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ベーチャの協力者
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◇◇◇◇◇
目を覚ました時、ベーチャの身体は森の植物のツタに巻き付かれていた。
周囲を見渡すと遺跡の入り口付近である事がわかる。
近くで仲間が同じ様にツタに絡まれて動けなくなっている。状況が全くわからないが、ベーチャも最後に見た派手なシャツを着た男が、自分達に拳を向けた所から何も思い出せなかった。
「あれから何日経った? おい、誰も動けねぇのか?」
「もう二日近く経ちますがダメです。完全に身動き取れないんですよ」
少し離れた所で遺跡に残した仲間も同じようにツタに拘束されており、彼等の言葉で大体の事情はわかった。
このツタを発生させたのは例の〝派手シャツ〟だという事が。
〝何者だったんだアイツは〟と、ベーチャは強く下唇を噛み締める。
最初は計画通りだった。協力者が遺跡まで冒険者を誘き寄せ、それを盗賊団がむしゃぶり尽くす。
そこまでは上手くいっていた。
ベーチャが思っていた以上の大きな獲物──アリア・エルナードを捕える事も出来た。
彼女を薬漬けにして売り払えば大金貨にして千枚。いや、三千枚は手に入ったはずだ。
では何処で失敗したのかとベーチャは考える。
アリアを拘束した後、二日近く時間を置いた事──そう。結局はそれが間違いだったのかもしれない。
直ぐに森を抜けて港街【シース】に停泊している仲間の奴隷船に乗せてしまえば、派手シャツに追い付かれる事はなかっただろう。
アリアという大きな収穫を得た事に浮かれ、ベーチャの心に油断が生じていたのは確かだ。
いつものように身ぐるみ剥がして始末するだけならこんな失敗は起きていない。
「それにしても応援来るの早すぎでしょ。ルウラの街まで片道二日はかかりますからね」
「確かに。あの派手シャツは偶然通りかかった冒険者って感じでもなかったな……」
「逃がした奴らがルウラまで応援呼びに戻るのに二日って考えたら、あの男は入れ違いで森に来た事になりますよ?」
まさにそこがベーチャの見込み違いだった。
あの時ベーチャ達はアリアを含む合計四人の冒険者の寝込みを襲ったのだ。
事前に協力者がアリア達に強力な睡眠効果のあるパンを渡しているはずなので、簡単には起きない事を見越しての襲撃だった。
しかし、アリア以外の三人はかろうじて意識があり逃げられてしまったのだ。
逃げた三人が仲間を連れて報復に来る事くらいベーチャにも予想出来ていたのだが、その時間を読み違えた。
ベーチャの考えでは、奴らがルウラに戻るのに二日、仲間を連れてここに戻るのに二日で、最低四日程はかかる計算だった。
だからこそベーチャは、ノンビリ二日近く遺跡で過ごしていたのだ。
とりあえず逃げたい所だったが、ベーチャ達を拘束しているツタは相当太く。身体を動かそうとしても全く動かない。
「ベーチャさん! 誰か来ますぜ!」
ベーチャは耳をすました。
かなり多くの馬の足音が聞こえる。この辺りで馬で移動する者は騎士団か商人のキャラバンだが、キャラバンの足の速さではない。
だとすると答えは一つ。程なくして銀色のフルプレートアーマーに身を包んだ王国の騎士達が現れた。
既に拘束状態にあるベーチャは、諦めのタメ息を漏らした。
それより驚くべきは、騎士達と共にアリア・エルナードがいた事だ。
彼女は二日前に〝派手シャツ〟によって奪われた。
それが今、騎士と共にここにいる事はまたしても時間的におかしい。
騎士団に混じっていたのはアリアだけではない。
アリアを襲った時に逃がしてしまった三人のうちの一人も見えた。
ベーチャは、その男──背中に高価そうなロングソードを担いだ男に話し掛けた。
「よう。今さら何しに来た。ピンクストライプの派手シャツはどうしたんだ?」
「あ? 何の話だ? しっかし、ざまあねぇな。俺達の寝込みを襲った奴らが、まさかこんな無様な状態だとはな……」
「けっ。とぼけるのかよ。まあいいけどな」
ベーチャには色々と不可解な事が多かったが、今となってはどうでもよい事である。
既に全てを理解したのだ。自分は嵌められたのだという事を。
考えれば簡単な事だった。
アリアを助けにきた派手シャツの男が、自分達が逃がした三人と入れ違いでここに来たと考えれば答えは一つ。
ベーチャの協力者が遺跡に冒険者を誘導する時に、時間差で派手シャツの男もアリアの奪取によこしたという事だ。
そうすればベーチャが冒険者を襲った後、油断している自分達を派手シャツに襲わせられる。
ただ、協力者がそんな裏切りをする理由がベーチャにもわからなかった。自分の首にかかった賞金だろうか?
「私は王国第一騎士団副長のバーレン・イサックだ。ベーチャ・ラーマ。リベリオン王国の法により貴様達を牢獄に監禁。しかるのち処分する。だがその前に聞きたい事がある。お前には他に協力者がいるのか?」
さすがに騎士団は鋭い、とそうベーチャは思ったが。騎士団に言われるまでもなく裏切り者は道連れにするつもりだ。
急にアリアがズイッと前に出た。
その表情は二つ名にある聖女というより、裁きをくだす神のように険しくベーチャには見えた。
「さあ、ここで白状して。あなたはレオン達と共謀して私を襲ったんでしょ!」
ベーチャにはまるでアリアの言葉の意味が分からなかったが、もとより自分を裏切った者を許すつもりはない。
何の躊躇いもなく裏切り者の名を告げた────
目を覚ました時、ベーチャの身体は森の植物のツタに巻き付かれていた。
周囲を見渡すと遺跡の入り口付近である事がわかる。
近くで仲間が同じ様にツタに絡まれて動けなくなっている。状況が全くわからないが、ベーチャも最後に見た派手なシャツを着た男が、自分達に拳を向けた所から何も思い出せなかった。
「あれから何日経った? おい、誰も動けねぇのか?」
「もう二日近く経ちますがダメです。完全に身動き取れないんですよ」
少し離れた所で遺跡に残した仲間も同じようにツタに拘束されており、彼等の言葉で大体の事情はわかった。
このツタを発生させたのは例の〝派手シャツ〟だという事が。
〝何者だったんだアイツは〟と、ベーチャは強く下唇を噛み締める。
最初は計画通りだった。協力者が遺跡まで冒険者を誘き寄せ、それを盗賊団がむしゃぶり尽くす。
そこまでは上手くいっていた。
ベーチャが思っていた以上の大きな獲物──アリア・エルナードを捕える事も出来た。
彼女を薬漬けにして売り払えば大金貨にして千枚。いや、三千枚は手に入ったはずだ。
では何処で失敗したのかとベーチャは考える。
アリアを拘束した後、二日近く時間を置いた事──そう。結局はそれが間違いだったのかもしれない。
直ぐに森を抜けて港街【シース】に停泊している仲間の奴隷船に乗せてしまえば、派手シャツに追い付かれる事はなかっただろう。
アリアという大きな収穫を得た事に浮かれ、ベーチャの心に油断が生じていたのは確かだ。
いつものように身ぐるみ剥がして始末するだけならこんな失敗は起きていない。
「それにしても応援来るの早すぎでしょ。ルウラの街まで片道二日はかかりますからね」
「確かに。あの派手シャツは偶然通りかかった冒険者って感じでもなかったな……」
「逃がした奴らがルウラまで応援呼びに戻るのに二日って考えたら、あの男は入れ違いで森に来た事になりますよ?」
まさにそこがベーチャの見込み違いだった。
あの時ベーチャ達はアリアを含む合計四人の冒険者の寝込みを襲ったのだ。
事前に協力者がアリア達に強力な睡眠効果のあるパンを渡しているはずなので、簡単には起きない事を見越しての襲撃だった。
しかし、アリア以外の三人はかろうじて意識があり逃げられてしまったのだ。
逃げた三人が仲間を連れて報復に来る事くらいベーチャにも予想出来ていたのだが、その時間を読み違えた。
ベーチャの考えでは、奴らがルウラに戻るのに二日、仲間を連れてここに戻るのに二日で、最低四日程はかかる計算だった。
だからこそベーチャは、ノンビリ二日近く遺跡で過ごしていたのだ。
とりあえず逃げたい所だったが、ベーチャ達を拘束しているツタは相当太く。身体を動かそうとしても全く動かない。
「ベーチャさん! 誰か来ますぜ!」
ベーチャは耳をすました。
かなり多くの馬の足音が聞こえる。この辺りで馬で移動する者は騎士団か商人のキャラバンだが、キャラバンの足の速さではない。
だとすると答えは一つ。程なくして銀色のフルプレートアーマーに身を包んだ王国の騎士達が現れた。
既に拘束状態にあるベーチャは、諦めのタメ息を漏らした。
それより驚くべきは、騎士達と共にアリア・エルナードがいた事だ。
彼女は二日前に〝派手シャツ〟によって奪われた。
それが今、騎士と共にここにいる事はまたしても時間的におかしい。
騎士団に混じっていたのはアリアだけではない。
アリアを襲った時に逃がしてしまった三人のうちの一人も見えた。
ベーチャは、その男──背中に高価そうなロングソードを担いだ男に話し掛けた。
「よう。今さら何しに来た。ピンクストライプの派手シャツはどうしたんだ?」
「あ? 何の話だ? しっかし、ざまあねぇな。俺達の寝込みを襲った奴らが、まさかこんな無様な状態だとはな……」
「けっ。とぼけるのかよ。まあいいけどな」
ベーチャには色々と不可解な事が多かったが、今となってはどうでもよい事である。
既に全てを理解したのだ。自分は嵌められたのだという事を。
考えれば簡単な事だった。
アリアを助けにきた派手シャツの男が、自分達が逃がした三人と入れ違いでここに来たと考えれば答えは一つ。
ベーチャの協力者が遺跡に冒険者を誘導する時に、時間差で派手シャツの男もアリアの奪取によこしたという事だ。
そうすればベーチャが冒険者を襲った後、油断している自分達を派手シャツに襲わせられる。
ただ、協力者がそんな裏切りをする理由がベーチャにもわからなかった。自分の首にかかった賞金だろうか?
「私は王国第一騎士団副長のバーレン・イサックだ。ベーチャ・ラーマ。リベリオン王国の法により貴様達を牢獄に監禁。しかるのち処分する。だがその前に聞きたい事がある。お前には他に協力者がいるのか?」
さすがに騎士団は鋭い、とそうベーチャは思ったが。騎士団に言われるまでもなく裏切り者は道連れにするつもりだ。
急にアリアがズイッと前に出た。
その表情は二つ名にある聖女というより、裁きをくだす神のように険しくベーチャには見えた。
「さあ、ここで白状して。あなたはレオン達と共謀して私を襲ったんでしょ!」
ベーチャにはまるでアリアの言葉の意味が分からなかったが、もとより自分を裏切った者を許すつもりはない。
何の躊躇いもなく裏切り者の名を告げた────
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