13 / 31
俺にはウェイトレスとドラゴンが茶番を繰り広げているように見えるのですが?
しおりを挟むその顔は間違いなく酒場のウェイトレスだが、着ている服はどこかの貴族令嬢かと思う程の黒と金の豪華なドレス姿。言葉を失う俺を余所目に、その彼女は誰に向けたとも分からないセリフを続ける。まるで舞台の上の女優のように。
「このドラゴンは怒ってるの。自分の眠りを妨げた、そこの男にね。そう、怒りにより復讐に来たのよ」
そう言ってドレスの女性はブッシュを指差す。マリンの回復魔法により、ようやく立ち上がったブッシュだったが。その言葉を聞いてさすがに慌てた感じで反論した。
「お、おい。お前、なにを言いだすんだ?」
ドレスの女性はその胸元から一つの小さな石のような物を出してくると、さらに話を続けた。今度はブッシュに向けてだろうか?
「この石が何かおわかり? あなたがドラゴンの巣に落とした岩石の破片なのよ。ドラゴンはとても感覚が優れているから、これに残った残留魔力とあなたの魔力が一致したら……フフッ。楽しいわね」
嘲笑する女性に、さすがにブッシュが顔色を変えた。
「な、なんだって。俺がそれを巣に落とした? 何を根拠にそんな事言ってんだ!」
「だ~か~ら~。あなたがしらばっくれるのなら、このドラゴンに判断してもらったら? 直ぐに分かるわよ?」
そう言うと女性は、おもむろにブッシュの腕を掴んだ。直ぐにドラゴンは渦中の二人に近づいて行く。
なんだ、この違和感は。まるでドラゴンとドレスの女性が茶番劇を繰り広げているかのような不自然さを感じる。腕を掴まれたブッシュは暴れているが、何故か女性のあんなに華奢な手を振りほどけないようだ。
「や、やめろ! 離せ!」
ドラゴンの大きな顔が迫りブッシュは今にも食べられそうな感じだが、誰もそれを止めようとする者はいなかった。いや、止められなかったのだ。それだけドラゴンという生物の圧がすごい。仮に今から止めに入った所で間に合うはずもないのだが。
そして、ドレスの女性はブッシュに再度問う。
「本当の事言いなさいな。罪を認めれば許してくれるかも」
「ふざけるな! 俺は王国御墨付きの冒険者だ。その俺にこんな事して、変な言いがかりまで付けやがって。女でもただでは済まんぞ!」
ブッシュの態度は一変した。今度は女性に威圧的な態度を見せ始めたのだ。そんな中で俺は一人考えていた。
やはりあのドラゴンは、あの時大岩を落とされて怒っていたドラゴン──ジルクレイアなのか? そしてブッシュは本当に岩を落とした犯人なのか?
俺は再度、ドラゴンに話し掛ける。
「なあ。もうやめようぜ。俺の言葉分かるんだろ? お前、ジルクレイアなんだろ?」
俺の言葉が耳に入っていないのか無視しているのか、ドラゴンはこちらを見る事もなく大きく口を広げた。するとブッシュは、驚きで目を丸くして突然グッタリとしてしまった。
「あーあ。気絶しちゃった。しかも漏らしたのね……なんか冷めちゃった。」
喋ったのはドラゴン。ここにきて漸く喋った────そしてプイっと顔を背ける。やはりドラゴンはジルクレイアのようだ。周りの者達には聞こえてなかったようだが、俺には確かに聞こえた。
ドレスの女性にもジルクレイアの声が聞こえたのか、ブッシュを掴んでいた手を離した。
『いたぞ!』
俺がドレスの女性に話しかけようとした時。今更のように王国の騎士団が大勢で押し寄せて来るのが確認出来た。
それを見たドラゴンは翼を羽ばたかせ大空高く舞い上がり、そのまま逃げるように彼方へと飛び去っていった。それを見た周りの者達からは「おぉぉ!ドラゴンを追い返したぞ!」っと大歓声が沸き上がったのだ。
その騒ぎに紛れてハマンが俺の肩をポンっと叩き〝こっちに来い〟というジェスチャーをした。ふとさっきの女性を探したが既に彼女の姿はどこにもなかった。
一気に周囲は多くの王国騎士団と冒険者や町民で大騒ぎになっていて、俺とハマンは騒ぎに紛れて冒険者ギルドの中に入った。
直前で俺を見つけたルカもギルドに入ってきたのだが、ハマンは俺とルカを直ぐにギルドのカウンターの奥にある部屋へと押し込んだのだ────理由はすぐにわかった。
暫くして王国騎士団が大勢ギルドに訪れたのだ。
騎士団は、俺の事や女性の事。そしてドラゴンの事を……尋問するようにハマンに細かく聞いていた。
と、いうのも多くの目撃者が『俺がドラゴンと何か話していた』と言っているらしく、その事で王国騎士団は俺を探しているようだ。
それをハマンは上手く誤魔化してくれた。確かに王国騎士団に色々と聞かれるのは面倒な事だし、あまり下手な事も言えない。こうなる事が分かってて俺をかくまってくれたのだろう。
王国騎士団がギルドを出てから、暫くしてハマンが部屋に戻ってきて開口一番俺に訊ねた。
「おい、坊主。一体どういう事なんだ?」
俺はエデルへ向かう途中でのドラゴンとの経緯を説明したが、ドレスの女性とブッシュの行動に関しては俺もわからないと答えた。ハマンは概ね理解したようで、暫くは王都を離れた方が良いと言う。
その理由はドラゴンが王国にもたらした被害は大きく、それと関わっていたという俺には王国から変な疑いの目がかけられる可能性も高いからだそうだ。
「今日の夜にでも街を出てレイビルに向かえ。護衛の任務の報酬を払うから暫くは食い繋げるだろう。レイビルはエデルの街の少し北にある村だ。そこで俺の知り合いが宿屋をやってるから、何かあれば王都の状況はその宿屋に逐一連絡してやる」
「別に俺は何も悪い事はしてないんですけど……」
「そういう問題じゃねぇ。王国ってのは色々面倒なんだ。坊主も長生きしたかったら黙って言うことを聞いておけ」
半ば強引に諭されたその日の夜。ドラゴンの影響で屋内に籠る者が多いのか、いつになく人のいない寂しげな王都から俺とルカはコッソリと出て行った。
街を出る前、ハマンからEランクの冒険者証を貰った。これがあれば最悪どこの冒険者ギルドでも普通に仕事を受けれるからだ。このタイミングでようやく俺は見習いを卒業したわけだ。
Aランクからは国の承認が必要だが、当分そんな時はこないだろうし。とりあえず冒険者として初めて認められたようで嬉しかった。
ちなみにルカが既にEランクを持っていたという事実もその時に知ったわけだが。これにより名実共にルカと俺は対等になったという事だ。
「そうだ、ルカ。結局、エデルで俺に剣をくれた人に会ってないし探してみよう」
「そうですね。しかし、色々と納得がいきません。ブッシュさんがドラゴンの巣にちょっかいだしたのは本当なんでしょうか? そしてあの女の人は一体誰なんですか?」
あの女性に関しては結果的にウエイトレス──なわけはない。ブッシュの真相に関しても不明だ。とにかく、俺の知らない所で何かが起きているのだろうが。
俺とルカはエデルまでの道中、ずっとその事についてあれこれ考察していた。
そしてエデルまで残り一キロ程になった辺りで、道端に二人の女性が立っているのが見えた。一人は黒と金のドレスを身に纏ったショートヘアーの女性。もう一人は漆黒の長い髪の少女で、半袖とショートパンツというラフな格好をしている。
二人は俺達をジッと見ていた。どうやら、俺達は待ち伏せされていたようだ。ドレスの女性に関しては間違いなく例のウェイトレスなので、とりあえず俺はドレスの女性に話しかけた。
「あの……この前、王都で会いましたよね? それに酒場でも働いてませんでした?」
その答えを言う前に女性は突然、ドレススカートの端を指で摘まみ上げペコリと頭を下げて名乗った。
「私の名前は、グレイピット・ウォーレン。魔族国家『ゼッシュゲルト』の魔王国軍、ダイアモンドブロックの総指令をしてます。先ずはレクセル様に身分を隠して近付いていた事を謝罪させていただきます」
知らない言葉が出てきてサッパリだが、グレイピットと名乗るドレス女性は、横にいる黒髪少女をチラリと見てさらに続けた。
「こっちは我が配下のジルクレイア。彼女がレクセル様に無礼を働いたようですが、その件に関しては私からきつく罰を与えておきましたので」
ジルクレイアって、ドラゴンの名前だろ? いや、グレイピットも何処かで聞いた名前だ。俺の脳内では現在、慌ただしく記憶の整理が行われていた────
0
お気に入りに追加
204
あなたにおすすめの小説
【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!
つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。
冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。
全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。
巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。
召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。
udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。
他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。
その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。
教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。
まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。
シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。
★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ)
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。
ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」
そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。
長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。
アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。
しかしアリーチェが18歳の時。
アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。
それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。
父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。
そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。
そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。
──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──
アリーチェは行動を起こした。
もうあなたたちに情はない。
─────
◇これは『ざまぁ』の話です。
◇テンプレ [妹贔屓母]
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!
パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~
一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。
彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。
全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。
「──イオを勧誘しにきたんだ」
ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。
ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。
そして心機一転。
「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」
今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。
これは、そんな英雄譚。
妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~
紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの?
その答えは私の10歳の誕生日に判明した。
誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。
『魅了の力』
無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。
お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。
魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。
新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。
―――妹のことを忘れて。
私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。
魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。
しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。
なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。
それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。
どうかあの子が救われますようにと。
王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる