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少女は無自覚に周りの者を振り回しているようで……

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 リーメル村への配達を終え王都に戻った俺達は、直ぐに道具屋に向かい依頼完了のサインを貰った。まもなく夜が訪れる。ギルドへの報告は明日にして、俺はルカを宿に送った。その帰り際に彼女が急に言い出した。

「明日の朝、細工屋に行きたいのでギルドへの報告をレクセルさんに任せてもいいですか?」

 細工屋とは確か、アクセサリー等を販売してる店だったはずだ。やはり女の子はお洒落には気をつかうようだ。勿論、彼女がアクセサリーを買うと限ったわけではないが、どのみちそれは些細な問題だ。
 彼女の申し出を快く承諾すると、自分の宿へと帰った。


 ────翌朝。
 今日は俺一人なので急ぐ必要もないのだ。ゆっくり朝食をとってからギルドへ向かった俺だが、中に入ると三人の冒険者がいた。俺はあまり目立たないようにサッサとカウンターのハマンの所へ向かう。

「おう、坊主か。嬢ちゃんはどうした。もう配達は終わったのか?」

「はい。生まれ育った村なんで問題ありません。ルカなら用事があるみたいで、今日は俺一人です」

 ハマンに依頼完了のサインを渡して、今回の報酬を受けとる。前回より少し多めだ。思わず顔が緩む。と、そこにハマンが意味深な笑みを浮かべながら話かけてきた。

「だいぶ慣れてきたみたいだな。そこで一つ依頼があるんだが。どうだ、やってみないか? 今、人手が少なくてな」

 内容を聞くと依頼者の商人を東にある『エデルの街』まで護衛するという内容だった。それは構わないのだが、問題は俺達だけではなく他の冒険者パーティーと合同だという事だ。
 ハマンが黙って、入って来た時からいた三人の冒険者を指差した。彼らが合同の相手というわけか。

 仕事自体は明日出発だと言う。俺は一旦ルカに確認する事にした。ただ、ルカの居場所がわからない。確か細工屋に行くと言っていたな。もうそこにいない可能性もあるが、とりあえず俺は細工屋に向かった。
 すると細工屋が見えてきた辺りで店の方から人が争うような声が聞こえてきた。

「────俺がこれだけ払うって言ってんだ。まだ金額に文句つけるのかよ。それでどこに出した!? 今すぐ教えろ!」

「い、いいえ。金額の問題ではなく。さすがにお預かり物なので、どちらにしても無理なんですよ……」

 女性の店主が背の高いローブ姿の男に胸ぐらを掴まれている。さすがに放ってはおけないので「どうかしたんですか?」と二人の間に割って入り声をかけた。
 店主とローブの男が同時にこちらを見た。すると、ローブの男はブッシュだったのだ。彼は俺の顔を見ると「ちっ!」と舌打ちしてから女性店主を突き飛ばす様に手を離すと、何も言わずに立ち去ってしまった。

「大丈夫ですか? 怪我がなくて良かったですね。一体、何があったんですか?」

 店主は溜め息と共に説明を始めた。
 ブッシュは最初、店主に「珍しい石を預かっただろ?」と言ってきたそうだ。店主は二時間程前に確かに預かっていたらしく。その事を伝えるとブッシュは突然「俺に売ってくれないか?」と言い出したそうな。店主は当然「別のお客さんの物だから出来ない」と答えたらしいのだが。それでもブッシュは執拗に〝売ってくれ〟の一点張りだったとか。
 しかし、どちらにしてもその石は今現在、ここに無いのだと言う。その理由は────

「私も初めて見た石で、加工しようにも下手な事して割ってしまったら大変でしょ? だから一旦、石を成分鑑定に出したのです。
 それを伝えた途端、男が血相変えて「今すぐ返してもらえ」だの「買い取らせろ」だのと迫ってきたんです」

 ブッシュは一体何を考えているのだ。その石に何を求めていたのだろうか? 考えても分からないが、店主は鑑定所の名前までは伝えていないらしい。というか、その前に俺が来た為ブッシュは去っていったのだ。」

 とりあえず解決したのだろうか? また来ないとも限らないが……それより、聞くことがあった事を思い出した。

「ついでに一つ聞きたいんですが、ここに長い金髪の女の子が来ませんでした? 年齢は僕と同じくらいです」

「それなら多分、私に石を預けたお客さんですよ。おそらく商品が出来上がる頃にまた来るんじゃないですかね」

 そうは言われても、店主の話では石の加工時間と成分鑑定から戻る時間を考慮すると五日はかかると言う。そんなに待てるなら明日、宿に会いに行った方が早いではないか。
 俺は「自分で探します……」と言い残して店を後にした。

 それにしても、あまりに偶然だ。石を預けたのはルカで、その石を求めていたのがブッシュだった。そこにどんな繋がりがあるかは考えても分からないが。ルカ本人に聞けば何か知ってるかもしれない。
 結局、振り出しに戻り。俺は引き続きルカを探す事にした。とりあえずもう一度ギルドに戻ってみる事にしよう。もしかしたら、彼女も俺を探してギルドに行ったかもしれない。



 俺は再びギルドに戻って来たがルカはいなかった。しかし、ハマンに彼女が来なかったかを聞くと。確かに来たのだと言う。

「坊主の宿へ行くって言ってたぞ。あと、お嬢ちゃんにも軽く仕事の話をしたら。受けるって言ってたがどうする?」

「そうですか。なら、その依頼でお願いします。出発は明日のいつですか?」

「昼からだ。北門に行ってくれれば、そこに『パスカル商会』の連中が待ってるはずだ。他のパーティーとも仲良くやれよ。まあ、面倒かもしれんがな」

 確かに合同というのが少し引っ掛かる。だが報酬はかなり良いらしいので頑張るしかないだろうと心に言い聞かせる。
 そして俺は再びギルドを出て、ルカを探しに自分の宿に向かった。


 しかし。またしても俺が宿に着いた時には入れ違いだった。宿の主人に、俺宛の伝言が託されていて〝自分の宿に戻ります〟と書いてある。完全に街中をたらい回し状態だが、細工屋の事も聞きたいし、明日の待ち合わせ場所とかも決めないとならない。
 俺はふたたびルカの宿泊している宿へと向かった。俺の宿からルカの宿までは地味に遠い。今日は街の中を随分と歩き回ってかなり疲れた。

 やはり事前に時間を決めてギルドで集まるようにしておけばよかったと後悔しつつも。夕方にはルカの泊まっている宿に到着して、ようやく本日初で彼女と顔を合わせる事が出来たわけだが。
 彼女は俺に一言「どうしたんですか?」と、とぼけた顔で言い放つのだ。

「どうしたっていうか、ルカも俺を探してたんじゃないの?」

「そうでしたけど。もう夕方だし、明日でいいかなぁ……って思って。宿に伝言を残したはずですが、何も聞いてませんか?」

 確かに〝自分の宿に戻ります〟とは伝言にあった。しかし、それがまさか〝もう帰るのでまた明日……〟という意味だとは普通、捉えないのではないだろうか? 俺はルカに問いかける。

「いや。それは聞いたけど。じゃあ、ルカは明日何時に何処で待ち合わせるつもりだったんだ?」

 暫くの沈黙の後、「ああ!それは考えてなかったですね」とひょうひょうと言ってのける彼女に、俺は思わず溜め息を溢してしまった。
 しかし直ぐに、ギルドの仕事の件を改めて彼女に伝えた。護衛の仕事である事や、他パーティーと合同である事などだ。そして最後に俺はルカに一つの提案をしてみた。

「あのさ。こういう事があると不便だし、宿屋は二人とも一緒にしておいた方が良くないか?」

「それは、確かに。でも私はレクセルさんに会って日も浅いし、一応男と女なんですよ?」

 何か勘違いしているようだ。まさかに住むと思っているのでは? ここは訂正しておこう。

「いや。俺が言いたいのは────」

「はうあっ! そうですよね。分かってます! 理解出来なくてごめんなさい!」

 突然ルカは慌てた様子で謝ってきた。どうやら自分の勘違いに気付き、俺が言いたい事を理解したのだろう。護衛の仕事が終わったら、どちらかが宿を移動すれば今後はスレ違いも無くなるだろう。
 そういえば細工屋での話を聞き忘れた。まぁ別に明日でもよいだろう。

 俺は彼女におやすみを言って自分の宿へと戻った。しかし翌日になって俺は思い知るのだ。ルカは、やはり俺の言葉を理解していなかったという事を。
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