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第二章
かんちがい
しおりを挟むマリンルーズでの休暇……というか、手伝いが終わり。
数日ぶりにルウラに戻ったグレンは、その翌日からまたギルドに出勤したわけだが。
「おう、久しぶりの休暇は楽しめたか?」
「ガイさん、おはようございます。ま、まあ。それなりにゆっくりは出来ましたね」
従業員のガイは、基本的に個人のプライベートに口出ししてこないナイスガイだが。
この日は必要以上に聞いてきた。
「フィルネちゃんも家の用事で休んでたらしいけど、まさか二人でどっか行ってたわけじゃないよな? 昔もお前達は休みが被った事あるしなぁ。さすがに俺も軽く疑っちまったんだが? 何かあるなら俺には教えてくれよな」
「何言ってるんですか。たまたまですよ」
ガイはガハハと笑いながらグレンの背中を叩く。
事前にフィルネに、内緒にするように……と言われてなければ普通に答えた所だが。
一体何があると思うのか? と、グレンはガイの意味深な言動に疑問を抱きながらも、いつものように掲示板の前へと向かった。
朝も早くから、既に十人程の冒険者が来店している。
そんな朝イチ冒険者達と共に、数日ぶりに掲示板を見たグレンだが。
新規が殆どで、見事に古い依頼は残っていない。
最近は依頼の流れが順調のようだ。
それでも心配な依頼が全く無いわけではない。
だが、休み明けに数件溜まってる事も想定していたグレンにとっては少しホッとした。
そんな時、「おはよー、グレンくん」と過去一早くギルドに訪れたアリアが挨拶してくる。
元気一杯の笑顔を見ていると、どうやら船旅の疲れは全くなさそうだ。
「おはようございます、アリアさん。早いですね、早速ギルドの依頼探しですか?」
「ううん。とりあえずグレンくんに、お疲れ様とありがとうを言いに来たのよ」
「いや、別に大した事してませんから」
「そんな事ないよ。何日も手伝ってもらったし、何かお礼もしないと、ね」
アリアはグレンに向かって意味深にウィンクする。
おそらくはソティラスの仕事を手伝う、とでも言いたいのだろうが。
大きな声で、この数日間を一緒に仕事していた事を明らかにしてしまう辺りが彼女らしい、とグレンは思っていた。
アリアの声を聞いた回りの冒険者は、皆チラリとこちらを見ている。
それで、グレンは慌ててアリアに耳打ちした。
「アリアさん。あまり大きな声で話すと誤解されますよ?」
「誤解? ああ、そういう事ね。グレンくんは私と誤解されたらイヤ?」
「え……、いや。僕は別に気にしませんけど、アリアさんにはあまり良くないかと」
グレンの返答に、アリアは少し意外そうに目を細めた。
「へえぇ、気にしないんだ。それは私と〝そうなっても〟良いって風に捉えていいのかな?」
「そうなっても、とは?」
「だから。ほら……付き合ってもいいって思ってるのかな? って」
アリアにそう問われ、グレンは少し返答に困った。
付き合うってのは、これからも彼女の仕事を手伝うという事を言っているのだろうが。
考えてみれば、おおっぴらにギルドの従業員が冒険者の仕事を手伝うのは正直良くない。
他の冒険者が聞いて、良くは思わないだろう。
実際、他のギルド支店では従業員と冒険者が手を組んで、実入りの良い仕事を優先して斡旋し。
二人で荒稼ぎするという手口が問題になった事がある。
ギルドは常に公平でなくてはならない。
とはいえ。
アリアには実際に〝割に合わない〟ソティラスの仕事を手伝ってもらっているので、グレンとアリアは対等な立場であるとも言える。
「それはもちろん。アリアさんの事を断る理由はありません。むしろ僕も、そういう関係であれたら良いと思ってますから。ただ、従業員と冒険者という立場なので他の冒険者の人が聞くと、やはりどう思うのか……と」
そうアリアに囁くと、彼女は何故か今まで見たことない程に戸惑ったような顔をした。
顔はもちろん、首まで真っ赤になっている。
「そ、そうなんだ……。それって、私。素直に受け取っていいのかな、、、なんか、今日のグレンくんってさ。何て言うか……積極的だよね?」
「そうですか? 確かに、アリアさんと出会ってから僕は少し変わったかもしれません」
「私は、別に他の誰に知られても構わないよ? でも、グレンくんが気にするなら。隠しておくけど……」
アリアの言葉を聞いて、やはり彼女はいつ口を滑らせてもおかしくないな、とグレンは苦笑いを浮かべる。
ソティラスの仕事は隠さないと意味がない。
今度ゆっくり彼女と話し、再度念押ししておこうと思い、グレンはアリアに言う。
「今度時間作れますか? 誰もいない所で話したいんですが」
「はい。あ、うん。いいよ! 私はいつでも暇だから。今夜とか? 何処にする? 私の宿部屋……とか?」
「ま、まあ。アリアさんが良いなら、それでもいいんですけど」
「マジか……じゃあ部屋を片付けておかなきゃ!」
アリアは慌てた様子でギルドを出ていった。
顔も赤かったし体調が悪かったのだろうか? いつもの彼女らしくないなと、グレンは少し心配になる。
とりあえず夜はアリアと約束したし、今日は依頼を残してカウンターでも手伝う事にしようと思い。
グレンがその場を立ち去ろうとした時、ギルドの扉が開かれて。
素早く何かが店内に駆け込んで来た。
気が付くとグレンの隣には〝ネコ〟がいた。
正確には〝ケットシー〟という獣人族の少女だ。
パッと見れば人のようだが、灰色のショートヘアーの上にピョコンと白い猫耳が生えている。
身長は低めで顔も子供だが、細い身体に似合わない大きな胸が露出多めの服で強調されていた。
グレンはそのネコに見覚えがあり、思わず驚いて声をかけた。
「チャミィ!? どうしてここに?」
「おおおおお! にぃ様。お久しぶりにゃ」
チャミィ・ルザリワルツ──彼女は、リンザール冒険者ギルド本部で一緒に働いていた従業員であり。
〝ソティラス〟専属の情報収集人である。
素早さに特化しており、どんな所にも潜入する。
戦闘力は無いが隠密行動させれば、世界中で密かに暮らすケットシー族のネットワークでどんな武器よりも強力な〝情報〟を手に入れてくる。
だが。
彼女が直接ここに来たという事は、それなりに〝大きな問題〟が何処かのギルドで起きた可能性があるのだ。
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