると言うよりは、何処か怯えているような恐がっているようにも映るのは気のせいでは無いだろう。彼の境遇は相当に悲惨な状況だったのでは無いかと、それこそ自分の今の姿に、種族に錯乱しているようなカノンに言葉が詰まった。


「醜い……から、見ないで」


 そう言われ何をと、驚くシオンにバシャンと思いっ切り全身にお湯を掛けられ、ずぶ濡れになり、咄嗟に目を瞑ってしまったのを顔面の水を切り目を開ければ、力尽きたのか、上半身を真っ赤にして浴槽の中にカノンは沈んでいた。


「カ、カノン君!?」

「溺れ……いや、人魚だから大丈夫か」

「その前に茹で上がるから水を! 水を!!」


 シオンは慌てカノンを引き上げ救助すると見覚えのある気がする模様を見つけ思わず凝視した。

「何やってるんですか? 早く運んで下さい!」

 催促しながら水の準備をするテオとリリーに、ハッとしたシオンは確証の無い疑問を押し込め、今は彼を助ける事を優先した。
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