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世迷い言【完】

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これは報いだった。
聖女を、否、彼女を蔑ろにした。

いや、国が、この世界の神が根本的に彼女を呼び寄せてしまった事への。
それに気付けなかった、皇太子の。



愛してる何て烏滸がましい。
彼女は一度だって愛してる何て答えなかった。

『憎らしい』




弱音を吐くなんて笑わせる。
彼女は一度だって弱音を吐かなかった。

『帰して』




守ってやる何て馬鹿らしい。
彼女は一度だって守って欲しいなんてか弱くはなかった。

『ありがた迷惑』




優しく慈悲深い聖女。

その名前は誰も知らない。
代々召喚された聖女の本当の名は誰1人も知らないだろう。
全てこちらの身勝手な都合で呼び寄せた事で、彼女はただ生きる為に、帰りたい為に、必死になって頑張っただけだった。
帰る方法は無く、一方通行の召喚だと知った彼女に絶望を与え、信頼のおける家族にも友人にも、ただ1人の愛する人にももう二度と会えない。

それに加え、彼女にはお腹に小さな生命を宿していた。たった1人の最後の肉親。その小さな生命さえ、この世界は、この国は、奪った殺したのだ。


彼女はあちらの世界で本当に幸せの絶頂だった。
それが選ばれてしまったばかりに全て崩れ去ってしまった。

召喚されて、敬われ、奉られ、崇められ、優越感に浸る。
誰しもが敬愛する聖女に選ばれた。だが、誰しもがそれを喜ぶ訳では無かった。

















その後、聖女を見たものはいない。

この手記は作者不明のまま、後世に残された。


ただどうあってか、
必ず聖女を迎える召喚の際にまことしやかに噂され、語り継がれたと言う。








- [完] -


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