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変わり者の貴族の屋敷

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「ふふふ、スッキリしたわね」

「おお、これは……」


 人の目が恐い、好奇の目も恐い。そう思うのは何でだっただろうか。


「ぅゔゔっ……やだ」


 つい口から言葉が漏れてしまい、髪を触りながら顔を隠そうとするが、今まであった髪がなく、手は顔を触るだけ。髪をバッサリと切られた。
 主に前髪は顔を覆うほどに長かった為、隠すのに打って付けだったのに、鬱陶しいと始めにざっくり切られ、後ろ髪も整えられて、短髪にされた。
 地味にショックだった。
 何よりこの目を見られるのがとても苦手だった。この目を見た瞬間から今までの主の血走ったような表情がはっきり見えてしまい、この目は卑しいんだと思っていたから。


「「照れてるの可愛いわ(ね)」」

「あらぁますますおいしそ~」

「ぴぇッ」


 そんな事は梅雨知らずで、いつの間にかまた違う侍女も数人加わり、予想しない言葉に目を見開き驚くが、それよりもチェルシーの言葉に顔を手で隠して、怯えるように隅に逃げるようとしたが、誰かにぶつかった。


「すみま」

「騒がしいなぁーと思ったら……カノンさんで遊ばないでくださいよ。全く」

「テオさ」

「髪型似合いますね、ふむ」


 いつの間に来たのか、テオが目の前にいた。どうやらぶつかってしまったのはテオらしいが、咄嗟に謝ったのも遮られると顔を隠していた手をひょいと両手で掴まれ、鮮やかに顔から引き剥がされると、そのまま腕を上げられ、万歳をした状態で顔を覗き込まれた。


「……綺麗な瞳ですね。いや、これは予想以上に、成程」


 と一人で納得したように頷くと意味もわからず、渋い顔になっていく僕にニコッと笑みを浮かべたテオは直ぐに手を解放した。


「ここまでの免材が来ると、俺にも止められないや。悪いようにはされないから頑張って下さい」

「へっ?」


 終わりじゃないの!? と思ったのも束の間、後ろから肩をガシッと掴まれると、反射的にビクッと肩を跳ねさせる。
 後ろを振り返ってはいけない気がする。きっとどの世界でも女の勇ましさ(?)とやらはこういう時に本領発揮をされるのだ。


「次はお風呂に入りますよ!」

「自分で、ででで、出来ます」

「大丈夫ですよ! 私達がピカピカに磨いちゃいますんで、安心して下さい」


 そういう事じゃない。
 いくら何でもこの待遇も変だが、シオン様以外もどうやら若干距離感がおかしいようだ。頼みの綱だと思っていたテオは、何も言わずに笑顔で手を振っている。
 チェルシーも私はここまで、浴場は専門外だと言う。猫獣人だから水は苦手なのかもしれない何て頭を過ぎるが、それどころじゃない。チェルシーは顔を身繕い始めてもう役割りを終えたと言わんとしていた。

 誰も助けてくれず、まだ病み上がりの軟弱な抵抗も虚しく、僕はそのままリリー合わせた数人の侍女にずるずると引っ張られていった。
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